理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1126
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理学療法基礎系
立ち上がり動作時の重心前方移動量と下肢筋力及び年齢との関連性
*三好 圭木村 貞治横川 吉晴草田 美子
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抄録

【はじめに】
 椅座位から立ち上がるという動作は,最も頻繁に行われている日常生活動作の一つである.高齢者においては,この立ち上がり動作時に,十分な前方への重心移動が行えず,ソファー,便器などからの立ち上がり時に不安や困難感を感じる者が多いとされている.また,重心移動の不足が,立ち上がり動作時の転倒に関連するという報告もある.そこで,本研究においては,椅子からの立ち上がり動作時の重心の前方移動量と加齢や下肢筋力との関連性がどの程度あるのかを明らかにし,転倒予防の指針を検討することを目的とした.
【対象】
 長野県A村で実施された健康教室参加者のうち,介助や支持物なしで椅子からの立ち上がり動作が可能で,メニエール病や重度の骨関節疾患や中枢神経疾患などを有さない275名(男性49名,女性226名)を対象とした.年齢は,30歳から86歳で平均65.1歳であった.全対象者から,研究に対するインフォームドコンセントが得られた.
【方法】
 1)重心最大前方移動量:椅子からの立ち上がり動作時の重心の最大前方移動量(peak)を,重心動揺計(アニマ社製,SG-1)を用いて測定した.立ち上がり動作は,股関節と膝関節90度,足関節0度になるよう高さ調節が可能な椅子から,上肢を体側に垂らした状態で閉足位にて立ち上がるように指示した.測定時,バランスをくずした際にすぐに介助できる態勢をとった.重心動揺計からのアナログ信号は,A/D変換し多用途生体情報解析プログラム(キッセイコムテック製,BIMUTAS-II)に取り込みpeakを求め足長で正規化(%peak)した.2)下肢筋力:等尺性筋力測定装置(OG技研製,GT-30)を用いて,椅座位(膝関節90度屈曲位)での最大等尺性膝伸展筋力を測定した.測定は左右2回ずつ行い,高い方の値を体重で除した値(WBI)を算出し,左右の平均値を求めた.3)統計処理:SPSS(SPSS 11.0J for Windows)を用いて,%peakと年齢及びWBIとの関連性をPearsonの相関係数を用いて解析した.有意水準は5%とした.
【結果】
 %peakとの関連性は,年齢がr=-0.325,WBIがr=0.234と共に有意な相関が認められた(p<0.01).また,年齢とWBIとの関連性もr=-0.648と有意な相関が認められた(p<0.01).
【考察とまとめ】
 先行研究において,高齢者は若年者と比較して,殿部離床時の身体重心の最大水平速度が遅くなると報告されている.このことから考察すると,本研究において加齢と共に重心最大前方移動量が減少した背景としては,下肢筋力の低下に伴って,殿部離床時の前方推進力が低下するとともに,体幹の最大前傾位以降における姿勢制御能力が低下することが影響しているものと考えられる.以上より,高齢者における立ち上がり動作時の転倒や不安を減少させるためには,抗重力筋群の筋力増強運動や,正しい構えを指導することが重要であると示唆された.

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© 2005 日本理学療法士協会
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