抄録
【はじめに】近赤外線分光(NIRS)を用いた脳機能計測画像(光イメージング)によって、痙直型両麻痺児の歩行に伴う内側一次感覚運動野の賦活を捉え、第39回日本理学療法学術大会において報告した。賦活の程度が骨盤操作によって変化することが示唆されたため、今回、骨盤操作が大脳皮質の活動に与える影響を検討することを目的に、セラピストの骨盤操作に伴う大脳皮質酸素化ヘモグロビン濃度(oxyHb)の変化を測定した。
【対象】歩行機能向上を目的として集中治療もしくは下肢手術のために当院に入院した、脳質周囲白質軟化症による痙直型両麻痺児。光イメージングによって、安静立位時に対して歩行時に明らかな内側一次感覚運動野のoxyHbの増加を認めた7例を対象とした。対象児は5~11歳で、男児4例、女児3例、両側短下肢装具装着下の日常歩行機能は独歩2例、両側杖歩行4例、歩行器歩行1例であった。
【方法】光イメージング装置はマルチチャンネル酸素モニタOMM2001(島津製作所)を使用し、大脳皮質oxyHbを前頭頭頂部を中心に36チャンネルで同時記録し、安静時に対する歩行時のoxyHbの変化を3回の課題で加算平均した。課題は両側手すりを把持しての時速0.2~2.0km、20~30秒間のトレッドミル歩行で、前後に15~20秒の安静立位時間をとり、3回を1セットとした。治療的介入として、トレッドミル上で下肢の振り出しを促す骨盤操作を行った。課題は3例で骨盤操作なし-ありの2セット、4例で骨盤操作なし-あり-なしの順に3セット行い、内側一次感覚運動野におけるoxyHbの変化量(ΔoxyHb)を操作前・中・後で比較した。歩行の指標として、歩行ケイデンスをビデオ撮影によって記録し、検討した。本研究は倫理委員会の承認を経て、文書を用いて保護者に説明し、同意を得た上で行った。
【結果】7例全例で、骨盤操作中に内側一次感覚運動野のΔoxyHbは操作前に比べて明らかに低下した。骨盤操作後の課題が遂行できた4例では、操作後もΔoxyHbは操作前に比べて低下した状態で維持された。内側一次感覚運動野以外の部位では、骨盤操作の前後で明らかなΔoxyHbの変化はなかった。ケイデンスは7例中6例で骨盤操作中に減少した。操作後は4例中3例で操作前よりも減少し、1例は操作前と有意な差を認めなかった。ΔoxyHbの変化の程度とケイデンスの変化の程度に明らかな相関は認めなかった。日常歩行機能レベルとΔoxyHbの変化に関連はなかった。
【考察】治療的介入の一つと考えている骨盤操作が、脳性麻痺児の歩行に伴う内側一次感覚運動野の皮質活動およびケイデンスを変化させ、その後の歩行にも影響を与えることが示唆された。短時間ではあるが、大脳皮質に対する治療効果の持続が、光イメージングによって検出され得ることが示された。