抄録
【目的】
関節位置覚などの固有受容感覚は、正確な動作を行うための神経筋コントロールや動的な関節安定性を得るために重要な働きをしているといわれており、固有受容感覚のトレーニングは損傷予防のための運動療法プログラムに取り入れられている。本研究の目的は、膝関節位置覚測定の実施に際して基礎データを得るため、他動運動で再現させた時と自動運動で再現させた時の違いを明らかにすることである。
【方法】
対象は、膝関節に特別な既往のない20名の健常成人(男子10名、女子10名)とした。測定時は、外部からの刺激をアイマスクとwhite noiseの流れるヘッドフォンで遮断した。位置覚の測定は、コンピューター制御で作動する特製の装置(固有運動覚・固有位置覚測定装置,センサー応用社.日本)を用いた。測定は、利き脚(ボールを蹴る脚)で行った。端座位にて膝屈曲90°を開始角度とし、膝屈曲15°を設定角度とした。開始角度から10°/secで他動的に下腿を動かし、設定角度に達した時点で5秒間停止させた。この停止中に下腿の位置を対象に記憶させ、その後下腿を開始角度に戻した。他動運動で再現させる方法では、再び下腿を他動的に伸展方向に動かした。自動運動で再現させる方法では、記憶した角度まで随意的に膝を伸展させた。対象は設定角度に達したと判断した時点でスイッチを押した。設定角度とその時の角度の差を定数誤差値(RE)として算出した。設定角度の手前で再現した場合は負の値(undershoot)となり、設定角度を超えて再現した場合は正の値(overshoot)となる。REの絶対値を絶対誤差値(AE)とした。測定は3回ずつ行った。REとAEの平均値において他動運動と自動運動の間に差があるかをWilcoxonの符号付順位検定を用いて検定した。危険率5%未満を有意とした。
【結果】
他動運動では83.4%がovershootであったのに対して、自動運動では79.1%がundershootであった。RE(平均±SD)は他動運動で1.1±1.8°、自動運動で-1.8±2.8°であり有意差を認めた。AEは他動運動で3.4±1.9°、自動運動で3.8±1.8°であり差を認めなかった。
【考察】
本研究において、他動運動による測定では先行研究と同様にovershootを示す傾向がみられた。他動運動を自動運動と比較すると大腿四頭筋の収縮を伴わず、大腿四頭筋のメカノレセプターの関与が少なくなることで反応が遅くなりovershootになりやすくなる可能性があると考えた。関節位置覚の測定ではAEを用いることが多いが、REに着目すると、他動運動では正の値であったのに対して、自動運動では負の値となっており位置覚を評価するうえでREは重要な情報であることが分かった。今後は、他動運動と自動運動でみられた違いをもたらした因子を明らかにする必要がある。