抄録
【はじめに】細胞移植は血液疾患に対する治療法として有用性が広く知られている。しかし生命予後が改善してきている一方で、長期的な運動機能予後に関する報告は少ない。今回、細胞移植後3年以上経過した患者を対象に運動機能を評価し、多少の知見を得たので報告する。
【症例】症例1)38歳女性。診断名は重症再生不良性貧血。平成8年に骨髄移植を実施し移植後148日目に退院。平成14年1月21日から外来通院にて理学療法開始。症例2)52歳男性。診断名は骨髄異形成症候群。平成13年に自己末梢血幹細胞移植を実施し移植後88日目に退院。平成16年8月23日から外来での理学療法開始。
【評価項目】(1)膝伸展筋力[kg]:ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTas-MT1) を用いて膝屈曲90°位での最大伸展運動を等尺性に実施。(2)握力[kg](3)全身持久力:漸増シャトルウォーキングテスト(ISWT)にて歩行距離[m]および実施前後の心拍数[/min]、血圧[cmH2O]、呼吸数[/min]、Borg scale、SpO2を測定。
【結果】症例1)(1)右14.8kg左15.4kg(2)右4kg左3.5kg(3)距離210m、心拍数68→102、血圧140/97→182/121、呼吸数16→48、Borg scale0→4、SpO2100→96症例2) (1)右16.7kg左13.4kg(2)右15kg左12kg(3)距離480m、心拍数82→157、血圧108/85→147/81、呼吸数24→32、Borg scale0→7、SpO299→91
【考察】細胞移植前後に生じる機能低下に関する報告は散見されるが、長期生存例の身体機能についての報告は非常に少ない。今回われわれは、長期的な運動機能を把握する目的で各評価を実施した。各評価項目の標準値として(1)膝伸展筋力:30歳代女性33.4kg、50歳代男性50.8kg(平澤ら2004)(2)握力:35~39歳女性30.1kg、50~54歳男性46.7kg(文部科学省体力運動能力調査2003)(3)ISWT距離:健常成人987.5m(谷口ら2002)などが示されている。今回対象となった2症例はいずれも日常生活では自立しているが、各評価項目において健常者に比べ著しい低下を示している。骨髄移植前後に必要な化学療法、放射線療法、無菌室での安静などが移植前および移植後早期の機能低下に関与すると報告されているが、日常生活が自立している時期においても著しい機能低下が残存しており、長期に及ぶ身体機能の把握と運動療法継続の必要性が示唆される。