理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1192
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内部障害系理学療法
頭低位での低強度運動が生体に及ぼす影響
*西田 裕介丸山 仁司
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抄録
【はじめに】高齢者の運動療法では,安全に継続可能な効率のよい運動が求められている.近年,低強度運動負荷による運動療法の効果が報告されており,安全で安楽な肢位での運動形態として背臥位での循環動態に関する検討がなされている.また,頭低位は重力の影響により静脈還流量および一回心拍出量の増加が期待でき,低強度運動と組み合わせることで効率のよい運動が可能であると考えられる.そこで本研究では,頭低位での低強度運動が生体に及ぼす影響を生理学的指標および主観的運動強度(RPE)にて検討した.
【対象と方法】対象は,研究趣旨を文書および口頭で説明し同意を得た健常成人男性10名,平均年齢21.7±0.8歳とした.運動形態は,自転車エルゴメータを用いた背臥位および頭低位での運動を設定し,心拍一定負荷にて10分間の運動を実施した.負荷強度は,嫌気性代謝閾値(AT)時酸素摂取量(VO2)の50%に対応する心拍数(HR)を目標心拍数(THR)とし,運動中は対象者に心電図モニタでHRをフィードバックし,THRを維持するように指示した.測定項目は,VO2,収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP), RPEであり,解析には背臥位と頭低位での運動5~10分における各測定値の平均値を用いた.統計学的検討には肢位間で対応のあるt検定およびウィルコクソン符号付順位和検定を用いた.有意水準は危険率5%未満とした.
【結果】VO2(背臥位:31.0±5.4ml/min/kg,頭低位:31.9±6.8ml/min/kg),SBP(背臥位:156.6±16.6mmHg,頭低位:156.0±13.9mmHg)では肢位間において有意差は認められなかった.一方,DBP(背臥位:66.8±6.2mmHg,頭低位:73.5±7.3mmHg)では頭低位において,RPE(背臥位:13.0±1.9,頭低位:12.0±1.1)では背臥位において有意に高値を示した(p<0.05).また,目標心拍数の平均値は120.0±16.0bpmであり,安静時においては全ての項目において肢位間に有意差はなかった.
【まとめ】結果より,背臥位と頭低位での運動におけるVO2は同様であるが,頭低位の方が背臥位より対象者の自覚的強度が低く,楽に感じる運動形態であることから,RPEが低い状態で背臥位の運動と同等のVO2を得る事が可能であることが分かる.また,運動中のDBPの増加は,冠灌流圧を増加させ,側副血行および拡張期の冠血流を改善することで心筋虚血を防止する効果が期待できる.この理由として,重力の影響により静脈還流量が増加し,その結果,後負荷の増大と一回拍出量の増加がもたらされたためであると考えられる.以上の事から,特に高齢者では安全かつ継続的な運動が求められることより,頭低位での低強度運動は有用な運動形態の一つであると考えられる.
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© 2005 日本理学療法士協会
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