理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 789
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生活環境支援系理学療法
長期間半寝たきり状態から環境整備・福祉用具使用により歩行器歩行獲得に至った症例について
―ADL能力向上がその他に及ぼす影響を視野に入れて―
*滝本 幸治西川 典男喜多 耕士
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抄録
【はじめに】生活機能低下を来たしている在宅生活高齢者の訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)は、これまでの長い生活や人生を反映した極めて個別的なものでなくてはならない。今回は訪問リハにて、長期間起立・歩行が不可能であったにもかかわらず、積極的なテクニカルエイドにより効果的にADLが向上した症例を経験した。そこで身体機能面に依存した介入期間と、環境整備等を行った期間に生じたADL変化を分析し、またADL変化がQOLや介護者の介護負担感に及ぼす影響をも考察するとともに、今後の訪問リハの在り方について若干の知見を述べる。
【症例】76歳・男性、20年程前に慢性関節リウマチの診断を受ける。その後次第に活動が制限され、3年前に起立・歩行不能となる。平成15年10月に訪問リハ開始(2回/週)、当初の現症はSteinbrocker Class III、両側手指の変形を認める。時に関節痛を認めるものの服薬により安定している。基本的動作はベッド上起居、端坐位保持可能であるが起立・移乗等は全介助、機能的自立度評価法(以下、FIM)86点である。
【方法】ADL評価としてFIMを用い、1週間毎に評価を行った。まず関節可動域運動、筋力増強運動、起立・移乗練習など主に身体機能面の改善に重点を置いたアプローチを行った。その後これらのアプローチを継続しながら1.ベッド高調節と起立練習、2.歩行器使用による移乗練習、3.屋内歩行器歩行練習、4.屋外歩行器歩行練習、5.浴室の段差解消及び浴室出入り練習と段階的に行い、各期において目的とする動作が自立且つ安定した時点で次の期へ移行するものとした。またQOL評価としてPGCモラールスケールを症例に、介護負担感の評価としてZarit介護負担尺度(日本語版)を主介護者である妻に各々訪問リハ開始時及び検討終了時に実施した。結果の解析方法は、治療期間とFIMとの関係を各期別にceleration line(以下、CL)とその傾き・レベルを抽出しADLの改善度を検討した。またQOL、介護負担感の評価は変化率を求め検討した。
【結果】CLの傾きは、身体機能面に重点を置いたアプローチ期間より環境整備・福祉用具を使用しアプローチを行った期間の方が明らかに大きく、ADLの改善に効果的であったと判断された。各期におけるレベルは、治療経過とともに明らかに高くなっていた。PGCモラールスケール及び介護負担尺度は変化率各々1.25、1.47と改善の傾向を示した。
【考察】ADLが改善した要因は、環境整備・福祉用具を適切な時期に適切な種類を選択できたこと、また段階に応じて獲得した能力を生活の中で発揮できたこと等が考えられる。またQOLや介護負担感に変化が生じたことは、訪問リハを行う上で考慮すべき視点と思われる。今後は対象者を取り巻くあらゆる環境、個別性を重視した対応が重要である。
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© 2005 日本理学療法士協会
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