抄録
【背景】近年、心疾患患者における患者層の高齢化により、多くの合併症を有しセルフケアなど日常生活に支障を来たしている患者が増加している。そのような患者に対しては、従来心疾患リハビリテーションにおけるアウトカムとされていた、生命予後や運動耐容能以外のリハビリテーション介入に鋭敏なアウトカムが求められる。
【目的】セルフケアの自立が遅延し心疾患リハビリテーションプログラムを予定通り遂行できない症例の、アウトカム指標を検討した。
【対象】2004年度心疾患リハビリテーションを行い、歩行初回50メートル歩行時、一回で完遂できなかった症例。または、リハビリ室初回来室時、機械リハの行えなかった症例全13例(65.7±9.1歳)。
【方法】上記症例に対しリハビリ室にて、筋力訓練、歩行訓練、ADL訓練などの個別運動療法を施行した。その後、同意の得られた症例に対し、上記運動療法を継続しながら可及的にリカンベントエルゴメーターにて連続運動を行った。各々の症例につき、入院前、リハビリ開始時、歩行開始時、リカンベント開始時、リカンベント開始後1ヶ月、退院時、退院後1ヶ月においてBarthel Index(B.I)、Specific Activity Scale(SAS)、連続歩行継続距離、歩行速度、屋外生活が歩行で可能かを調査した。また、運動阻害因子として、中枢神経疾患、整形外科疾患の既往、ならびに現症を調査した。
【結果】入院中に中枢神経疾患、整形外科疾患を発症した4例(30%)を含めた全例が、入院中にB.Iスコアが向上し同等かそれ以上のB.Iスコアとなった。退院後B.Iスコアは大きな変化を認めていない。SASにおいては、9例(69%)が退院時に入院時より低下し、退院前に連続運動が行えた症例11例(84%)においては、退院後1ヶ月のSASスコアが退院時より向上した。歩行継続距離はリカンベント開始1ヵ月後で増加する例10例(76%)と変化しない例3例(23%)が見られた。連続運動の継続により歩行スピードは増加する傾向が全例に見られ、15分以上の連続運動が行えた症例11例(84%)では、10例(76%)が屋外活動を行えた。全例において、リカンベント連続運動時間は増加した。中枢神経疾患、整形外科疾患は13例中8例(61%)が既往歴に持つか、入院中に発症した症例であった。
【考察】リハビリ開始初期にはセルフケアの改善が急務であり、必然的に個別運動療法に時間を費やす。したがって入院期はB.Iの向上が大きく見られた。セルフケアの獲得につれ連続運動が導入され、歩行継続距離や、歩行スピードの向上が見られた。個別運動療法を行えば連続運動はセルフケアの獲得を阻害しないと考えられるが、発症からの経過時間や、病態に合わせたアウトカム指標を個々に検討していく必要があると考えられた。