抄録
【はじめに】近年,理学療法領域においても意識レベルの低下した重症患者に対して早期より介入する機会が増加している.意識レベルの低下している重症患者は,ベッド上臥床を余儀なくされ,自力での体動や体位変換が困難であることは周知の通りである.臨床上ベッド上背臥位はよく見られる姿位であり,その際の頸部屈曲角度は,枕の高さや頭部の位置により異なる.そのような患者に対し,体位変換やポジショニングを行う際,姿勢の変化による呼吸・循環機能の変動には十分注意しなくてはならない.ベッド上臥位での各姿勢における換気量の変化を報告したものは多くみられるが,姿勢の中でも頸部の屈曲角度が気道抵抗及び換気量に及ぼす影響についての報告はない.そこで,本研究では,背臥位安静呼吸時の異なる頸部屈曲角度での気道抵抗値,換気量を求め,各屈曲角度における換気量の比較,特に短時間の呼吸応答について検討を行った.
【対象】対象は呼吸器疾患の既往のない健常成人男性10名で,平均年齢は24.6±3.9歳,平均身長は171.5±5.0cm,平均体重は66.7±1.8kgである.
【方法】測定姿位は全てベッド上背臥位とし,被験者に安静呼吸を命じた.この時の頸部屈曲角度を0度・15度・30度となるよう枕の高さを調整した.被験者はノーズクリップを装着し,1分間安静呼吸後に各屈曲角度における呼気時及び吸気時の気道抵抗値(Rint値),一回換気量(VT),呼吸数(RR),分時換気量(MV)を計測した.Rint値の測定には遮断による気道抵抗測定装置:Micro Medical社製MicroRintを用い,また,VT・RR・MVの測定にはミナト社製オートスパイロAS-502を用いた.統計的分析は,頸部屈曲角度に対する,Rint値(吸気・呼気),VT,MV,RRをWilcoxonの符号付順位検定にて分析し,有意水準は5%未満とした.
【結果と考察】頸部屈曲角度に対する吸気時Rint値(kPa/l/sec)の平均は(安静呼吸時の平均Rint値は約0.3 kPa/l/sec),0度0.17±0.03,15度0.18±0.05,30度0.20±0.05で順序性が有り,増加する傾向にあった(p<0.05).呼気時Rint値(kPa/l/sec)の平均は,0度0.19±0.02,15度0.22±0.06,30度0.21±0.05で順序性が有り,増加する傾向にあった(p<0.05).頸部屈曲角度に対するVTの平均は,0度0.70±0.17,15度0.63±0.15,30度0.60±0.16で順序性が有り,減少する傾向にあった(p<0.05).頸部屈曲角度に対するMV及びRRは変化がみられなかった.以上より,短時間の頸部屈曲角度の増加で気道抵抗が増加し,一回換気量の低下に影響を与えることが示唆された.