抄録
【目的】骨格筋の構造や機能に及ぼす不活動の影響は,主に後肢筋を用いて検討されている。代表的な不活動モデルとして,ギプス固定モデルや尾部(後肢)懸垂モデル,腱切除モデル,除神経モデルなどが挙げられる。なかでも除神経モデルは他の萎縮モデルに比べ筋タンパクの合成は顕著に抑制されるが分解はわずかであり,筋萎縮に及ぼす影響がもっとも大きいといわれている。本研究は,ラットの除神経後4週経過したにも関わらず,選択的筋肥大が観察されたので報告する。
【方法】9週齢Wistar系雄性ラットを用いた。1週間の環境適応後開腹術を施行し,両側横隔膜costal部に銀線電極を刺入しEMGを計測した。その後,頚部前方正中位より4cm切開し,横隔神経を露出し神経切除術を施行した。手術後2週および4週に横隔膜costal部を摘出しミオシン重鎖(以下,MHC)分子種に対する免疫組織化学染色およびSDS-PAGEを施した。評価項目は筋電図解析,筋線維横断面積,筋線維組成比,ミオシン重鎖構成比とした。なお,本実験は広島大学医学部動物実験施設倫理委員会の承認のもとに行った。
【結果】片側横隔神経切除により左横隔膜の活動が消失した。また同時に右横隔膜の筋活動は時間的割合(Duty time),放出量(Root Mean Square :RMS)ともに増大した。また,除神経された横隔膜筋線維のMHC1が相対的に増加した。筋線維横断面積もMHC1およびMHC2a分子種の筋線維に萎縮抑制もしくは肥大が生じた。
【考察】一般に除神経により筋線維はslow to fast transition,筋活動の増大(持久性負荷)によりfast to slow transitionが生じるとされている。今回使用した横隔膜は,遅筋線維と速筋線維が混在した筋線維である。また,左右の横隔膜が腱中心部で融合した1枚の膜状筋であり,その活動は呼吸活動における吸気筋として最も貢献している。その活動様式も特徴的であり,両側が効率良く同期して収縮する。片側横隔神経切除により同側の横隔膜筋は麻痺を生じ,不活動となる。しかし,対側の横隔膜が収縮することによりストレッチが負荷される。この特徴的な現象により麻痺した筋において選択的筋肥大や筋線維の遅筋化が生じたと推察する。筋線維タイプのslow化によって身体機能や作業遂行能力に良い影響をもたらすか否かは議論の余地があるが,麻痺筋にも関わらず,遅筋線維が萎縮を引き起こさなかったことは,呼吸性間歇的ストレッチが筋萎縮の抑制効果あるいは筋肥大の促進効果として有効な治療手段となる可能性を示唆するものである。