理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 835
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生活環境支援系理学療法
股関節離断を伴った胸髄損傷者の車いすクッションの適合
*岩崎 洋吉田 由美子廣瀬 秀行中村 隆三田 友記星野 元訓関 寛之
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抄録

【はじめに】 既製車いすクッションでは適合性が不十分なため,坐骨部への荷重集中により,褥瘡を繰り返していた股関節離断を伴う胸髄損傷症例に対して,当センターシーティングクリニックにて褥瘡再発予防,座位保持能力の向上を目的とした車いすクッションを製作した。そして,良好な結果が得られたので報告をする。
【症例】 56歳・男性。機能レベルTh2,平成9年に山岳事故による及び,胸椎1番,頭蓋骨,顎,顔面骨,左大腿骨,左足関節骨折,仙骨部に発症した褥瘡が細菌感染,平成10年,その感染が左大腿骨におよび,軽快せず左股関節離断術施行,平成12年,当センター病院入院,平成13年,褥瘡の完治後より座位評価を開始。
【初期座位評価と対処方針の決定】 体幹,下肢関節の可動域制限はみられない。日常生活では倒れ込みを防ぐために,左手による支持を必要としていた。プッシュアップおよび,上肢支持にて体幹を前後左右に傾けることよる除圧・減圧動作は可能であった。座位の問題点として,脊髄損傷による下肢および体幹の感覚麻痺と姿勢保持能力の低下,それに加え,股離断による左大腿部及び殿部軟部組織の欠損により左半側の支持面積が大きく減少していた。そのため,左右の座位バランスが悪く,股離断側へ体幹が倒れ込み,左坐骨への圧集中が起きることが指摘された。クッションは5種類の試用評価と接触圧測定を施行した。結果は全てにおいて,坐骨部には200mmHg以上の圧が確認された。対処方針として以下の機能を有する車いすクッションが必要と考えた。1.離断側への倒れ込みを防止し,上肢による支えを必要としないように座位能力を向上させる 2.離断側坐骨部の除圧が容易な形状。3.食事,机上動作の体幹前屈位でも褥瘡部位に高圧が加わらない。 尚,背シートは座面への圧分散と体幹安定のため体幹上方までの高さが必要である。
【クッション】 採型は低反発ウレタンフォームクッションを鋳型として用い,クッション上にギプスシーネを敷き詰めた上で座位をとり,股義足ソケットの体重支持理論を応用した股離断部前面,後面部の軟部組織に圧迫を加える手技を施した。この際,上肢による支持を必要としない体幹安定性があること,及び骨盤水平位を確認した。材料はリボンデッドフォームウレタン材を主材とし,生体に接触する表面には柔軟な多孔質材を貼り付けた二層構造とした。
【結果】 机上作業姿勢でも褥瘡部位は15mmHgと圧は軽減されていた。坐骨部の圧分散と上肢の支えを必要としない座位保持を可能にした。これにより,ある程度固さのある材質でも支持面積を大きくとることができ,圧分散の効果が得られることが示された。
【今後の課題】 クッション材の劣化は避けられず,それによる座面形状の不適合により,圧力分散効果が薄れる可能性も否定できない。この点は定期的なフォローアップが必要である。

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© 2005 日本理学療法士協会
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