抄録
【目的】
運動における前十字靱帯損傷(以下:ACL)の受傷要因については,膝関節角度や大腿四頭筋およびハムストリングスの機能,下肢アライメントなどについて多くの報告がなされており,受傷後のリハビリテーションのアプローチに生かされている.今回,ACL損傷の受傷率が最も多いといわれるバスケットボール競技の「構え」姿勢(膝関節屈曲・前傾姿勢)に着目し,これがACLに過度のストレスをかけることがないかを検証することで予防的アプローチができないかと考えた.筆者の経験上,プレー中疲れてくると,「構え」は体幹が前傾し,両手を膝に置きこれを支えることが多くなると感じている.このように,疲労による影響で「構え」が変化することが膝のケガの原因となるのではないかと考え,練習前後の「構え」の姿勢変化について研究し考察したのでここに報告する.
【測定方法】
被験者は身体に既往のないものに限定し,本研究の趣旨を十分説明したうえで測定を行った。19歳~23歳までの健常大学生10名に対して練習前後での「自然な構え」の変化を測定した。姿勢変化については,両上肢は自然に下垂させ,視線はバスケットボール・リングに向けた状態での「自然な構え」姿勢をとるように被験者に指示し,この時の膝関節屈曲角度をゴニオメーターで計測した。また,重心動揺計(アニマ株式会社製G-620)でY方向動揺中心変位を測定しマイナスとした。これら練習前と練習後の各データは対応のあるT検定により分析した(P<0.05).
【結果】
「構え」姿勢における膝関節屈曲角度の平均値は練習前31.7°,練習後37.7°であり,膝関節屈曲角に有意差は認められなかった。Y方向動揺中心変位の平均値は練習前0.8cm後方,練習後0.3cm後方であり,練習の前後間で有意差は認められなかった.
【考察】
膝関節屈曲角度が練習後に増加した理由として,Shermanらはマラソン後にハムストリングスや大腿四頭筋の筋力は30~35%減少するとしていることから,本研究結果においても3時間の練習で下肢筋群が疲労し,大腿四頭筋・ハムストリングスによる下肢の支持性が低下した現象と考えた.この「構え」の変化において,大腿四頭筋には一層強い活動が要求されることになり,相対的にハムストリングスによる脛骨前方変位の抑制機能が低下する,つまりACL損傷のリスクが高まることが懸念された.今後,体幹-骨盤,股・足関節を含めた代償的な動作を分析していくことで,疲労による運動姿勢の変化やバスケットボールでのジャンプ・着地・カッティング動作の変化を捉え,我々理学療法士による障害予防的なアプローチが幅広く展開できることを期待している.