理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 574
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理学療法基礎系
関節固定後のラットヒラメ筋のコラーゲン線維に対するストレッチの影響
*沖田 実井上 貴行日比野 至坂野 裕洋中野 治郎鈴木 重行
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抄録

【目的】 臨床においては,ギプスや装具などによる関節固定の結果,二次的に拘縮に至る場合が多く,その発生メカニズムの一つに骨格筋のコラーゲン線維の変化が指摘されている.具体的には,関節固定によって不活動状態に曝された骨格筋は含有するコラーゲン量が増加し,線維化の進行を認めるとした報告や塩や酸などにも可溶化されない不溶性コラーゲン量が増加し,強固な分子間架橋の形成が推察されるとした報告,あるいは筋内膜を構成するコラーゲン線維に配列変化を認めるとした自験例の報告などがある.一方,拘縮の治療にはストレッチを主体とした運動療法が広く行われているが,コラーゲン線維の変化に焦点をあて,その治療効果を検討した報告は少ない.本研究の目的は,関節固定後のラットヒラメ筋のコラーゲン線維に対するストレッチの影響を生化学的に検討することである.
【方法】 Wistar系雄性ラットを無処置の対照群と両側足関節を最大底屈位で4週間ギプス固定する実験群に振り分け,実験群はさらに1)固定のみの群(固定群),2)固定終了後に1,2週間,足関節底屈筋群にストレッチを行う群(治療群),3)固定終了後に1,2週間,ストレッチは行わず,通常飼育する群(非治療群)に分けた.治療群の各ラットには自作の他動運動機器を用い,麻酔下で足関節底背屈運動を4秒に1回のサイクルで1日30分,週6回実施し,足関節底屈筋群をストレッチした.各群の実験期間終了後はヒラメ筋を検索材料に供し,中性塩,酸,ペプシン各々による可溶性コラーゲン,ならびに不溶性コラーゲンを抽出した.そして,コラーゲンの定量としてコラーゲンに特有の構成アミノ酸であるヒドロキシプロリンの含有量を測定した.なお,本実験は星城大学と名古屋大学医学部の動物実験倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】 対照群と固定群を比較すると,塩可溶性コラーゲン量は有意差を認めなかったが,酸・ペプシン可溶性コラーゲン量,不溶性コラーゲン量,全コラーゲン量は固定群が有意に高値を示した.次に,治療群と非治療群を比較すると,1,2週目ともすべての可溶性コラーゲン量は有意差を認めなかったが,不溶性コラーゲン量は治療群が有意に低値を示した.また,治療群と不動群の比較ではすべての可溶性コラーゲン量と全コラーゲン量は有意差を認めなかったが,不溶性コラーゲン量は治療群が有意に低値を示した.
【考察】 今回の結果から,関節固定によって不活動状態に曝されたヒラメ筋は線維化の進行と含有するコラーゲン線維に強固な分子間架橋が形成されていると推察される.そして,今回のストレッチは,筋の伸張-弛緩を繰り返す方法であるが,この様なストレッチでは一端形成されたコラーゲン線維の分子間架橋を改善させ得る可能性が窺えた.ただ,筋の線維化の改善には好影響はもたらさず,治療時間や期間などについて今後検討が必要と思われる.

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© 2006 日本理学療法士協会
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