抄録
【目的】
近年、肺癌の発生は増加の一途にあり、肺癌の手術症例は年々増加しつつある。理学療法領域においても合併症からの回避、早期離床・早期退院を目的に、その術前後における呼吸理学療法・運動療法の実施が求められている。特に術直後では無気肺など呼吸器合併症が発生しやすく、その間での理学療法は大変重要な役割を担うため、術後早期からの肺機能の回復段階およびその関連因子を把握しておくことは重要であると考えられる。
肺癌術後は肺実質が失われるため、術後肺機能は有意に低下することは先行研究より明らかにされている。しかしその報告のほとんどは、術前肺機能との比較を行なったものであり、肺の切除量は考慮されていない。そこで今回我々は、肺の切除量によって決定される予測術後肺機能からみた術後肺機能の回復段階を明らかにするとともに、術前後での運動耐容能の変化および、術後の各関連因子について検討したので報告する。
【対象および方法】
対象は平成15年7月より当院呼吸器外科で肺癌患者に対し、標準開胸術により肺区域切除または肺葉切除が施行され、なおかつその術前後に理学療法の依頼のあった男性8名、女性5名の計13例である。術式は右上葉切除4例、左上葉切除2例、左下葉切除2例、右下葉・上葉部分切除、右中葉切除、右上葉部分・下葉切除、左舌区区域切除、右下葉切除がそれぞれ1例であった。術前情報として年齢・BMI・呼吸器疾患の既往歴をカルテより聴取し、術前の肺機能検査(1秒量・肺活量)をおこなった。術後は術翌日より退院時まで理学療法施行前に肺機能検査を毎回実施し、同時にその間での呼吸器合併症の有無、座位及び歩行開始日数、術後入院期間を調査した。また、手術情報として術時間、出血量をカルテより聴取した。運動耐容能の評価には6分間歩行距離を用い、術前と退院時に計測を行なった。肺機能の計測にはミナト社製オートスパイロAS-502を用い、小泉らの予測術後肺機能値からみた術後1秒量・肺活量の回復率(肺機能実測値/予測術後肺機能値×100)を算出した。統計的手法は経過を要因とした一元配置分散分析及び多重比較検定Dunnettを用いた。また、1秒量及び肺活量の回復率に関する重回帰分析を行なった。なお危険率は5%とした。
【結果および考察】
術後の肺機能の結果、1秒量は術後第12病日まで有意に低下しており、この間での回復率は35.9から69.2%であった。肺活量は術後8病日まで有意に低下しており、この間での回復率は35.5から73.1%であった。術後1秒量回復率の重回帰分析の結果、坐位・歩行開始日数が関与していた。また、術前と退院時での運動耐容能には有意差は認められなかった。肺癌術後の肺機能は、肺活量より1秒量の回復に時間を要していた。また、その回復には坐位及び歩行開始日数が関与していたことから、術後早期より離床を促す重要性が示唆された。