抄録
【はじめに】
近年では、脳血管障害は梗塞が出血を上回り、その中でもアテローム性の脳梗塞(血栓)が多い傾向にあり、その原因としては動脈硬化の関与は否めない。その動脈硬化を予防医学的にまたは発病後の指標として、非侵襲的に短時間で動脈の硬さを評価する脈波伝導速度PWVが普及し簡易に行われるようになった。そこで脳血管障害患者に対しPWVを測定しADLが経過観察可能であった数症例に対しリハビリテーションの効果がPWVの変動にどのような影響を及ぼすかを検討したので報告する。
【対象】
対象は、平成12年4月から平成16年9月までに当院に入院し、理学療法を施行し経過観察可能であった20例で男性10例、女性10例である。内訳はアテローム血栓性脳梗塞7例、多発性脳梗塞7例、脳出血5例、脳塞栓1例で平均年齢は78.5歳である。
【方法】
PWVの測定は日本コーリン社製のformPWV/ABIを用い、測定方法として被険者は臥位で四肢末梢動脈に血圧計カフ、心電図の電極、心音マイクを装着し、上下肢動脈管の距離と拍動の到達所要時間より算出した。PWVは初期時・最終時と期間をおいて2回測定しPWV上昇(PWVup)とPWV低下群(PWVdown)とに分けPWV推移とFIM運動得点推移の関連性の検討を行った。また、PWVの変化率・FIMの変化率を算出しそれらの関連性の検討も行った。
【結果】
FIM運動得点の推移ではPWVdown初期 46.75点、PWVdown最終49.08点でありPWVup初期49.33点、PWVup最終41.33点であった。PWVの低下に伴い、FIM運動得点の向上を示す傾向を認め(P=0.06)、PWV上昇に伴うFIM運動得点の変動に有意差は認められなかった。PWV推移ではPWVdown初期2413.8点、PWVdown最終1863.7点であり、PWVup初期2154.9点、PWVup最終2624点であった。PWVdown/upの初期・最終を比較したところ有意な差(P=0.00018/0.01)を認めた。PWVの変化率・FIMの変化率を回帰分析した結果、FIM得点の向上に伴いPWVは低下し、FIM得点の低下に伴いPWVは上昇し負の相関を示した。
【考察】
動脈硬化は血管壁の肥厚と内腔の狭窄、血管弾力性低下を二大要素とし、非可逆的変化とみなされておりリハビリテーションとの関連性についての報告は少ない。今回の結果ではADLの改善つまり運動療法を施行することで血管内皮細胞は一酸化窒素(NO)やプロスタグランジンなどの善玉因子により血管の拡張作用、抗血栓作用、平滑筋増殖抑制作用などを発揮し、血管内皮に多少なりとも好影響を与え動脈硬化の退縮が起こったと推測される。よって運動療法により血管内皮細胞機能障害の予防だけではなく、機能改善にも関与し種々臓器の器質的な変化にも有用であると思われる。