抄録
【はじめに】腰椎間歇牽引療法の効果の1つに脊柱周囲軟部組織に対する循環促通効果が挙げられる。しかし、その効果に対する先行研究は少なく、詳細は不明な点が多い。そこで今回我々は軟部組織の中でも傍脊柱起立筋に着目し、近赤外線分光装置を用いて非侵襲的に腰椎間欠牽引療法の循環促通効果を検討したので報告する。
【対象と方法】対象は右利き健常男性7名(年齢:19.7±1.3歳、BMI:21.7±1.8kg/m2)とした。腰椎牽引には電動型間歇牽引装置(OG技研製:OL-2000)を用い、牽引肢位は三角枕を用いたsemi Fowler肢位とした。牽引方法は3分間の安静後(安静期)、牽引時間10秒、休止時間10秒の間歇牽引を15分間(牽引期)行い、さらに9分間の安静(回復期)をとらせた。牽引量は体重の40%に設定した。循環動態の測定には近赤外線分光装置(島津製作所:OM-220)をサンプリング周波数1Hzで用い、測定部位は右傍脊柱起立筋の胸腰椎移行部(TL)レベルならびにJacoby線(JB)レベルの2ヵ所とした。測定項目は酸化ヘモグロビン量(oxy-Hb)、脱酸素化ヘモグロビン量(deoxy-Hb)ならびに総ヘモグロビン量(total-Hb)の3項目とした。分析は安静期、牽引期ならびに回復期の合計27分間を各3分間の9ブロックに分割し、各ブロックの平均値を算出、安静期に対する変化率を求め代表値とした。各測定項目における傍脊柱起立筋2箇所の牽引に伴う経時的変化パターンの違いを、反復測定による二元配置分散分析(有意水準5%)を用いて検討した。
【結果】oxy-Hbならびにtotal-Hbの経過パターンについて、JBレベルでは牽引期に安静期のレベルを下回り、回復期では上回るといった経過パターンを示していた。またTLレベルでは、測定中常に安静期のレベルを維持し、変化を認めない経過パターンを示していた。 deoxy-Hbについては両レベルとも測定中常に安静期のレベルを維持する経過パターンを示していた。しかし、これらの経過パターンについては、各測定項目とも統計学的有意差を認めるものでなかった。
【考察】今回の結果から、健常者におけるsemi Fowler位での腰椎間歇牽引療法では、傍脊柱起立筋に対する循環促通効果はTLレベルに比べ、JBレベルに期待できることが示唆された。しかし、その効果は統計学的にいえるものではなかった。そのため、腰椎間歇牽引療法における傍脊柱起立筋に対する循環促通効果は極めて少なかったと考えられる。しかし、対象者が腰痛症などにより腰背部筋に筋スパズムなどを呈している場合や、牽引負荷量を変更した場合は、異なる結果も期待できると考えられる。