抄録
【目的】
半腱様筋腱、薄筋腱を用いた膝前十字靭帯再建において採取するのは腱のみで筋成分はほとんど採取しない。しかし,筋と脛骨との連続性はなくなるため、半腱様筋、薄筋の機能は著しく障害されると考えられる。大越らは術前と術後12ヶ月後の膝屈筋力を比較し、ピークトルクに有意差は見られなかったが、ピークトルク発揮角度に有意な差がみられ、半腱様筋腱、薄筋腱採取側はピークトルク発揮角度が浅い角度へシフトしたと報告している。一方で、MRIを用いた形態的研究では再建術後の半腱様筋腱、薄筋腱の再生がみられたとの報告もあるが、機能回復との関連性についての報告は少ない。本研究の目的は、半腱様筋腱、薄筋腱を用いた膝前十字靭帯再建術後8ヶ月、20ヶ月以上経過後の膝屈筋筋力を等速性筋力測定器にて測定し、再建側、非再建側の膝屈曲時のピークトルク発揮角度、ピークトルク値(ピークトルク/体重)を比較検討することである。
【方法】
当院にて膝前十字靭帯再建術をおこない、電話連絡にて研究参加協力を得られた15名を対象とした。術後約8ヶ月は膝可動域訓練、膝周囲筋筋力訓練等を目的とした理学療法を行い、術後8ヶ月以降は術前の活動レベルに復帰したため、理学療法は行っていない。被験者は等速性筋力測定器にて、膝屈曲筋力を角速度60度、180度にて測定し、術後8ヶ月、20ヶ月での再建側、非再建側の膝屈曲時のピークトルク発揮角度、ピークトルク値を対応のあるT検定にて解析をおこない、危険率5%未満をもって有意差とした。
【結果】
術後8ヶ月後、20ヶ月以降ともに膝屈筋のピークトルク発揮角度は、角速度60度、180度ともに再建-非再建間に有意差はみられなかった。再建-非再建側間のピークトルク発揮角度に術後8ヶ月後、20ヶ月以降ともにそれぞれ有意差はみられなかった。ピークトルク値は角速度60度における8ヶ月-20ヶ月間(再建、非再建ともに)に有意差がみられた。角速度180度においては、8ヶ月、20ヶ月ともに再建側-非再建側間に有意差がみられる。また、非再建側においてのみ8ヶ月-20ヶ月間に有意差がみられた。
【考察】
採取後の膝屈筋機能への影響としては自動運動での膝屈曲可動域の低下が指摘され、屈筋力が術後回復するのは縫工筋をはじめとする他の屈筋の代償作用と考えられている。腱の採取後、腱様組織が術後に再生するとの報告があるが、今回のデータからでは術後のピークトルク値に十分な筋力回復がみられなかった為、大越らのような膝屈曲時のピークトルク発揮角度に優位さが見られなかったと考えられる。今回の研究の結果からは明らかな機能面での回復がみられなかった。今後屈筋の機能を最大限に回復し、ピークトルク発揮角度が浅い角度にシフトがみられるものを対象として、深い屈曲角度での膝屈曲機能回復を主目的としたプログラムを実施し、再度の比較検討が待たれる。