理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 349
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骨・関節系理学療法
在宅へ結び付いた重度痴呆を呈する大腿骨頚部骨折症例理学療法の一検討
*松目 和己岩森 俊横路 敦子山畑 知子
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抄録

【はじめに】高齢化社会の進行とともに、重度痴呆症合併症例理学療法の施行機会も増加する。しかし、痴呆症合併が、リハビリテーションの阻害因子となり、その進行が妨げられ、移動能力にも影響を与え、寝たきりとなる場合もある。また、多くが生活の場として医療施設入所を選択考慮される。
今回、臨床的痴呆スケールにおいて重度痴呆を呈する大腿骨頚部骨折症例理学療法を経験、在宅へ結び付いた経緯を検討し、若干の考察を加え報告する。
【症例】85歳男性。妻と2人暮らし。転倒受傷にて観血的手術施行。受傷前生活:介護度2。痴呆性高齢者日常生活自立度IIb。自立歩行可ではあったが、生活全般にわたり妻の介助要していたとのこと。
【治療】治療時痴呆性高齢者日常生活自立度はIVと考えられ、日常生活動作は、江藤らの報告同様、食事動作が保たれている程度で、他の動作に関しては、全介助レベルであった。治療中においては、基本動作練習施行時の困惑感、心理面における抑揚が強く示された。これらに対し、治療内容の同一化、同一手順、簡素化指示、誘導指示、動作提示、治療環境設定配慮、抑揚への対応などを常に心掛けた。これらを通すなかで、生活歴、生活環境などを基に、重心レベルを考慮した四つ這いを移動手段として選択、治療にて起き上がり、四つ這い移動可となる。また、治療進行と同時に介護度認定における再申請も進められた。
【退院前】家族の自宅退院希望も考慮され、医師の指示にて、退院前訪問指導実施。このなかで自宅内居住・移動方法確認、家族との現状確認、退院後の介護保険サービス利用設定確認など実施。
【退院後】術後6週にて退院。退院後状態としては、日常生活自立度に変化は診られず、介護度4。介護保険サービス利用は、デイケア利用が週2回から3回へ、新規利用として週3回ホームヘルプサービスを利用、これらにより、介護負担の急増は避けられた。
【考察】本症例においても佐藤らにより紹介される受傷前受動的生活パターン、認知能力低下による移動能力低下への影響が示唆された。そこで、生活歴、生活環境を考慮、重心・移動レベルを四つ這いとし、治療上の各心掛けにより動作可能となった。また、重度痴呆を呈する場合、社会的ニードが混乱し、その多くが医療施設入所を選択考慮されるなか、退院前訪問指導による移動法確認、介護保険サービス利用の設定確認、家族・関連スタッフの協力により生活の場として、在宅を選択、介護負担軽減への結び付けが可能となった。今後、同様重度痴呆例において、今回症例経験を一助に検討していきたいと考える。

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© 2005 日本理学療法士協会
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