抄録
【はじめに】温熱療法での効果を細胞レベルで明らかにすることが重要になっている。われわれは、マウス線維芽細胞と骨折治療に用いられるHydroxyapatite(HA)を混合培養し、適度な温熱刺激を与えるとHAの周りを囲んだ細胞群が出現し三次元様増殖を形成することを見出している。温熱療法の効果を細胞生物学的に示すため、この三次元様増殖の形成率が有効な指標となると考え第39回本学術大会にて報告した。今回は、マウス線維芽細胞をヒト線維芽細胞に代え同様の実験を行い、あわせて温熱刺激に対するサバイバルの実験を加え、最適な温熱量、つまり設定温度と処理時間を検討することを目的とした。
【対象と方法】培養細胞としては、正常ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞を使用した。HAは、実験前に100個ずつ試験管に入れオートクレーブで30分間滅菌を施した。温熱処理には、温浴槽(Yamato;Water Bath Shaker Personal 2)を使用した。温熱刺激は、設定温度を38~46°Cの範囲とし処理時間はすべて10分間に統一し温浴槽で処理した。三次元様増殖は、HAの周りを200μm以上の幅で細胞群が囲んだものとし、すべてのHAについて1週間ごとに10週目まで位相差顕微鏡で観察した。三次元様増殖形成の割合は、χ=(三次元数/100)×100として算出した。一方、サバイバルの実験においては、同じく設定温度は38~46°C、処理時間もすべて10分間とし温浴槽で処理した。温熱刺激を与えて培養し1週間後および2週間後に生き残った細胞を血球計算板にてカウントした。統計解析は、独立した測定を3回行いその平均値を代表値として、一元配置分散分析(ANOVA)を行い有意差を求めた後、多重比較検定に最小有意差法を適用し危険率5%をもって有意差ありとした。
【結果と考察】三次元様増殖の形成は、すべての群において概ね4週目から観察され7週間目にピークとなった。7週目の形成率は温熱刺激を与えなかった対照群に対して40~43°C群のものに有意な差がみられた(p<0.05)。つまり、対照群の形成率は14.7±0.6%に対し40~43°C群では28.0~43.3%となり、1.9~3.0倍の高い誘導率を示した。一方、温熱刺激に対するサバイバルの実験においては、40~43°C群で1週間目に27.6~50.4%の細胞死がみられ、2週間目においては2.2~18.1%の細胞死となっていた。また、40~43°C群の中で最も高い形成率を示したのは40°C群であり43.3±2.8%であった。なお、40°C群のサバイバルの実験では、1週間目が27.6±0.3%、2週間目では2.2±1.9%の細胞死がみられた。つまり、最適な温熱量は40°C10分間であったことから、温熱刺激による細胞ダメージからの回復が三次元様増殖形成の促進になったものと考えられる。このことから温熱療法の効果を高めるための知見が、三次元様増殖形成率とサバイバルの実験から得られるものと思われた。