抄録
【はじめに】我々は、第39回本大会においてセラピーマスターを用いた心臓リハビリテーション(以下心リハ)の試みについて報告した。結果、2症例での報告のため運動療法としての可能性は見出されたが、有用性についての検討は充分ではなかった。そこで今回は症例数を追加し統計学的有意差をもって、有酸素運動が困難な高齢の心機能低下例に対するスリングエクササイズセラピー(以下S-E-T)の有用性を検討した。
【対象と方法】通常の有酸素運動による心リハが困難な高齢の心機能低下例10例(慢性心不全6例、弁疾患3例、冠動脈バイパス術後1例;男6例、女4例;平均83±5歳)を対象とした。10例に対してヘルシンキ宣言に基づく内容を説明し同意を得た。S-E-Tを用いた上下肢運動を臥位・座位・立位にて段階的に施行した。運動処方はBorg指数11-13、1セット20回×3セット/日、合計約30分とし、4週間継続した。評価は心リハ遂行前後で、肺活量、SpO 2、6分間歩行テスト(以下6MD)、二重積、重心動揺検査、心エコーによるLVEF、血中BNP濃度測定を行い比較検討した。解析はpaired-t検定を用い、危険率は5%未満をもって有意とした。
【結果】心リハ後、肺活量(1651±356→1978±477ml、p<0.001)、SpO2(96±2→98±1%、p<0.05)、6MD(102±36→189±50m、p<0.001)は有意に増加し、二重積(7808±2427→6530±1422mmHg・bpm、p<0.01)、重心動揺検査(開眼:104±23→93±27cm、p<0.01、閉眼:122±33→103±23cm、p<0.01)は有意に低下した。LVEF(42±14→46±18%、N.S.)、血中BNP濃度(532±439→341±417pg/ml、N.S.)は有意差を認めなかった。
【考察】心臓自体の回復を示す心筋収縮能や血中BNP濃度などの中枢性効果の改善は認めておらず、むしろ換気効率や歩行距離といった末梢骨格筋の代謝改善などの末梢性効果を認める結果となった。心リハにおける様々な運動療法の見解では、運動耐容能の改善は中枢性効果によるものではなく、末梢循環や骨格筋代謝の改善等がそれらの機序として考えられると述べている。今回の結果はそれらと同様に末梢性効果が身体に好影響を与え、運動耐容能の向上へ至ったと思われる。つまり、S-E-Tは他の心リハの運動療法と同一的な反応を示したと考えられる。トレッドミル歩行や自転車エルゴメータなどの有酸素運動が困難な症例においては、運動肢位に制限がなく負荷量の調整が容易で、筋力トレーニングも行えるS-E-Tが有用であると考えられる。
【まとめ】S-E-Tは有酸素運動が困難な高齢の心機能低下例に対し、心リハの運動療法としての有用性が示唆された。