理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 800
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生活環境支援系理学療法
移乗介助のポイントに対する認識と介護負担との関係
*日高 正巳小林 修
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抄録

【はじめに】移乗介助は、介護職者が感じる身体的介護負担の中で、最も影響を与える介護技術であり、我々理学療法士がその助言や指導に関わることは多い。教科書的な移乗介助だけでは、個々の介護場面に対応することが出来ず、応用的理解を深めることが、介護負担軽減のためにも重要と考えている。そこで、介護現場に携わる方の移乗介助時における種々のポイントについての認識と身体的介護負担の感じ方の関連について検討を加えたので報告する。
【対象と方法】S県老人福祉施設協議会ディサービス部会の研修会への参加者93名を対象にアンケート調査を実施した。介護現場に従事している者を対象とした研修会であることより、職種については、特に限定しないということで調査協力を得た。なお、母集団のうち、介護職員は43.0%、看護職員は19.4%であった。調査内容は、基本的な移乗介助方法のポイントの置き方6項目と腰・膝・腕への負担の感じ方について、それぞれを長さ10cmのVASにて測定した。VASは、ポイントについては一端を「基本に忠実」とし、他端を「それにこだわらない」とし、負担については、「負担を感じない」と「負担を感じる」を両端とした。統計学的検討としてはPearsonの積率相関係数を求め、項目間の関連性を検討した。
【結果】アンケートの回答は86名から得られた(回収率92.5%)。“腰部の負担”と関係では、“車椅子の設置方向”(r=.38)、“下肢間に介護者の下肢を入れるか否か”(r=.39)、“ベルトを持つか否か”(r=.41)、“利き足を意識するか”(r=.31)の各項目との間で統計学的に有意な相関を認めた(p<0.01)。また、“腕の負担”との関係では、“利き足を意識するか”との間でやや相関がみられた(r=.24,p<0.05)。さらに、負担の部位間の関係においては、腕の負担と膝の負担との間には相関がみられた(r=.30,p<0.01)が、腰の負担と腕・膝の負担との間には相関を認めなかった。
【考察】調査の結果、車椅子の設置方法、介助時の下肢の状態、介助時の手の持ち方が腰部の負担と関連性があることが示唆された。また、腕と膝の負担の間に相関が認められたことより、膝を使う介護者は腰背部筋以上に腕の力で介助している可能性が窺えた。自立支援を念頭においた場合、限定された環境ではなく、対象者の実生活で求められる種々の環境の中で動作が自立していくように援助していくことが必要である。そのための移乗介助としては、常に往復動作の視点が必要である。また、排泄・入浴時の介助を考えると、体幹の支持方法も重要なポイントとなる。よって、介助方法の助言・指導を行う場合、教科書的基本に忠実に行うことも大切であるが、それにとどまることなく、種々の条件下でより身体が自然と動くような運動学的見地に立った指導を行うことが、介護職者の介護負担を増強させないためにも重要であると考える。

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© 2005 日本理学療法士協会
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