抄録
【目的】脳卒中患者に適切な移動手段を獲得させることは、理学療法(以下PT)アプローチの重要な課題である。そのため、より早期からの的確な歩行の予後予測は重要な情報となる。当院の豊倉らは、被殻・視床出血患者において発症からリハビリテーション(以下リハ)開始後2週の時点で、比較的高い精度の予測が可能であると報告した。そこで今回、既報告とは別の症例を対象とし、予後予測の妥当性を検討したので報告する。
【対象】1998年8月~2004年1月の間に当院へ緊急転入院した被殻出血患者58例と視床出血患者35例の計93例(男性50例、女性43例)を対象とした。平均年齢は62.0±10.7歳、平均在院日数は113.7±71.9日であった。対象の条件は1)中枢神経障害の既往がない、2)発症前のADLは自立、3)発症後、急性期から当院にてPTを施行、4)移動能力がほぼゴールに至って退院した症例とした。
【方法】既報告の予後予測式は、発症時の1)年齢、2)GCSとリハ開始から2週後の3)Br.stage、4)基本動作能力(座位不可、座位可、立位可の3段階に分類)の計4因子を説明変数とするロジスティック回帰式である。算出された確率値(0~1)は0に近いほど車椅子ゴール、1に近いほど歩行自立の可能性が高い。予後は「屋内歩行自立」(確率値0.5以上)、「車椅子レベル」(同0.5未満)に2分して予測する。予測式の妥当性の指標として、予測と実際の退院時移動能力とが一致した割合(以下一致率)を検討した。
【結果】屋内歩行自立と予測された48例中44例、車椅子レベルと予測された45例中39例が実際の退院時移動能力と一致した。それぞれ一致率は91.7%、86.7%(全体では89.3%)であった。年齢別に一致率をみると、59歳以下では81.4%、60歳~79歳では全例一致、80歳以上は71.4%となった。また、確率値を4群に分けて一致率をみると(確率値:一致率で示す)0~0.25:89.7%、0.25~0.5:66.7%、0.5~0.75:80%、0.75~1:94.7%となった。
【考察】今回、既報告とは別の症例に予測式を用いたところ、予測と実際の退院時移動能力の一致率は既報告(86%)とほぼ合致していた。このことより、発症からリハ開始後2週の時点で被殻・視床出血患者における歩行の予後予測が比較的高い精度で可能であることが確認された。しかし、年齢が59歳以下の若年者群や80歳以上の高齢者群、予測確率値が0.5付近の症例においては一致率がやや低値を示していた。これらは統計処理上の特性を反映した結果とも考えられ、その点を考慮した上での臨床応用が望まれた。