抄録
【はじめに】心臓外科後の心臓リハビリテーション(以下心リハ)では正中切開での開心術後の症例が最も多い。術後患者の身体的特徴として、創部の柔軟性低下、創部痛による胸郭および肩関節の可動域制限などがあげられる。今回、これらの術後の痛みが年齢、手術時間、術式、リハ開始日などに影響を与えるのかを検討したので報告する。
【対象】2004年7月から10月までに開心術(心拍動下バイパス術29例、バイパス術24例、弁置換術42例、胸部大動脈置換術5例、先天性心疾患開心術9例)を施行した109例(男性70例、女性39例)。平均年齢64.8±12.5歳。手術前および手術後より中枢性疾患や整形外科的疾患、透析の適応症例は除外した。
【方法】痛みの評価は肩関節屈曲160度まで自動運動を行い、そのときに出現する痛みの部位によって分類し、創部痛と肩甲骨周囲への痛みを伴う群(DP群)、創部痛のみの群(SP群)、痛みなしの群(NP群)の3群にわけた。3群に対する年齢、リハ開始日、手術時間、術式、在院日数などを比較検討した。なお、リハ開始日は術後血行動態が安定し、医師の指示のもと、当院の開心術後リハビリテーションプログラムに準じて心リハを開始した。
【結果】全症例中、DP群は34%、SP群は49%、NP群は17%であった。年齢別ではDP群60.0±11.6歳、SP群64.9±13.1歳、NP群68.1±10.0歳であった。リハ開始日はDP群1.5±1.1日、SP群1.6±1.0日、NP群4.6±6.2日であった。在院日数ではDP群13.4±4.0日、SP群13.4±4.6日、NP群20.7±13.4日であった。手術時間、術式での違いは認められなかった。
【考察】今回の調査より開心術後は80%の割合で痛みが出現している。興味深い結果として、心リハを早期から開始すると、痛みを複数訴える傾向が示唆される。また痛みの程度は年齢が低下するに伴い訴えが強くなる。これは痛みの閾値の低下によるものと考えられ、その痛みに対応できない症例では自ら上肢の動きを制限し、可動域制限をもたらしている。また、リハ開始別ではDP・SP群ではNP群に比べ抗重力姿位での活動が早期に行われ、肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節での抗重力筋が過剰に反応していると考える。DP群の創部痛以外の痛みは脊柱起立筋から出現し、菱形筋および棘下筋などへと広がっていく傾向が強く出現した。心リハの現在の傾向として早期離床、早期退院であり、早期離床が呼吸循環器系に与える影響は推奨されているにも関わらず、今回のような痛みに対する身体状況は逆に運動を制限する因子である。そのため、入院が長期化するような事もあり、自宅復帰をしてからも残る問題である。これらの痛みに対し当院では肩体操を指導しており、痛みを無くすことよりも痛みに慣れることを念頭において心リハに関与している。この痛みは退院してからも持続するものであり、今後理学療法士が最も活躍できる場であると考える。