抄録
【目的】
寒冷療法は,近年日本でも多く利用されている手段のひとつである.冷却することで組織温の低下を引き起こし,組織の血流に変化を与えると考えられている.その効果として局所の新陳代謝の低下,毛細管透過性の減少,一次的血管収縮と二次的血管拡張,浅部疼痛受容器に対する麻痺作用,筋紡錘活動の低下などとされているが,冷却量の違いによる組織内の循環動態を計測した報告は少ない.本研究の目的は,冷却時間を変化させた場合の,筋組織内の循環動態を観察し,寒冷療法の治療時間の検討を行うことを目的とした.筋組織内の循環動態は近赤外線分光法を用いて深部組織内の血液量を反映する総ヘモグロビン(Total-Hb)を測定した.
【方法】
対象は書面にて本研究の趣旨を理解し同意を得た上肢に障害既往のない健常成人24名(男17名,女性7名,年齢 22.5歳31~19歳,身長168.4±9.2cm,体重61.5±10.7kg)とした.冷却は噴射型冷却刺激装置(伊藤超短波社製Cryo 5)を用いて上腕中央前面を中心とし移動法にて2分間・6分間・10分間の冷却をした3群(無作為に各8名)を比較した.測定肢位は仰臥位で肩関節外転45度とし,近赤外線分光器のプローブを右上腕外側で上腕二頭筋長頭の筋腹中央の皮膚上に取り付けた.冷却前5分間と冷却後20分間の計25分間のTotal-Hbを測定し5分間隔に分割して解析した.冷却部の皮膚表面温度(ST)は熱画像測定器を用いて,冷却部中央部を測定開始より2分間隔で測定した.STは,10-40度の範囲を対象とした.
【結果】
Total-Hb値は区間毎に積分値を求め,冷却前5分間に対する各区間の百分率を算出した.冷却におけるTotal-Hbの区間比率は,2分間の冷却群では冷却直後の5分間は減少しているが,以後は上昇が認められた,6分間の冷却群では冷却直後の5分間は減少が見られるが時間と共に徐々に増加する傾向が見られた,10分間の冷却群では冷却後から減少が見られ20分間経過後も減少継続が認められた.また3群のSTは冷却開始時から時間経過と伴に低下し,冷却終了後より温度の回復が見られた.各時間でのSTは2分間・6分間・10分間の順に低値を示した.
【考察】
冷却刺激によるST変化は前回の実験結果と同じ傾向が認められた.Total-Hbの積分値比率は,2分間・6分間・10分間の冷却時間の違いで差が認められた.Total-Hbの積分値比率に違いが見られたことは,循環反応は冷却時間で変化があり,治療目的に応じた冷却時間の設定が必要であると考えられる.本研究結果に限局すれば,慢性疼痛の改善や血流増加による生理的作用の効果を期待する場合は短時間の冷却がよく,出血傾向の抑制や急性炎症抑制の効果を期待する場合には10分以上の冷却が必要である事が示唆された.