抄録
【はじめに】
慢性期頚髄損傷者では胸郭運動は減少し、肺活量の低下が生じると言われる。この胸郭運動の評価のひとつとして胸郭拡張差の測定がある。これは最大吸気位と最大呼気位の胸郭の周径差を算出するものであり比較的簡便にメジャー等を用いて測定できる。一方、肺活量はスパイロメーターによるスパイログラム等によって測定される。
【目的】
慢性期頚髄損傷者の胸郭運動について胸郭拡張差及び肺活量の各測定値と両測定値の関係から考察を行う。
【方法】
1.11名の慢性期頚髄損傷者に車椅子座位にて乳頭位における胸郭拡張差を測定する。
2.スパイロメーターにより11名のスパイログラムを測定する。尚、測定にはCHESTAC-55Vを使用し測定は熟練した臨床検査技師が施行した。測定値は%VC値を採用する。
【結果】
1.11名の胸郭拡張差は最大1cm,最小-1.5cmであった。
2.11名の%VCは10名が80%以下であった。
3.11名の胸郭拡張差と肺活量(%VC)の間には相関が無かった。(p<0.05)
【考察】
今回の胸郭拡張差の測定において、最大吸気位、最大呼気位の差から三つのタイプが考えられる。一つは胸郭拡張差がマイナス、二つめはプラス、三つめはゼロである。
通常と異なり呼気筋の麻痺により慢性期頚髄損傷者は最大吸気において横隔膜及びその他の補助筋(肋間筋を除く)の収縮により、胸郭をわずかに拡大、あるいはわずかに縮小し、あるいは変化しないままこのわずかな運動を補うべく腹部が前方突出する状態で発生する。また、最大呼気は腹筋、肋間筋が収縮することなく、胸郭がわずかに拡大、あるいは縮小、あるいは変化しないまま発生する。
更に、これら胸郭拡張差と肺活量の間には相関は無かった。慢性期頚髄損傷者に対する呼吸理学療法には、呼吸介助法、肋間筋ストレッチ、関節モビライゼーション等いくつかのアプローチが呼気を中心に行われるが、上記三つのタイプを考えた場合全てに同様のアプローチを施行すべきであろうか。
今後、慢性期頚髄損傷者の呼吸運動の更なる解明が進み同時に呼吸理学療法がますます発展する事を期待する。