抄録
【目的】神経系モビライゼーションの一つにSlumpテストがある。Slumpテストは頚部および胸部屈曲、膝伸展、足関節背屈を複合的に行い、脊柱の動きに伴った脊柱管・椎間孔内の髄膜、神経根スリーブ、神経根に存在する疼痛感知組織の伸張性評価に用いられる。Slumpテストの治療手技であるSlumpストレッチの自律神経系に及ぼす影響についてはSlumpストレッチを7秒間行った結果、下肢の皮膚温度が有意に低下したという報告はあるが、心臓自律神経検査法を用いた報告はない。そこで本研究は健常成人を対象にSlumpストレッチが心臓自律神経系におよぼす影響を心電図R-R間隔の周波数解析装置で測定し、心臓交感神経活動の指標である低周波(以下LF)成分、心臓迷走神経活動の指標である高周波(以下HF)成分に分けて解析し、調査することを目的とした。
【方法】20-30代の健康な男性6名を対象に、事前に実験に関する説明を行い書面で同意を得た。実験は30秒間のSlumpストレッチを合計3回(以下Slump実験)と端座位保持3分間(以下コントロール実験)をランダムに選択し、同一被験者で行った。まず被験者は15分間仰臥位で安静臥床し、15分経過後5分間LF成分、HF成分の基準周波数値および心拍数の基準値を測定した。次に被験者は端座位となりSlump実験或いはコントロール実験を行った。実験終了後、端座位から仰臥位に戻り、約30分間安静臥床を継続し周波数値計測を続行した。データは15分間安静臥床後の5分間の平均値を基準値とし、時間経過に伴う変化を比で表した。統計学的処理は一元配置分散分析で解析し、多重比較はFisher's PLSDを使用した。危険率はそれぞれ5%で判定した。
【結果】Slump実験、コントロール実験共にHF成分は端座位で基準値と比較して有意に減少し(P<0.01)、心拍数は有意に増加した(P<0.01)。LF成分はSlump実験,コントロール実験で共に統計学的有意差は見られなかった。しかし、Slump実験ではSlumpストレッチに伴いLF成分の抑制を示す者が6名中3名、増加する者が6名中3名に認められた。
【考察】仰臥位から抗重力位への体位変換に伴うHF成分の抑制については多くの報告があり、本研究でも同様の結果を得た。この理由は端座位によって血液が下半身へ移動し、循環系はその分の出血と同等な負荷を受けるため、交感神経緊張と心臓迷走神経抑制反応が惹起されるためである。LF成分の反応は2つのパターンに分類することが出来たが、これはSlumpストレッチによって脊髄・髄膜が刺激された結果、脳幹の心臓血管中枢から心臓の洞結節への入力が減少する者と増加する者が存在することを意味している。症例を追加しこれらの現象の原因の解明につなげたい。
【まとめ】Slumpストレッチは心拍数、HF成分に影響を及ぼさなかった。LF成分はSlumpストレッチによって抑制を示す者と増加を示す者の2パターンに分類された。