理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1232
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下肢骨折患者の免荷期から全荷重期における主観的情報と客観的情報の解釈
*八坂 一彦高橋 昭彦片岡 保憲沖田 学
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抄録

【はじめに】
今回,受傷初期より歩行再獲得に対して強い不安を抱いていた膝蓋骨・脛骨骨折を呈した症例を担当した.本症例に接する中で,歩行に対する不安は自らの身体やその障害を的確に意識できていないことに起因していると思われた.そこで,免荷期から全荷重期を通じて,自らの身体と運動に関する主観的情報と客観的情報を収集し,その関連性に着目して経過を観察したので報告する.
【症例紹介】
本症例は,平成16年5月18日に転倒を起因に左膝蓋骨骨折,左脛骨顆部骨折を受傷した70歳の女性である.5月24日に観血的骨接合術を施行した.術後5週目には全関節可動域訓練が許可された.PT評価として,左膝関節の関節可動域は屈曲140度,伸展は両下肢ともに-10度,筋力は左膝関節屈曲・伸展ともに4レベルであった.また,左膝関節の関節覚は軽度低下していた.術後より関節可動域,筋力ともに順調な回復が得られたが,歩行獲得に対する強い不安感が残存していたため,術後6週目より立位・歩行に関する主観的情報と客観的情報の収集を開始し治療へと反映させた.術後7週目より1/3部分荷重が開始され,術後11週目に全荷重となり,その5日後に退院となった.
【分析項目】
主観的情報として,座位姿勢にて,立位・歩行を自身が行っている場面を想起させ,身体をどのように感じているのかという内観報告をインタビューにより聴取した.また,立位を想起している際の足跡の絵を紙面上へ記載させた.客観的情報として,1/3部分荷重期より歩行をビデオにて撮影した.
【結果および考察】
1/3部分荷重期の患側下肢において,立脚中期の機能的膝屈曲の欠如,立脚期の短縮などが認められた.その時期には「左足は伸ばしているみたい」「(左に)体重を置かずに歩きますね」などの内観報告が得られた.さらに聴取を続けると,「(意識は)足の運びだけ」「右に力を入れてます」「こけやしないかなという怖さがある」などと客観的情報だけでは知りえない主観的情報も得られた.また想起させた患側の足跡は,小さく歪な足跡であった.このことから,歩行における患側膝関節・足部を,細分化された力学的器官としての認識が行われず,情報器官としての機能が低下していると解釈された.これらを踏まえ,関節覚の再認識,身体情報の再統合を目的に,膝関節に対し,位置覚識別課題,軌道板を用いての追跡運動などを行った.また足部に対し,スポンジやコインを用いての圧覚識別課題などの介入を行った.全荷重期において,歩行は改善傾向を認め,内観報告にも変化が認められた.さらに想起させた患側の足跡は,大きさも形も実物大の足跡へと近づいた.
言語は,身体を介して世界を表象してゆく道具としての側面を持っている.本症例における主観的情報は,客観的情報を鋭敏に表現し,両者は身体を介して相補的に捉えられていると考えられた.以上のことより,病態を把握する為には,客観的情報と主観的情報の両側面より分析し,アプローチしていく必要性が示唆された.

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© 2005 日本理学療法士協会
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