抄録
【はじめに】神経調節性失神(neurally mediated syncope:以下NMS)は、失神の原疾患の中で最も頻度が高いことが知られている。近年、その診断方法としてHead-up tilt test(以下HUT)が積極的に行われている。またNMSの治療としてTilt-Trainingが有効であることも知られるようになった。今回、我々はHUTによるNMSの確定診断及びTilt-Trainingによる治療が有用であった2症例を経験したので報告する。
【症例1及び経過】14歳、女性。11歳頃から失神を繰り返してんかんの診断で近医へ通院していた。抗てんかん薬の内服による眠気や吐気などに苦労していた。その後精査目的に平成15年5月8日に当院紹介受診となり、同年7月25日にHUTを施行。Head up 10分で失神 (洞停止25秒)をおこしNMSの心抑制型と診断され治療目的に入院となった。治療として塩分及び水分負荷,Tilt-training(1回/日)を5日間施行(7月29日~8月4日)し起立時間の延長を認め症状も改善傾向となった。その後8月5日にイソプロテレノール0.02γ負荷でHUTを行ったところ失神は認めず治療の有効性が確認され、失神の再発リスクが少ないと判断し退院となった。退院後も塩分及び水分負荷、Tilt-Trainingを継続して頂き現在まで約1年の間失神の再発を認めない.今後数年間失神の再発がなければ塩分及び水分負荷、Tilt-Trainingを中止する予定。
【症例2及び経過】21歳、女性。過去に7回以上の失神歴あり。失神による頭部外傷の既往もある。平成15年11月5日に当院を受診し、同年11月14日にHUTを施行。Head up 20分で失神 (洞停止18秒)をおこしNMSの心抑制型と診断され治療目的に入院となった。塩分及び水分負荷、Tilt-Training(2回/日)を9日間施行(11月18日~12月1日)。起立時間は徐々に延長し、8日目には40分間の立位が可能となった。12月1日の午後にイソプロテレノール0.01 γ負荷でHUTを行い症状もなく終了。退院後も塩分&水分負荷、Tilt-Trainingを継続して頂き現在まで失神発作を認めていない。
【考察】NMSは長時間の起立、過度の緊張、精神的ショック、疼痛などが誘引となり、生理的な自律神経反射の過剰反応が発生機序であると理解されている。患者にとっては失神発作を繰り返すために日常生活に支障をきたしたり、不安を抱いて精神的にも大きな影響をうける。治療法としては薬物療法や、ペースメーカー治療が報告されているが、近年ではTilt-Trainingや生活療法のみでも十分に予防が可能との報告がある。今回の2症例でもTilt-Trainingを含めた生活指導のみで治療し、短期間での改善効果が得られた。そして、1年近く経過した現在でも失神の再発は起きていない。特に今回の症例のように若年者や妊娠可能年齢の女性の場合には内服治療などが困難なことも多いのでTilt-Trainingの有用性は非常に大きいと思われた。