抄録
【目的】変形性股関節症の患者では、跛行に代表される姿勢制御の変化がともなうことが少なくない。姿勢制御を力学的な負担への反応であるととらえると、力学的負担度を変化させた際の動作の変化を解析することで,姿勢制御メカニズムを解明できる可能性があると考える。本研究の目的は、変形性股関節症にともなう姿勢制御の変化を、力学的負担度の変化への反応という側面から解析することである。
【方法】文書でインフォームドコンセントを得た変形性股関節症患者の女性9名(60.6 ± 9.3歳;mean ± SD:OA群)と年齢を合わせた健常成人女性10名(60.6 ± 3.7歳:C群)を対象とした。課題は側方へのステップ動作とし、開始肢位(内果間距離10cmの両脚立位)でのステップ側の第5中足骨頭から側方へ10cm、20cmの2条件(S10,S20)とした。OA群は患側を支持側とした。動作開始の合図でできるだけ速く動作を行うように指示し、計測の順序は無作為とした。計測には表面筋電計、3次元動作解析装置、床反力計を同期させた。筋電図は支持側の脊柱起立筋、中殿筋、長内転筋を計測筋とし、支持側へ体重が移り始めた時点からステップ側の足底離地までの区間(床反力計側より算出)の筋活動量を測定した。筋電図は2乗平均平方根を用いて平滑化し平均値を求め、各筋の静止立位時の筋活動量平均値を用いて標準化した。加えて、開始肢位に対する足底離地時の肩・骨盤の前額面内での傾斜角度変化量および、足圧中心のステップ側、支持側への移動距離を算出した。統計分析は、1)S10におけるOA群とC群の比較(対応のないt検定)、2)OA群とC群の両群におけるS10とS20の比較(対応のあるt検定)を行った。
【結果】1)S10において、OA群はC群よりも支持側への肩の傾斜角度が大きかったが(p<0.05)、筋活動や骨盤の傾斜角度、足圧中心には有意な差を認めなかった。2)C群では、S10よりS20において中殿筋と長内転筋の筋活動量の増加がみられたが(p<0.05)、肩・骨盤の動きには有意な変化がみられなかった。OA群では、S10よりS20においてC群とは逆に中殿筋と長内転筋の筋活動量は全例で減少し(p<0.01)、肩の支持側への傾斜角度と足圧中心の支持側への移動距離は増加した(p<0.05)。
【考察】S10 からS20へのステップ距離の延長に対して、C群では中殿筋と長内転筋を同時収縮させて股関節の安定性を高めたが、OA群では体幹の支持側への傾斜を増加させるとともに、S10にて発揮されていた中殿筋と長内転筋の筋活動を低下させた。OA群では足圧中心をより支持側へ移動させて身体に回転モーメントを与えていると推察された。変形性股関節症患者の動作分析・治療を行う際は、股関節周囲筋の筋活動を抑制する姿勢制御戦略が存在していることを考慮する必要があると考える。