理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 722
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内部障害系理学療法
Pure autonomic failureに対して膝窩動脈をボールと膝サポータにて圧迫を行った1症例
*佐々木 伸一嶋田 誠一郎北出 一平小川 真裕美久保田 雅史亀井 健太川原 英夫小林 茂馬場 久敏佐藤 万美子
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抄録
【目的】起立性低血圧症は,狭義の基準として起立時血圧が収縮期圧30mmHg以上,拡張期圧20mmHg以上低下し十分な組織潅流が維持できない状態である.今回、臨床的に各種自律神経症状があるが明らかな心血管疾患や器質的神経疾患がなく、運動機能にも問題がないのに坐位や立位で著しく血圧低下し、ADLが制限される極めて希なPAF(pure autonomic failure)と診断された症例の理学療法を経験したので報告する。
【症例】79歳、男性、無職.診断名;起立性低血圧症.現病歴:前年夏に腹部大動脈瘤の手術後より、起立時のふらつきを自覚する。今年1月頃より月1~2回の転倒を繰り返し、5月には1日1~2回と頻回になり意識消失を認めたため入院。入院時、疼痛などはなく関節可動域および徒手筋力テストにも問題ない。寝返りは可能だが安静臥床状態であった。血圧は、head-up tilt試験にて臥位148/83mmHg、起立直後68/40で直ちに臥位へ戻し166/103となり、立位保持は不可能であった。
【理学療法経過】入院12日後:ベットサイドにて理学療法開始。血圧は、臥位115/71、端座位直後80/53、3分後72/55、6分後74/55である。プログラムは、臥位にて徒手による下肢筋力強化と監視装置装着して端座位保時練習。腹帯や弾性ストッキングによる血圧改善効果は認めない。18日後:ドプス投与開始。長坐位にて車椅子乗車し収縮期血圧110~130代で安定した。24日後:両膝窩部を局所的にボールと膝サポータにて圧迫し、血圧は臥位135/82、端坐位100/74、立位68/54と臥位や端坐位で20から30mmHg上昇した。35日後:ボールと膝サポータ装着し自転車エルゴメータを坐位にて負荷20Wで10分開始。48日後: ボールと膝サポータ装着し25 m監視歩行可能で血圧低下による自覚症状は軽減した。60日後:血圧は、端坐位120/74、150 m歩行直後83/52、1分後115/75、2分後129/80であった。63日後:起立性低血圧に対する生活指導を行い車椅子にて退院した。
【考察】起立性低血圧症に対する症状軽減のための理学療法には、腹帯、弾性包帯、弾性ストッキングなど使用し下肢での静脈血のプーリングを防ぐ方法があるが、本症例では効果がなかった。そこで、下肢への動脈血流量減少を目的に膝サポータにビニールボールを入れ膝窩動脈を圧迫し、血圧低下の軽減が得られた。また漸増的な下肢筋力強化と歩行練習は、下肢筋の廃用を防ぎ歩行能力など維持できた。退院時には、低血圧による失神はけがや事故の原因となるため急激な体位変換、長時間の坐位や立位など避け、移動は車椅子を使用するよう指導した。
【まとめ】
1.PAFの低血圧改善にボールと膝サポーターの効果を認めた。
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© 2005 日本理学療法士協会
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