主催: 社団法人日本理学療法士協会
【はじめに】
近年、膝蓋大腿関節内側横走支帯を単なる内側膝蓋支帯の一部とするより、独立した構成体として内側膝蓋大腿靭帯(以下、MPFL)と呼ぶようになってきた。
今回、MPFLと内側側副靭帯(以下、MCL)の外傷による断裂をきたし整形外科的手術後の理学療法を経験する機会を得たので考察を加え報告する。
【症例紹介】
50歳、女性。左MPFL、MCL断裂。パート事務職。その他重要な情報として競技レベルの卓球を長年続けている。
16/4/12、原付バイク乗車中に普通乗用車と接触し受傷。初診時、左膝蓋骨外側脱臼ならびに外反ストレスに対する側方動揺あり。
脱臼整復後シーネ固定し、MRIにてMPFL断裂が確認され2日後にPatella Brace装着した。4/23 左MPFL、MCL縫合術施行。
【理学療法経過】
4/26 理学療法開始。左股関節周囲筋群3 +、膝関節周囲筋群2。4/27 ヒンジ付き膝サポーター装着(0~60度に制限)1/2部分荷重(徐々に全荷重へ)。膝蓋骨可動性poor 膝屈曲40度。5/2 退院。5/14 全可動域許可、膝屈曲角度55度。5/26 左下肢部分浴。6/2 内側広筋萎縮、鵞足部にも痛みあり、それらに対して低周波治療を追加。6/23 膝全可動域可能。その後は競技復帰を視野に応用筋力トレーニングを。7/16 理学療法終了。
【考察およびまとめ】
従来、内側膝蓋支帯といえば縦走線維の事を指し、横走線維(MPFL)については看過されてきた。MCLの機能については周知のとおりであるが、MPFLについて研究の歴史は浅く、ゆえに整形外科的手術の報告もあまり多くなかった。
MPFLの機能は膝関節全可動域において、膝蓋骨と大腿骨膝蓋関節面の滑走路より逸脱しないよう制御する重要な役割を担っている。本症例は俊敏なフットワークを要求される卓球競技者であり、それらを考慮し手術による治療が選択された。
術後、可動域制限が著しく許可されていた膝屈曲60度まで到達せず、痛みも伴った。この要因として膝蓋大腿関節の可動域低下が原因と考え他動運動を実施したが、MPFLは膝屈曲15~30度の範囲でやや弛緩するとの報告があり、軽度屈曲位にて行った。またMPFLの膝蓋骨側約1/3は内側広筋斜走線維が付着しているためか、内側広筋の萎縮が著明であった。
今回は外傷後の急性膝蓋骨脱臼であったが、今後反復性膝蓋骨脱臼に対するMPFL再建術後に関わることが予想され、この経験を生かすとともに、相違点などについて検討していきたい。