理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 278
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神経系理学療法
前頭眼窩野の障害における理学療法アプローチ
*佐々木 晴香山中 智美中島 由美伊勢 昌弘橋本 康子吉尾 雅春
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抄録

【はじめに】今回、頭部外傷により前頭眼窩野の障害を負った症例に対し、障害部位から考えられる理学療法アプローチについて検討した。
【症例紹介】症例は39歳、男性。H15.12.22交通事故にて外傷性クモ膜下出血、脳挫傷を受傷。保存的療法を行うが、2週間の意識障害が続く。H16.3.2より他院での理学療法開始。H16.8.4当院へ転院となり理学療法開始。既往歴として右大腿骨頸部骨折(H14.12)がある。
【開始時所見】MRI flare画像より前頭極から前頭眼窩野(area11)にかけて高信号を認める。運動機能面:著明な運動麻痺は認めない。ROM右股関節屈曲60°外転10°外旋25°内旋5°右膝伸展-20°。特に右下肢の筋緊張の亢進が著しく、骨盤の分離した動きは困難。座位時、骨盤は後傾し頚部・体幹の伸展もみられず、常にうつむいている。立位では頸部は右前方に屈曲、体幹は右側屈位。歩行時には、右下肢立脚期に体幹右側屈が増強し、さらに両下肢の内旋・内転も加わり歩行困難。情動面:自発性欠如。奇声が多く常に何かをつぶやいており、コミュニケーション困難。保続に加え、記憶・判断面での障害、易怒性などもみられる。
【理学療法方針】本症例が呈している運動障害の要因として、びまん性軸索損傷による運動線維の障害に加え、前頭眼窩野の障害も大きい。これにより自発性の低下を起こし、さらに運動野・運動前野との連絡に障害を生じさせ、保有する運動機能も十分に活かせないものと考えられた。また、情動の神経回路に理性として働きかける機能も障害を受け、辺縁系優位の状態となっていた。本症例では前頭眼窩野の障害が主要因であるため、情動面への働きかけから前頭前野を活性化し、ひいては運動野を促通し随意的な運動へつなげていくこととした。前頭眼窩野は下後頭前頭束を介した情動的な意味を含む視覚情報に関与するため、行為の誘発刺激として特に情動的な視覚刺激をとりいれることとした。
【方法】立位・歩行時の視覚刺激として興味ある対象物の設置、患者の好む人物の介入、興味のあるADL場面での歩行場面の提供、また適宜賞賛の言葉等をかけることとした。それらから歩行においても自ら動く場面につなげることとした。
【経過】視覚刺激の導入により、立位・歩行場面における体幹の側屈が減少。それに伴い、歩行時に周囲に注意を払う場面が増えてきており、そのことでさらに頸部・体幹の伸展がみられている。また開始当初は歩行にしても介助者の動きに従い他動的に「動かされている」状況であったが、徐々に自分から足を振り出したり、わずかながら姿勢の自己修正を行うなどの随意的な運動がみられるようになってきている。今後の経過を追加し報告する。

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© 2005 日本理学療法士協会
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