理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 50
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神経系理学療法
正常圧水頭症における運動障害の特徴
*石井 光昭伊藤 清弘田代 弦秋口 一郎
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抄録

【目的】正常圧水頭症(以下NPH)の運動障害の評価方法として確立したものはない。NPHはパーキンソン症候群に類似した症状を呈することから、当院ではUnified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)の運動能力検査を用いて理学療法士が脳室腹腔短絡術(以下VPシャント)前後の評価を実施している。本研究の目的は、UPDRSを用いてNPHの運動障害の特徴を明らかにすること、ならびに歩行障害への対策を検討することである。
【対象】三徴候(歩行障害,尿失禁,痴呆),画像上の脳室拡大(Evans index)・傍脳室低吸収域の有無等からNPHが疑われ当院に入院した9名。男性5名,女性4名。平均年齢75.6歳。特発性7名,くも膜下出血後の続発性2名。術前のJapanese NPH grading scale-revised(JNPHGS-R)における歩行障害の重症度は、2度4名,3度4名,4度1名であった。
【方法】1.Unified Parkinson's Disease Rating Scale(UPDRS)の運動能力検査を、術前とVPシャント後1週時点に実施した。(1)術前後の総得点の平均値を比較した。統計学的検定には、対応のあるt-検定を用いた。(2)各項目ごとに中央値を算出し、項目間の比較をおこなった。(3)各項目ごとの術前後の比較を、Mann-Whitney検定を用いておこなった。2.術後にも後方への不安定性が残存していた症例のうち二症例に対して、踵部補高の有無による10m歩行の所要時間と歩数を比較した。
【結果】1.総得点は術前21.6 ±9.6点 から術後13.6±9.2点へと有意な改善を認めた(p<0.001)。術前評価では、椅子からの立ち上がり,歩行,姿勢の安定性(後方突進現象)における障害が顕著な傾向にあった。術前後の各項目の比較では、これら3項目において有意な改善を認めた(p<0.05)。姿勢の安定性は、他の項目に比べてシャント術後にも症状が残存する傾向がみられた。2.踵部補高によって二症例ともに、10m歩行の所要時間の短縮,歩数の減少を認めた。
【考察】NPHの運動障害に関する報告の多くは、歩隔の拡大,足挙上の低下,歩幅の減少といった歩行障害の特徴についてのものである。本研究の結果は、椅子からの立ち上がり,姿勢の安定性の障害も、術前にその障害が顕著であり,そしてVPシャントによって改善がみられることから、NPHの運動障害の特徴であることを示している。踵部補高によって10m歩行の歩数と所要時間が改善されたことから、姿勢の安定性の障害が顕著な症例では、姿勢の後方への不安定性が小刻み歩行や歩行速度の低下と関連していること,ならびに踵部補高はNPHの歩行障害に対する有益な方策となり得る可能性があることが示唆された。

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© 2005 日本理学療法士協会
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