理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 62
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神経系理学療法
慢性期脳卒中患者に対するMirror Therapyの試み
―シングルケースデザインによる検討―
*肥田 光正岡 真由美代 智恵子福島 祐子原 真理子高取 克彦梛野 浩司庄本 康治松尾 篤
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抄録

【はじめに】Mirror Therapy(以下MT)はRamachandoranが幻肢痛を持つ患者に実施した治療である。これは視覚的錯覚を用いた運動イメージ練習で、脳卒中患者にも応用可能である。先行研究では、MTの効果を報告しているものも存在するが、その数は少ない。我々は慢性期脳卒中患者にMTを実施し、若干の知見を得たのでこれを報告する。
【対象】53歳男性で、平成15年脳出血を発症した。運動麻痺はブルンストロームステージ右上肢IV、手指IVであった。表在・深部感覚は右手指に軽度鈍麻を認めた。日常生活動作(以下ADL)での右上肢の参加はなく、廃用手レベルであった。外来での理学療法(以下PT)を週2回実施していた。
【方法】ABデザインで検討した。参加前に、患者には口頭説明を十分に行い自由意志による同意を得た。右上肢機能はFugl-Meyer Assessment(以下FMA)を用いて評価した。また、自動関節可動域、握力、Motoricity Indexも評価した。関節可動域測定はゴニオメーターを用いて測定し、握力はSMEDLEY'S HAND DYNAMO METERを用いて、週毎に2回測定を実施し、その平均を測定値とした。介入前にこれらを評価した後、7週間、通常のPTと在宅のMTを実施した(A)。次に通常のPTのみを実施した(B)。在宅でのMTは週に5回以上、1日30分程度行うよう指導した。実施状況を受診時に患者と家族から聴取した。測定は1週毎に実施した。
【結果】本介入を通じて、FMAの肩・肘・前腕スコア、感覚、他動可動域・関節痛スコアの改善は見られず、自動関節可動域、握力、Motoricity Index、ADLの改善も見られなかった。しかし介入前とAの比較では、FMAの手関節・手のスコアが6点から17点へ改善した。しかし、Bの期間には17点から8点へ低下した。在宅では概ね指導した頻度を実施していた。
【考察】先行研究と同様、本症例でもFMAの手関節・手のスコアは改善した。この点についてAltschulerらは、鏡による視覚的フィードバックによって前運動皮質を回復させた可能性があると述べており、本症例でもその可能性が示唆された。しかしADLの改善は見られなかった。これはスコアの改善度が、巧緻性が高度に要求される前腕から手指のADLに貢献するには不十分な改善度であったためと思われる。さらにMTは麻痺側上肢遠位部に対する治療であり、肩などの上肢近位部のスコアが変化しなかったことも原因と考えられる。またMTにより改善したスコアが、Bの期間に低下した。この点については先行研究では報告されていない。しかし、Bの期間に上肢を使用しない以前の習慣に戻ったために生じた影響が推察された。

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© 2005 日本理学療法士協会
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