抄録
【目的】重力に抗して立位姿勢を保持する機構を抗重力機構,そのために働く筋を抗重力筋という。静止立位では,抗重力筋のすべてが活動するわけではなく,ほとんどの筋収縮を必要としない。そこで本研究は周期的床振動装置を用いて静止立位に対し前後方向への周期的床振動を与える事により体幹下肢筋に筋収縮を引き出すことができるという仮説のもとに,解析を行った。
【方法】対象は健常若年男性8名である。被験者に対し,周期的床前後動揺刺激装置による刺激を加えた。装置は振幅を20mmから80mmまで10mm単位で調整でき,振動速度を1秒間に3回転の速さまで上げる事ができる。装置の振動方向に対して向かうように立つと前後方向に揺らすことができる。種々の周波数および振幅で刺激を加え,その時の下肢筋の筋電図を記録して解析した。筋電図は腹直筋,脊柱起立筋,大殿筋,大腿直筋,内側広筋,外側ハムストリング,前脛骨筋,外側腓腹筋で計測した。さらに床反力および身体の動きを計測して分析した。床前後動揺刺激装置の上に床反力計を乗せて装置を動かした。その時の振幅を80 mmと20 mmの2種類,回転数を1回転または2回転にしてそれぞれの組み合わせで計4種類の計測を行った。床反力とビデオ画像を合成し,床反力の出力方向や大きさと股関節,膝関節,足関節との位置関係を解析した。
【結果】表面筋電図による解析では振幅20mmでは回転数が増えると共に筋収縮は減少し,振幅80mmでは回転数が増えると共に筋収縮は増加する傾向が認められ,どの条件をみても下肢遠位筋の収縮が著明に認められた。床反力の解析では,床振動の前方での方向変換時点に足圧中心は前方に移動,後方での方向変換時点に足圧中心は後方に移動した。また,振幅・回転数は大きくなるほど,床反力の大きさは大きくなった。床反力の方向については,振幅20mm 2回転における角度変化はごく小さいものであった。振幅80mm 2回転では振幅20mm 2回転より傾きも大きくなり,前方へ揺れた時は膝関節よりも後方,後方へ揺れた時は膝関節よりも前方へ出ていた。
【考察】周期的床振動に対し下腿筋群や足底部の体性感覚からの入力によって姿勢制御が行われ,いわゆるankle strategy が作用していた。すなわち,床振動などで後方に倒れようとすると,最初に床面に近い足関節において前脛骨筋などにより背屈運動が起こり,次に大腿四頭筋,体幹前面筋の順に筋群が活動する。前方に倒れようとする時には身体の後面の筋群が遠位から近位に向かって活動する。ankle strategy はこのように身体の前面あるいは後面の筋群のどちらか一方が活動して姿勢を制御するものであるが,周期的床前後動揺刺激ではこれらのパターンが交互に高速に反転するため,あたかも前面と後面の筋群が共同収縮を起こしているように見られる。
【まとめ】周期的床前後動揺刺激装置による運動によって下肢遠位筋の共同収縮が著明に認められた。