抄録
【背景・目的】虚血性心疾患(IHD)患者は、健常者と比較して交換神経活動が過剰に亢進し、副交感神経活動は低下しており、これらはIHD患者の生命予後に影響を及ぼすことが知られている。運動療法により交換神経活動の低下、副交感神経活動が増加することが報告されているが、その検討は不十分である。自律神経活動の指標として心拍変動解析より得られる高周波成分(HF)、低周波成分(LF)とおよびそれらの比(LF/HF)がある。また、最大エントロピーを用いて心拍変動解析を行うことで得られるエントロピーが自律神経系の活動を反映することが報告されている。また、我々は運動に対する大動脈伸展性が自律神経機能を反映する可能性を報告している。そこで今回、この最大エントロピー方および運動に対する大動脈伸展性を用いて自律神経活動を評価し、運動療法が急性心筋梗塞患者の自律神経活動の及ぼす影響について検討することを目的とした。
【対象】入院期の心臓リハビリテーションを終了したIHD患者のうち、退院時と発症6ヵ月後の心臓リハビリテーション終了時(6ヶ月時)に検査可能であった27名を、退院後も運動療法を継続できた運動群16例(平均年齢62±13歳、男性15名、女性1名)と、運動が継続できなかった非運動群11例(平均年齢63±7歳、男性10名、女性1名)に分類した。
【方法】自律神経活動の指標として、TARAWA/WIN(諏訪トラスト社製)を用いてMemCalcシステムにて24時間ホルター心電図より得られたR-R間隔を解析し、HF、LF、LF/HF、エントロピーを算出した。運動負荷に対する大動脈伸展性は、15分間の安静後に運動前のPWVを測定し、その後自転車エルゴメータにて計19分間の運動負荷を実施、負荷終了後再び10分間の安静をとり運動後のPWVを測定した。運動後PWVから運動前PWVを引いた値をΔPWVとして算出した。また、年齢、体重、BMI、合併疾患、随時血圧、血清ノルアドレナリンおよびアドレナリン濃度、脳性ナトリウム利尿ベプチド、血清脂質、高感度C-反応性蛋白、血管内皮機能指標(フォンウィルブランド因子)、頚動脈内膜中膜肥厚、心臓超音波検査所見を診療録より調査した。退院時ならびに6ヶ月時の変化を両群で比較検討した。
【結果】両群で年齢、合併疾患に差は認めなかった。6ヵ月後に、運動群ではエントロピー、HFが有意に増加し、LF/HF、ΔPWVが有意に低下したが(P<0.05)、非運動群では変化しなかった。フォンウィルブランド因子は運動群で有意に低下し、非運動群で有意に上昇した(P<0.05)。また、運動群のみHDLコレステロールが有意に増加しLDLコレステロールが有意に低下した(P<0.05)。
【まとめ】発症後6ヶ月間の運動療法の継続は、副交感神経活動を増加させ、交感神経活動を低下させる。また、血清脂質の是正、血管内皮障害の軽減効果も認められた。