抄録
【目的】脊髄損傷者において車いす座位は日常長時間行う姿勢である。したがって車いす上での除圧は合併症である褥瘡を予防する上で重要である。臨床的にはその方法はいくつか指導されているが効果に関しての客観的な研究は少ない。今回車いす上にて4種類の除圧姿勢での坐骨部座面圧力値(以下座圧とする)を測定し、その効果を検討したので報告する。
【方法】対象は当センター入院中の慢性期脊髄損傷者12名(頸髄損傷者3名、胸・腰髄損傷者9名、女性7名、男性5名)である。方法は脊髄損傷者に自然な車いす上座位および4つの除圧姿勢を指示し、坐骨部の圧力を測定した。基本姿勢は両上肢を膝の上にのせた車いす上座位(以下基本座位とする)である。除圧姿勢は1.車いすのフレームの下方に手部が届くよう上体を前方に倒し、体重を前方に移動させる姿勢(以下前屈位とする)、2.一側上肢を左アームレストまたは左駆動輪におき、上体を側方に倒して体重を側方移動させる姿勢(以下側屈位とする)、3.車いすの握り手に一側上肢(左)を引っかけ上体を後側方に倒した姿勢(以下引っかけ位とする)、4.車いす座位のまま介助者にて車いす自体を35度後方に倒した姿勢(以下後方傾斜位とする)である。計測には、ニッタ(株)製圧力計測装置Teskcan Pressure Measurement Systemを使用した。この装置のセンサ部である49cm×59cmのBIG-MATシートでは同時に2,064点の圧力が計測できる。得られた圧力に関するデーターから左右坐骨結節部の座面最高圧力値を算出した。なおセンサのクリープの影響を考慮し、着座後1分間後に圧力計測を行った。
【結果】基本座位では右坐骨部圧力150.0±77.7mmHg、左坐骨部圧力152.0±70.9mmHgであった。前屈位では右坐骨部圧力47.8±42.1mmHg、左坐骨部圧力48.0±29.6mmHgであった。側屈位では右坐骨部圧力59.8±23.1mmHg、左坐骨部圧力97.9±52.2mmHgであった。引っかけ位では右坐骨部圧力134.7±62.5mmHg、左坐骨部圧力124.5±38.5mmHgであった。後方傾斜位では右坐骨部圧力120.7±70.7mmHg、左坐骨部圧力124.6±58.6mmHgであった。
【考察】基本座位と4種類の除圧姿勢において左右坐骨部圧力をT-検定にて比較したところ左右共に前屈位との間に、右坐骨部圧力において側屈位との間に危険率1%で有意差がみられた。また、左坐骨部圧力において側屈位との間に危険率5%で有意差がみられた。臨床的には車いす上の除圧姿勢はプッシュアップ以外には体幹の前屈・側屈・後方傾斜などが指導される。特に頸髄損傷者の場合、座位バランスも考慮され引っかけ位が指導される場合も多い。今回、左右坐骨部圧力にて前屈位と側屈位にて有意差が見られた。しかし側方に体幹を傾ける引っかけ位において有意差は見られず、除圧には体幹の傾斜角が大きく関与していると思われる。よって、坐骨部圧力の観点からすると臨床での除圧姿勢は前屈位と左右側屈位を指導することが望ましいと考える。