抄録
【はじめに】大腿骨頚部骨折術後患者の歩行能力の規定因子として膝伸展筋力の重要性が報告されている。一方、侵襲を受ける股関節周囲筋力との関係については報告が少ない。我々は第38回PT学会においてハンドヘルドダイナモメーターを用い、簡便に股伸展筋力を測定する方法を報告した。今回はこの方法を用いて、大腿骨頚部骨折術後患者および人工股関節置換(以下THA)術後患者の股関節周囲筋力を測定し、歩行能力との関連について検討したので報告する。
【対象と方法】対象は、H14.10~H16.4に当院に入院した大腿骨頚部骨折・THA術後患者のうち、筋力測定が可能であった女性23例(年齢76.4±6.9歳)とADL、屋外歩行が自立している健常高齢女性21例(年齢77.8±3.5歳)とし、対象者には本研究の目的および方法を説明し、同意を得た後に測定を行なった。測定項目は、退院時下肢筋力(膝伸展・股伸展・股外転)、10m歩行時間、片脚立位時間、連続歩行距離とし、退院時歩行能力が院内300m自立した者を自立群、それに満たない者を非自立群とした。筋力測定には、アニマ社製μTasMF-01を用いて最大等尺性筋力を測定し、体重比(%)で示した。コントロール群と患者群の比較にはMan-WhitneyのU検定を用いて検討した(有意水準5%)。
【結果・考察】コントロール群は平均10m歩行時間6.2秒、平均片脚立位時間19.6秒、平均筋力値(%)は膝伸展49.8、股伸展34.0、股外転32.4であった。股伸展、外転筋力以外はこれまで報告されている70代の健常女性の値と近似していた。また、股伸展、外転筋力については、コントロール群の全対象で両者とも20%以上であり、このうち約6割が30%以上の値であった。患者のうち、自立群は16例(74.3±6.1歳)、非自立群は7例(81.3才±6.4歳)で、それぞれ、平均10m歩行時間(秒)10.7、20.7、平均片脚立位時間(健側/患側・秒)13.9/8.5、1.6/0.6、平均筋力値(健側/患側・%)は膝伸展47.7/32.1、33.3/22.0、股伸展39.6/30.6、25.6/20.6、股外転27.7/21.6、17.7/14.5であった。自立群と非自立群の比較では全測定項目において、有意に自立群で高値を示した。また、患者群の筋力値(健側/患側・%)において、膝伸展45/30、股伸展40/35、股外転30/25を上回る全例が歩行自立していた。自立群はコントロール群と比較して、10m歩行時間、患側片脚立位時間、連続歩行距離、患側膝伸展筋力および股外転筋力において有意に低値を示した。以上のことから、股関節周囲筋に侵襲を受ける大腿骨頚部骨折・THA術後患者の場合、膝伸展筋力と同様に股関節周囲筋力が従来から考えられている歩行能力の規定因子であることが再確認された。また、症例数は少ないものの、本測定方法における股関節周囲筋力値と歩行能力との関連が示唆された。