抄録
【はじめに】脊髄損傷者にとって、褥瘡は重大な合併症の一つである。今回、脊髄損傷を受傷後30数年目にして初めて褥瘡を形成した症例を経験した。褥瘡発見から約2ヶ月間、治癒しない状態であったが、入院して理学療法開始後、約2週間で創治癒した。一連の経過よりPTの関与が創治癒の一助となったと考えられたので、本症例に対する評価と経過を考察を交えて報告する。
【症例紹介】63歳男性、25歳のときに脊髄損傷受傷、Th6レベルの対麻痺。Frankelの分類はB。体重103kg。日常生活はすべて自立。シートクッション(以下クッション)は厚さ10cmのラテックスクッション、車いすは日本ウィールチェア社製車いすを使用している。
【経過】平成16年7月頃より尾骨左側方に褥瘡発生、9月27日、睡眠時無呼吸症候群の精査目的に当院入院。10月4日理学療法開始。入院時における褥瘡の状況は、尾骨の左側約二横指の位置に、大きさ約4×2cmであった。重症度は厚生省の分類で2度であった。初回の問診より、車いす乗車時間は一日10時間以上で入院後も変化がないこと、昨年度末で仕事を退職したこと、趣味が囲碁であることなどがわかった。PTは褥瘡を目視により確認した。3回目の問診で、褥瘡ができる一ヶ月前にクッションを変更し、厚さ7センチのラテックスクッションを試用したことと、褥瘡発生後、現在のクッションに戻したが、褥瘡は改善しなかったことがわかった。そこで、定量的に座圧を把握するために、簡易座圧計を使用して尾骨部の左右両側の座圧を計測した。結果は左右とも80から100mHgであった。そこでクッションをROHOクアドトロセレクトに変更して計測したところ、60から80mHgと約20%減少したため、このクッションを貸し出した。週2回、目視により褥瘡のチェックを行い、創治癒に向かっていることが確認できたことから、クッションの使用を継続した。その結果、10月18日には褥瘡はほぼ治癒した。
【考察】問診により、本症例の褥瘡発生の原因を、クッションを変更したことと、囲碁を打つときに左寄りの姿勢をとるために生じる座圧の集中と仮説を立てた。また、現在使用しているクッションでは右側には褥瘡ができていないことから、このクッションでは褥瘡を形成するほど座圧は高くないが、形成した褥瘡を治癒に向かわせるほど低い座圧ではないと考えた。これらの評価と仮説に基づいて褥瘡の原因を推測し、クッションを変更したことが、褥瘡を治癒に向かわせることにつながったと考えられる。本症例を通じてPTの評価で重要な点が挙げられる。自分の目で褥瘡を確認して経過を追うこと、問診では褥瘡発生前後における生活の変化を徹底的に探ること、定量的に圧力を計測することである。本症例を通じて、十分な評価のもとに車いすやクッションを選択することは、褥瘡の治療に寄与することが示唆された。