理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法基礎系
  • 池添 冬芽, 浅川 康吉, 島 浩人, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】固有筋力とは単位筋横断面積あたりの筋力のことをいい、筋力発揮に関わる神経性因子の指標として用いられている。筋横断面積は筋厚と相関がみられることから、近年では超音波法により筋厚を測定し、これを筋横断面積の指標とし、簡便に固有筋力指数を求めることができるようになった。しかし、高齢者を対象とした固有筋力に関する報告は少ない。本研究では、高齢女性と若年女性における大腿四頭筋の筋力、筋厚、固有筋力の違いについて検討した。
    【対象と方法】本研究に同意を得た養護老人ホームに入所している高齢女性31名(平均年齢81.7±6.4歳)及び健常若年女性21名(平均年齢22.6±2.5歳)を対象とした。超音波診断装置(東芝メディカル社製SSA-320)を使用し、安静時における大腿四頭筋の筋厚を測定した。測定肢位は椅座位で股・膝関節屈曲90度位とし、測定部位は大転子と大腿骨外側上顆を結んだ線上50%で外側広筋上とした。筋厚は外側広筋と中間広筋を合わせた筋厚(以下、大腿筋厚)を測定した。膝伸展筋力は徒手保持型ダイナモメーターを使用し、椅座位で膝関節屈曲90度位での最大等尺性筋力を測定した。また、本研究では大腿筋厚×(大腿周径/2)を大腿四頭筋の筋横断面積の指標とし、膝伸展トルク値(Nm)をこの断面積で除した値(以下、固有筋力指数)を求めた。【結果と考察】高齢女性における大腿筋厚は1.99±0.57cm、膝伸展トルクは30.7±15.7Nm、固有筋力指数は0.91±0.51であった。これらの項目と年齢との相関をみると、膝伸展トルクのみ有意な相関(r=-0.40, p<0.05)がみられた。一方、若年女性における大腿筋厚は4.26±0.38cm、膝伸展トルクは91.1±22.2Nm、固有筋力指数は1.14±0.25といずれも高齢者よりも有意に高値を示し、高齢女性では若年女性と比較して大腿筋厚で約1/2、膝伸展筋力では約1/3に減少することが確認された。これらのことから、大腿四頭筋では筋厚よりも筋力の方が相対的に加齢による低下の程度が大きく、高齢期になっても筋力は加齢に伴う低下がみられることが示された。また、高齢者では筋厚のみならず固有筋力指数も低下していたことから、筋力低下の原因として筋量の減少以外に神経性因子の変化が関わっていることが推察された。さらに、これらの因子についてそれぞれ変動係数を求めると、大腿筋厚は高齢者29%、若年者12%、膝伸展トルクは高齢者51%、若年者34%、固有筋力指数は高齢者56%、若年者28%であり、高齢者では変動幅が大きかった。高齢者の固有筋力指数は最も変動幅が大きく、筋力発揮能力に関わる神経性因子は高齢者では個人差が拡大することが示唆された。このことは、例えば固有筋力指数が相対的に低い者は神経性因子の改善によって、より大きな筋力向上が得られる可能性があると考えられる。このような超音波法による筋特性の評価は、筋力トレーニング処方の際の指標として、今後、応用が期待される。
  • 藤野 英己, 上月 久治, 田崎 洋光, 武田 功, 梶谷 文彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】筋萎縮は筋タンパク質の分解系活性が上昇することで惹起される.筋タンパク質の分解系にはリソソーム系,カルパイン系,及びユビキチン-プロテアソーム系の3経路が関与することが知られている.一方,運動は筋萎縮予防に有効な手段であることは知られているが,筋タンパク質の分解系活性への影響については不明確である.また,先行研究でプレコンディショニング運動(Pre-Ex)がラット尾部懸垂中の筋原線維タンパク質の減少を減衰させることを報告したが,その制御機構については検証できなかった.本研究ではPre-Exが筋タンパク質の減少を抑制する機構を明らかにするために,タンパク質の分解系の3経路に関与するカテプシンL,カルパイン3,及びユビキチンリガーゼ(E3),タンパク質の合成系に関与する熱ストレスタンパク質(HSP)72,さらに筋細胞のアポトーシスに関与するカスパーゼ3の各mRNAを測定して,Pre-Exの効果について網羅的解析を行った.【方法】Wistar雄性ラット15匹(8齢)を使用し,1)Morey法により2週間の尾部懸垂を行った群(HS),2)尾部懸垂前に25分間のトレッドミル走行(20 m/s,上り坂20°)をして,HSを行った群(ExHS),及び3)対照群に区分した.ペントバルビタール(50mg/kg,i.p.)で麻酔し,ヒラメ筋を摘出した.高濃度K+溶液による筋原線維抽出法(Tsikaら)で筋原線維タンパク質量を測定した.次にTRIzol Reagent法によってtotal RNAを抽出し,ランダムプライマーによるRNA逆転写酵素によりcDNAを合成した,カテプシンL,カルパイン3,E3,HSP72,カスパーゼ3,及び内在性コントロールのリボゾーム18Sの各mRNAはリアルタイム定量PCR法によりRNAの増幅,及び定量化(Taqman(R) Gene Expression Assays)を行った.検定にはKruskal Wallis,及びMann-Whitney U検定を使用し,5%未満を有意水準とした.本研究は所属機関の動物実験指針に従って行い,動物実験承認を得ている.【結果】筋原線維タンパク質量は対照群の113±3 mg/gと比較し,HSでは70±13 mg/gと有意に減少したが,ExHSでは107±7 mg/gと筋原線維タンパク質量の減少を減衰させた.2週間の尾部懸垂によりカテプシンL ,カルパイン3,及びE3は有意に増加を示したが,ExHSでは変化を示さなかった.一方,HSP72 mRNAはHSで有意に低下したが,ExHSでは変化を示さなかった.カスパーゼ3のmRNAは3群間に差はなかった.【考察・結論】2週間の実験期間内でラットヒラメ筋の筋原線維タンパク質量の減少を予防できた.この制御機構として,タンパク質分解系であるカテプシン L ,カルパイン3,及びユビキチンリガーゼの活性化を抑制していることが検証できた.また,タンパク質の分子シャペロン作用をもつHSP72の減少を減衰することができた.これらの結果から尾部懸垂前の運動は筋タンパク質分解系の活性化を抑制でき,廃用性萎縮の進行を予防できることを示唆した.
  • 市橋 則明, 池添 冬芽, 大畑 光司
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 3
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】筋力を推定するために表面筋電図を用いることが多いが,1)深部筋の測定ができない2)皮膚の処理に時間がかかる3)日を変えて筋活動の変化を比較することが不可能などの問題のため臨床的にあまり使われていない.近年,筋厚の変化により筋力を推定しようという試みがされているが,筋厚と筋力の関係を明確に示した報告は少ない.本研究の目的は,1)超音波法で求めた大腿四頭筋の安静時と収縮時の筋厚を各屈曲角度で比較すること2)大腿四頭筋の筋力発揮と筋厚の変化量の関係を明確にすることである.
    【対象と方法】本研究に同意を得た健常学生20人(男性13名,女性7名:平均年齢22.2歳)を対象とした.測定肢位は背臥位(膝伸展位)と椅子座位(膝30,60,90度屈曲位)とし,超音波画像診断装置(GE横河メディカルシステム)を用いて大腿四頭筋の筋厚を測定した.筋厚は各屈曲角度で安静時と大腿四頭筋の最大収縮時に測定した.また,膝30度屈曲位においては,最大膝伸展筋力をマスキュレータ(OG技研)で測定し,それを100%MVCとし,安静時と0(重力のみが抵抗),25,50,75,100%MVCの筋力を発揮したときの筋厚を測定した.測定部位は上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ線上の1/2(RF部:大腿直筋(RF)と中間広筋(VI)),遠位1/3から3cm外側(VL部:外側広筋(VL)とVI),膝蓋骨上から45度内側へ5cm(VM部:内側広筋(VM)とVI)とした.統計学的検討には,対応のあるt検定,反復測定分散分析,多重比較を用いた.
    【結果と考察】膝伸展位と30度屈曲位では,最大収縮により筋厚はすべての部位で有意に増加した.増加率は,伸展位ではRF部20.3%,VL部10.7%,VM部28.2%であった.30度屈曲位ではRF部16.6%,VL部8.0%,VM部21.5%と増加率は伸展位に比べて減少した.60度屈曲位では,RF部4.5%,VM部22.7%と有意に増加したが,VL部には変化がなかった.90度屈曲位ではVM部は5.1%とわずかに増加したもののRF部(-4.5%)とVL部(-7.1%)は有意に減少した.30度屈曲位における0-100%MVC筋力発揮時の多重比較では,RF部では0,25,50,75%MVCの筋力発揮により各MVC間において有意に筋厚は増加した.ただし,75%と100%MVCの筋厚には有意な変化はなかった.一方,VL部とVM部では安静時,0%,25%MVC間には有意な増加が見られたが,25%MVCと50,75,100%MVC間に有意な変化はなく,25%MVCでほぼ筋厚は最大値を示した.これらの結果より,大腿四頭筋の筋厚が筋収縮により大きく増加するのは,膝伸展位と30度屈曲位であり,筋短縮位の方が筋厚の変化を評価するには優れていることが判明した.また,筋短縮位である30度屈曲位であってもVM部とVL部は25%MVCと100%MVCに差がなく,筋力の推定には使えないと考えられた.本研究により30度屈曲位での大腿中央部(RF部)の筋厚の変化は75%MVCまでは筋力の変化にほぼ対応し,筋厚により75%MVCまでの筋力を推定できる可能性があることが示唆された.
  • 材料特性とその生体内劣化
    田邉 芳恵, 信太 雅洋, 伊藤 俊一, 福田 修, 東 千夏, 谷黒 裕子, 安田 和則
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 4
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】 高度に破壊された関節軟骨や半月板を人工軟骨で置換する治療は、臨床における夢の一つであるが、臨床使用に耐える人工軟骨はいまだ開発されていない。最近、我々は超低摩擦特性と高強度を有し、正常関節軟骨にその物性値が匹敵するダブルネットワーク(DN)ハイドロゲルを開発した。現在これらのゲル材料の生体への応用の可能性を探るべく、種々の角度から医工学的評価を行っている。本発表の目的は、4種類のユニークなDNゲルの材料特性とその生体内劣化を報告することである。

    【方法】 評価対象はポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)-ポリアクリルアミド(PAAm)DNゲル、PAMPS-ポリジメチルアクリルアミド(PDMAAm)DNゲル、セルロース(Cel)-PDMAAm DNゲル、セルロース-ゼラチン(Cel-Gel)DNゲルの4種類である。直方体(10×10×5mm)に成形した各ゲル材料11個を用意した。そのうち5個は直ちに圧縮破壊試験(10%/min)に供した。残りの6個を6羽の白色家兎の背部皮下の4箇所にランダムに埋植し、6週間後に屠殺して手術創周囲の状態、ゲル材料周囲の状態、ゲル材料の変形について観察を行い、摘出ゲルの圧縮破壊試験を同様に施行した。各材料について埋植による効果の比較にはt検定を用い、有意水準は5%とした。

    【結果】 埋植前のPAMPS-PAAm、PAMPS-PDMAAm、Cel-PDMAAm、およびCel-Gelゲルの平均破断応力はそれぞれ17.2、3.1、2.9、および3.7MPa、初期弾性率は0.33、0.20、1.60、および1.70MPa、破断歪は92、73、50、37%であった。なおこれらの含水率はそれぞれ90.4、94.0、85.0、78.0%、摩擦係数(tribometer計測)は0.01、0.01、0.02、および0.20であった。PAMPS-PAAm、PAMPS-PDMAAm、およびCel-PDMAAmには埋植による材料特性の劣化を認めなかった。しかしCel-Gelゲルでは破断応力は有意(p<0.0001)に低下し、含水率が有意(p<0.0002)に増加した。

    【考察】 評価した4種類のDNハイドロゲルはそれぞれ特徴的な材料特性を有した。特に軟骨に匹敵する超低摩擦特性を有するPAMPS-PAAmおよびPAMPS-PDMAAmゲルは人工軟骨や半月板の素材として期待の持てる材料と考えられた。今後は生体適合性や耐久性など多くの基礎的な生体工学的評価が必要であり、人工軟骨および半月板に対する理学療法の裏づけにしていきたいと考える。

    【まとめ】 4種類の高強度・低摩擦ダブルネットワークゲルの生体内における劣化特性を評価した。PAMPS-PAAmゲルおよびPAMPS-PDMAAmゲルは、極めて低い摩擦係数を持ちながら高い圧縮強度を有し、力学的特性の生体内劣化は起こりにくかった。Cel-Gelゲルでは顕著な生体内劣化を認めた。
  • 桒原 慶太, 山田 美加子, 渡辺 学, 大沢 涼子, 内山 靖
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 5
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】立ち上がりは日常生活の中で頻回に行われている動作であると同時に、足関節可動域の改善、下肢筋力増強、バランス改善等の波及効果を目的に理学療法でしばしば選択される運動課題である。本研究では、立ち上がり動作練習を実施した場合の運動学習における時間的・空間的要因に着目した短期介入効果を検証することを目的とした。
    【方法】対象は、研究に同意の得られた10m以上の歩行が可能で入院理学療法を施行している骨・関節系疾患、脳血管障害、20人(運動障害群、平均年齢68.4±11.9歳、男性7名、女性13名)とショートステイ利用中で明らかな運動障害のない虚弱高齢者10人(非運動障害群:平均年齢81.0±6.4歳、男性4名、女性6名)とした。立ち上がり動作課題は、通常の理学療法後に自動介助運動で1日に25回行い5日間継続した。立ち上がり練習には、入院生活の中でほとんど使用する機会がない高さ36cmのソファーを用いた。Csukaらによって考案された立ち上がり所要時間を計測するTimed-stands test (TST)を用い、理学療法施行前と課題施行前後に毎日計測した。また、類似課題を表す指標として、高さ42cmの椅子でのTSTを計測した。運動機能を表す指標としては、大腿四頭筋筋力、歩行速度、ケイデンス、Functional reach test、360度回転、Timed“Up and Go”test、開脚立位での前後左右の随意的な重心移動を計測し、機能的制限を表す総合指標としてFunctional movement scale(FMS)を実施した。統計学的解析は、Wilcoxon符号付順位検定とBonferroni多重比較検定を用した。
    【結果および考察】初期評価時のTSTの平均は運動障害群で17.9±4.7秒、非運動障害群で15.5±4.6秒、最終評価時はそれぞれ13.6±3.6秒、12.4±3.4秒といづれの群も有意な改善を示した。なお、両群とも1日目から5日目のいずれの日も、理学療法施行前後には有意な改善はみられず、立ち上がり課題施行前後に平均9.2~11.3%の有意な改善を認めた。このことから、立ち上がり動作はそのほかの介入によって有意な変化はみられず、直接的な課題によって改善する課題特異性が示された。また、前日の改善は翌日も維持され、介入の持ち越し効果も認められた。類似課題のTSTでは、運動障害群は平均34.0%、非運動障害群は平均25.0%と有意な改善を示した。他の運動機能および機能的制限にかかわる指標は、運動障害群で11.3%~22.3%、非運動障害群で3.5~13.9%の有意な改善を示した。このような波及効果はファンクショナルリーチによるバランス練習よりも顕著で、立ち上がり動作課題は時間的・空間的な介入効果の高い優れた運動課題の一つであることが示唆された。
  • 松﨑 太郎, 細 正博, 上田 寿子, 武村 啓住, 立野 勝彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 571
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】我々は関節拘縮の病態像を明らかにするため,ラットの後枝膝関節に関節拘縮を作成し関節構成体の変化を調査してきた。今回の目的は第40回日本理学療法学術大会にて報告した関節拘縮モデルを使用して関節固定を4週間行い,関節構成体の変化を観察する事である。

    【方法】9週齡のWister系雄性ラットを5匹(220~268g)使用した。ラットは8週齡にて入手し,1週間ケージ内にて飼育した後に実験を行った。先行研究に倣い,麻酔下にて膝関節を金網とギプスを使用して固定した。金網とギプスの重量は平均18±2.0gであった。固定時には股関節,足関節の運動に支障を来さないよう留意し,固定期間は先行研究との比較を行うため4週間とした。固定期間中は創と浮腫の予防に留意し,また外れた場合には速やかに再固定を行った。実験開始1週経過後,ラットが固定を噛み切る事例が増えたため,ジャケットを装着させた。ジャケット着用後でもラットは着用前と変わらず両前肢と両後肢を使いケージ内を移動する事が可能であり,水,餌はともに自由に摂取可能であった。実験期間が終了した後,麻酔下にて膝関節に無理な力を掛けないよう留意し固定を外した。灌流固定を行った後に速やかに両下肢を採取した。採取した後肢を組織固定後に脱灰し,膝関節の切り出しを行い,中和,パラフィン包埋を行ってから薄切し標本とした。ヘマトキシリン・エオジン染色を行なった後に光学顕微鏡下で関節構成体を病理組織学的に観察し,デジタルカメラにて撮影した。

    【結果】線維芽細胞と推測される紡錐形細胞からなる膜状の組織が大腿骨及び脛骨の軟骨表面を覆うように増生していた。また半月板周囲から関節腔内に滑膜様組織あるいは肉芽組織が増生しており,組織中では血管増生も観察され,うっ血像が観察された。また,膝蓋骨下方から前部半月板周囲までの関節包で滑膜様の細胞が増生していた。これらの増生した組織が関節軟骨と癒着している部分では関節軟骨の欠損が観察された。全ての標本で出血および炎症細胞浸潤の所見は見られなかった。

    【まとめ】1.関節を4週間固定して関節拘縮を作製し,拘縮関節内での病理組織学的変化を観察,検討した。2.拘縮を生じた関節内では,先行研究と同様に1)滑膜様組織の増生,2)増生した滑膜様組織と関節軟骨の癒着,3)滑膜様組織が癒着した箇所での関節軟骨の消失が観察されたが,関節腔内の変化はより強く生じていた。3.先行研究と異なり,炎症細胞は観察されなかった。4.今後さらに関節固定期間を延長した拘縮モデルを作成して拘縮発生の経過を明らかにする必要が示唆された。
  • 森山 英樹, 坂 ゆかり, 金村 尚彦, 今北 英高, 武本 秀徳, 本田 豊美, 吉村 理, 飛松 好子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 572
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】中枢神経損傷後の関節構造の変性として,関節滲出液,関節腔の狭小化,関節軟骨の菲薄化,異所性骨化,骨端部の肥大が報告されているが,これらの研究では拘縮との関連について述べられておらず,報告された変性と拘縮発生の因果関係を明確に説明するには不十分である.本研究の目的は,先行研究で確立したラット脊髄損傷拘縮モデルを用いて,拘縮の発生過程における関節構造の変性を形態学的および組織形態計測的に分析することである.
    【方法】本実験は,広島大学の動物実験指針および広島大学医学部附属動物実験施設の内規に従って行った.16匹の8週齢 Wistar系雌性ラットを使用した.8匹の動物を実験群として,第8胸椎レベルで脊髄を完全に切断し,8匹の動物を対照群とした.実験開始後4,8,10,12週の期間に,各群2匹の動物を割り当て,各動物の左右膝関節を異なる標本として評価した.実験期間終了後,マイクロフォーカスX線拡大撮像システム µFX-1000を用いて,管電流 100 mA,管電圧 40 kV,照射時間 10秒の条件で,両後肢のエックス線像を得た.その後,4% パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝食塩水で還流固定を行った.膝関節と周囲の軟部組織を採取した後,さらに同じ固定液で4°Cにて18時間浸漬固定を行った.その後,10% エチレンジアミン四酢酸/0.1 M トリス塩酸緩衝液で4°Cにて42~89日間脱灰した.脱灰終了後,パラフィン包埋した.包埋した組織で,内顆中央部での5 µm厚の連続薄切を行い,サフラニンO・ファースト緑染色,トルイジン青染色を行った.O'Connor(1997)の方法に従い,大腿骨および脛骨の関節軟骨を,大腿骨前方,大腿骨後方,脛骨前方,脛骨後方の部位に分け,Trudelら(2005)の方法に準じて,軟骨細胞数,表面不規則性,軟骨厚の3つの指標で,関節軟骨の変性を評価した.統計解析は,二元配置分散分析を行った.有意な主効果か交互作用が認められた場合,下位検定として,単純主効果検定とサイダックのt検定による多重比較検定を行った.
    【結果】関節部のエックス線像には,実験群と対照群で異なる所見は認められなかった.実験群の軟骨細胞数は,対照群と比較して,大腿骨前方では減少,大腿骨後方では増加していたが,脛骨では有意に異なっていなかった.大腿骨と脛骨の軟骨表面は,すべての実験期間で不規則であった.実験群の軟骨は,対照群と比較して,大腿骨前方でのみ厚くなり,大腿骨後方,脛骨前方,脛骨後方で薄くなった.
    【考察】固定後の関節拘縮において,関節軟骨に多様な変性が生じる.本研究での脊髄損傷後の軟骨の変性パターンは,固定後に報告されたものとは異なり,脊髄損傷後の拘縮に特異的なものであった.軟骨の再生能力の考慮すると,本研究結果は,臨床において早期発見と特異的な治療の必要性を示唆する.
  • コスタメアに着目した観察
    加藤 茜, 藻垣 友恵, 笹井 宣昌, 縣 信秀, 宮津 真寿美, 清島 大資, 河上 敬介, 早川 公英
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 573
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】身体の不活動により筋の収縮活動は低下し、それに伴い筋は萎縮する。この筋萎縮には、筋に加わる機械刺激により誘導される細胞内シグナル伝達経路が関与していると考えられている。筋線維と細胞外基質の間には、細胞外の力を伝達する役割を持つ、コスタメア構造がある。そのコスタメアに類似した構造として、線維芽細胞や上皮細胞に見られる焦点接着装置がある。これらの細胞の焦点接着装置では、機械刺激により構成タンパクの局在が変化することで、細胞内シグナル伝達経路の活性が変化する。このことから、筋のコスタメア構成タンパクも、機械刺激の有無によりその局在が変化する事が考えられる。そこで本研究では、除神経による萎縮筋のコスタメア構成タンパクの局在を明らかにした。
    【方法】対象はラットのヒラメ筋 (n= 5)である。左坐骨神経切除を施したヒラメ筋を除神経群、同一個体の除神経しない右ヒラメ筋を対照群とした。除神経 3 日後に、各筋を急速凍結した。筋腹の中央部付近から取り出した筋組織より横断切片を作成し、H-E 染色を施し、落射蛍光顕微鏡像を取得した。画像解析ソフト(Scion Image)にて筋線維 100 本の筋線維断面積を測定した。また筋腹の中央部付近から取り出した筋組織より縦断切片を作成し、コスタメアの構成タンパク質の一つであるPaxillinに対する抗体で蛍光抗体染色し、共焦点レーザー顕微鏡像を取得した。この染色でPaxillinは横紋様のバンド状に染色されたので、そのバンド間の距離とバンドの幅を測定した。各個体の画像から筋細胞膜付近が観察可能な筋線維を2本ずつ選び、画像処理ソフト MetaMorph (Universal Imaging. Co)にて解析した。
    【結果】除神経群の筋線維横断面積は 1468±143 μm2</sup>で、対照群 2172±174 μm2</sup>に比べ有意に小さかった。縦断切片では、微分干渉像でZバンドの配列やバンド間の距離に関して、二群間で大きな差はなかった。Paxillin抗体による蛍光染色像では、両群とも先行研究と同様にZ バンド付近が横紋のバンド様に観察された。染色バンドのバンド間距離は、対照群 1.98±0.14μmと除神経群1.84±0.45μmであり、群間の差はなかった。一方バンドの幅の平均は対照群で0.78μm、除神経群で0.81μmあった。ヒストグラムで表すと対照群が 0.80μmをピークとする一峰性、除神経群は 0.60μmと 1.07μmをピークとする二峰性となり、除神経群のばらつきが大きかった。
    【考察】除神経筋ではPaxillinの局在が変化した。Paxillinと結合する部位を持つFocal Adhesion Kinase (FAK)の活性は、心筋細胞の筋節構造の維持と肥大に関与すると報告されている。またPaxillinとFAKの結合を阻害すると、機械刺激による FAKの活性化が阻害される事が報告されている。よって、除神経によって筋中のPaxillinの局在が変化したことによりFAKの活性が変化し、筋の萎縮が誘導されたのかもしれない。
  • 沖田 実, 井上 貴行, 日比野 至, 坂野 裕洋, 中野 治郎, 鈴木 重行
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 574
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 臨床においては,ギプスや装具などによる関節固定の結果,二次的に拘縮に至る場合が多く,その発生メカニズムの一つに骨格筋のコラーゲン線維の変化が指摘されている.具体的には,関節固定によって不活動状態に曝された骨格筋は含有するコラーゲン量が増加し,線維化の進行を認めるとした報告や塩や酸などにも可溶化されない不溶性コラーゲン量が増加し,強固な分子間架橋の形成が推察されるとした報告,あるいは筋内膜を構成するコラーゲン線維に配列変化を認めるとした自験例の報告などがある.一方,拘縮の治療にはストレッチを主体とした運動療法が広く行われているが,コラーゲン線維の変化に焦点をあて,その治療効果を検討した報告は少ない.本研究の目的は,関節固定後のラットヒラメ筋のコラーゲン線維に対するストレッチの影響を生化学的に検討することである.
    【方法】 Wistar系雄性ラットを無処置の対照群と両側足関節を最大底屈位で4週間ギプス固定する実験群に振り分け,実験群はさらに1)固定のみの群(固定群),2)固定終了後に1,2週間,足関節底屈筋群にストレッチを行う群(治療群),3)固定終了後に1,2週間,ストレッチは行わず,通常飼育する群(非治療群)に分けた.治療群の各ラットには自作の他動運動機器を用い,麻酔下で足関節底背屈運動を4秒に1回のサイクルで1日30分,週6回実施し,足関節底屈筋群をストレッチした.各群の実験期間終了後はヒラメ筋を検索材料に供し,中性塩,酸,ペプシン各々による可溶性コラーゲン,ならびに不溶性コラーゲンを抽出した.そして,コラーゲンの定量としてコラーゲンに特有の構成アミノ酸であるヒドロキシプロリンの含有量を測定した.なお,本実験は星城大学と名古屋大学医学部の動物実験倫理委員会の承認を得て実施した.
    【結果】 対照群と固定群を比較すると,塩可溶性コラーゲン量は有意差を認めなかったが,酸・ペプシン可溶性コラーゲン量,不溶性コラーゲン量,全コラーゲン量は固定群が有意に高値を示した.次に,治療群と非治療群を比較すると,1,2週目ともすべての可溶性コラーゲン量は有意差を認めなかったが,不溶性コラーゲン量は治療群が有意に低値を示した.また,治療群と不動群の比較ではすべての可溶性コラーゲン量と全コラーゲン量は有意差を認めなかったが,不溶性コラーゲン量は治療群が有意に低値を示した.
    【考察】 今回の結果から,関節固定によって不活動状態に曝されたヒラメ筋は線維化の進行と含有するコラーゲン線維に強固な分子間架橋が形成されていると推察される.そして,今回のストレッチは,筋の伸張-弛緩を繰り返す方法であるが,この様なストレッチでは一端形成されたコラーゲン線維の分子間架橋を改善させ得る可能性が窺えた.ただ,筋の線維化の改善には好影響はもたらさず,治療時間や期間などについて今後検討が必要と思われる.
  • 井上 貴行, 原田 裕司, 沖田 実, 鈴木 重行
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 575
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 臨床において、間歇的伸張運動は拘縮の治療方法の一つとして用いられているが、その治療効果を検証した報告は少ない。一方、拘縮の一病態として、筋内膜におけるコラーゲン線維の配列変化が骨格筋の伸張性・柔軟性低下に影響することが報告されている。そこで、本実験では拘縮に対する間歇的伸張運動の治療効果を検証する目的で、間歇的伸張運動が不動終了後のラットヒラメ筋の筋内膜コラーゲン線維網の形態変化におよぼす影響を検討した。
    【方法】 Wistar系雄性ラットを無処置の対照群と両側足関節を最大底屈位で4週間ギプスで不動化する実験群に分け、実験群はさらに1)不動のみの群(不動群)、2)不動終了後に1、2週間、通常飼育する自然回復群、3)不動終了後に1、2週間、ヒラメ筋に間歇的伸張運動を施す運動群に分けた。運動群には自作した他動運動機器を用い、麻酔下で足関節底背屈運動を4秒に1回のサイクルで1日30分、週6回実施することで間歇的伸張運動を施した。各群すべて4週間の不動直後に麻酔下で足関節背屈角度を測定し、自然回復群と運動群については不動終了後1、2週目にも同様に測定した。また、各群の実験終了後はヒラメ筋を採取し、4g重錘にて伸張した状態で組織固定を行い、細胞消化法の後に筋内膜コラーゲン線維網を走査電子顕微鏡で検鏡・写真撮影した。そして、コラーゲン線維走行を定量化するため、筋線維長軸方向と個々のコラーゲン線維のなす鋭角な角度(0‐90°)を測定し、そのヒストグラムを求めた。なお、本実験は名古屋大学医学部動物実験倫理委員会の許可を得て行った。
    【結果】 不動終了直後の足関節背屈角度は対照群に比べ実験群の3群は有意に低値であった。また、自然回復群、運動群の足関節背屈角度は不動終了直後に比べ不動終了後1、2週目は有意に高値で、2週目においては運動群が自然回復群より有意に高値を示した。次に、筋内膜コラーゲン線維網の形態変化として不動群は筋線維長軸方向に対して横走するコラーゲン線維が多く、その走行のヒストグラムをみても40‐70°付近に多い分布状況であった。一方、不動終了後2週目の自然回復群、運動群は筋線維長軸方向に対して縦走するコラーゲン線維が多く、その走行のヒストグラムも20 - 50°付近に多く分布していた。また、自然回復群と運動群を比較すると運動群がより対照群に類似していた。
    【考察】 不動終了後2週目の筋内膜コラーゲン線維網の形態を自然回復群と運動群とで比較すると運動群がより対照群に類似しており、足関節背屈角度も運動群が自然回復群より有意に高値を示した。つまり、間歇的伸張運動は不動終了後の筋内膜コラーゲン線維の配列変化の改善に有効であり、このことが関節可動域制限の回復促進につながったと推察される。しかし、その作用機序などについては不明な点もあり、今後検討する必要があると思われる。

  • 日比野 至, 沖田 実, 井上 貴行, 坂本 淳哉, 片岡 英樹, 中野 治郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 576
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 組織内のコラーゲン線維は成熟とともに主にコラーゲン分子の末端に架橋が生成され,線維の強さや安定性が増すが,これは正常な生理反応であることから生理架橋と呼ばれている.一方,加齢とともにコラーゲン分子間にランダムに架橋が生成されることが指摘されており,これは老化架橋と呼ばれ,組織の柔軟性低下などの加齢現象の原因ではないかといわれている.そして,この架橋結合の生成過程では,架橋結合が少ないコラーゲンは中性塩,酸により可溶化されるが,さらに架橋結合の数や強度が増加するとペプシンなどの酵素による可溶化も制限を受け,不溶性のコラーゲンとなるといわれている.一方,臨床場面において,関節の不動化は骨格筋の伸張性・柔軟性低下を招き,筋性拘縮を惹起する.仮説として,この筋性拘縮の進行過程において,骨格筋内のコラーゲン線維の性質の変化,中でも老化架橋に類似した架橋結合の変化が影響していると考えている.そこで,本研究ではこの仮説を明らかにする目的で,足関節を最大底屈位で不動化したラットのヒラメ筋内コラーゲン線維の可溶性について検討した.
    【方法】 8週齢のWistar系雄ラットを対象とし,無作為に両側足関節を最大底屈位の状態でギプスを用いて不動化する不動群と無処置の対照群に振り分けた.そして,不動期間は4週(5匹),8週(4匹)とし,対照群は不動群と週齢を合わせるため,12週齢(5匹),16週齢(5匹)までケージ内で通常飼育した.各不動期間終了後は,麻酔下で足関節背屈角度を測定し,次いでヒラメ筋を検索材料に,中性塩,酸,ペプシンそれぞれによる可溶性コラーゲンと不溶性コラーゲンを抽出した.そして,コラーゲンの定量としてコラーゲンに特有の構成アミノ酸であるヒドロキシプロリンの組織含有量を測定した.なお,本実験は星城大学が定める動物実験指針に準じ行った.
    【結果】 足関節背屈角度は対照群に比べ不動4週後,8週後とも有意に低値であった.次に,中性塩,酸による可溶性コラーゲンは不動4週後,8週後とも対照群と有意差を認めなかった.しかし,ペプシンによるそれと不溶性コラーゲンは不動4週後,8週後とも対照群より高値であった.また,全コラーゲンも不動4週後,8週後とも対照群より高値であった.
    【考察】 今回の足関節背屈角度の結果から,不動4週後,8週後とも筋性拘縮が発生していることは明らかであった.そして,コラーゲン線維の変化をみるとペプシン可溶性および不溶性コラーゲンについては不動4週後,8週後とも対照群より高値であった.したがって,不動後のヒラメ筋内のコラーゲン線維は分子間架橋結合の数やその強度が増加していることが推測される.また,この様な変化は老化架橋に類似している現象であると推測され,筋性拘縮の一病態であると考える.
  • 再現性と妥当性の検証
    松居 宏樹, 肥田 朋子, 木山 喬博
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 577
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    筋・筋膜の圧痛と、その部位の硬さには一般的に関連があると言われている。しかし、圧痛部位の硬さを測定し、痛みとの関係や、硬さの要因を明らかにした報告は見当たらない。臨床上、硬さと痛みの関係や、その原因を知ることは、非常に大きな意味を持つと考えられる。現在我々は、筋痛モデルラットにおける、痛みと硬さの経時的変化の検討と、痛みを伴う硬さ変化の病態解明を目的として研究を始めている。それには、ラットの生体の硬さを経時的に測定する必要があるが、日間の再現性が問題となる。そのため、本実験ではラットの下腿を固定する台を作成したうえで、生体の押し込みによるラット腓腹筋硬さ測定の日間の再現性と、測定値の妥当性を検証した。
    【方法】
    本実験は本学動物実験委員会の承認を得て行った。対象はSD系雄性ラット5匹 (平均455g) とした。再現性を確認する為、1日ごとに4回の測定を行い、級内相関係数 ( ICC(1,1) ) を求めた。測定の手順は、まず、ネンブタール麻酔下のラットを固定台の上で側臥位にし、踵骨、腓骨頭、大転子が常に同じ位置になるように固定した。腓腹筋を機械刺激装置 (ダイヤメディカル社製, DPS-270) で4mm押し込み、測定された押し込み距離と、反発力の関係から硬さを算出した。押し込み部位にはペンで印をつけ、測定毎にその位置がズレないように固定しなおした。また、妥当性を確認する為、SD系雄性ラット4匹の腓腹筋に生理食塩水0.3ml, 0.4ml, 0.6mlを、日を置いて注入し、注入直後の硬さと注入量との関係を検討した。
    【結果】
    級内相関係数 はICC (1,1) =0.81 (Shroutらの分類でgood) であった。注入量と硬さの間に有意な正の相関を認めた (Spearman順位相関係数,P<0.05,r=0.64) 。
    【考察】
    今回、ラットの体を測定毎に固定することで、硬さ測定の日間の再現性が確認された。また、筋への生理食塩水注入は、用量依存的に筋を硬くしたと考えられた。昨年我々は、ヒトの生体が硬くなる原因として、筋肉の収縮や体液の末梢への貯留による組織内圧亢進が存在することを明らかにした (理学療法の医学的基礎研究会学術集会, 2005)。つまり、本実験での硬さ変化は生理食塩水注入によって、筋内圧が上昇したためと考えられ、ヒトでの先行研究で示された結果と合致した結果が得られた。よって、この測定方法で得られた数値が先行研究と整合性をもった妥当な結果であると考えられた。今後、この機器を用いて筋痛モデルラットの硬さ変化を測定していく予定である。
  • Rhoの活性に着目して
    梅田 知佳, 河原 裕美, 吉元 玲子, 佐々木 輝, 呉 樹亮, 弓削 類
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 578
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 間葉系幹細胞からは,骨,軟骨,脂肪,筋,神経などの組織を作り出すことができる.すでに整形外科領域においては,自家骨髄間葉系幹細胞を培養し,再び損傷部位または欠損部位に戻す,修復・再生治療が行われている.骨髄から血液以外の細胞への分化は非常に低い割合でしか起こらないといわれており,細胞の持つ多分化能を機能修復に利用するためには,その分化のメカニズムを解明し,目的とする細胞へ効率よく分化させる方法が必要となる.第40回大会では,ヒト間葉系幹細胞に分化誘導を行った時の骨芽細胞と軟骨細胞の形態,特に細胞骨格に差異があることを報告した.
    間葉系幹細胞の分化の決定には,細胞の形態や細胞に生じている張力,そして低分子量Gタンパク質Rhoの活性が関与していることが示唆されている.そこで今回は,間葉系幹細胞に骨芽細胞と軟骨細胞へ分化誘導を行い,その細胞におけるRhoの活性に着目をして研究を行った.


    【方法】ヒト間葉系幹細胞を3000 cells/cm2の密度で培養皿に播種し,37°C,5 %CO2,95%airの条件で培養した.骨芽細胞に分化誘導した骨芽群と,軟骨細胞に分化誘導した軟骨群,分化誘導を行わない増殖用培地で培養した対照群の3群に分けた.分化誘導開始日(set 0)と分化誘導3日後と7日後にサンプリングを行った.分子生物学的解析としてwestern blotとRT-PCRを行った.western blotでは,Rhoについて経時的な変化を3群間で比較した.RT-PCRでは,骨芽細胞と軟骨細胞に特異的なマーカーであるmRNAの発現を調べた.形態学的変化は,位相差顕微鏡にて細胞形態を観察した.また,細胞骨格であるアクチンフィラメントと細胞膜加担タンパク質であるビンキュリンを免疫染色し,蛍光顕微鏡で観察した.

    【結果】骨芽群では,主に細胞を形作る細胞骨格であるアクチンファイバーは多く観察されたが,ストレスファイバーは形成せず,ビンキュリンの発現も少なかった.一方,軟骨群では,ストレスファイバーが多く形成され,ビンキュリンの発現数も多く,扁平な細胞ほどフォーカルコンタクトの発現数が多いという説を裏づけることができた.また,細胞の分化方向の形態学的差が骨,軟骨で変化し,細胞内シグナル伝達系のRhoの活性にも変化が起こるという結果を得た.

    【考察とまとめ】ストレスファイバーが多く形成された軟骨群においてRhoの活性が高く,一つのヒト間葉系幹細胞から骨,軟骨の細胞が造られる現象の一端を捉えることができた.今後は,骨・軟骨の再生医療を行った場合の幹細胞における物理的刺激応答に関する研究を行い,理学療法との接点に関わる研究へと展開したい.

  • 筋硬度並びに体表温度を用いての筋回復過程の効果判定
    松永 秀俊, 武田 功
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 579
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は第40回本学術大会にて、筋を収縮前の状態に戻す代謝過程によって産生される回復熱を用い、運動負荷後の筋回復過程の効果判定を行った。しかし、回復熱は30分ほど続くとされており、10分間の結果から導き出したデータでは不十分なものであった。そこで、今回、運動後40分まで回復熱を計測し、更に筋硬度の結果を加え、筋伸張強度が筋回復過程における影響について実験し、知見を得たので報告する。
    【方法】健常大学生8名(男性6名、女性2名:平均年齢21.3±0.7)の右腓腹筋内側頭に対し、筋硬度及び体表温度の計測を行った後、1分間の両足つま先立ちを1分間48回のペースで行わせ、終了後、2度目の計測を行った。次に傾斜角度80°、足関節背屈25°の起立台に1分間立たせ、終了後、3度目の計測を行った。その後、安静にし、運動負荷後10分ごとに4回の計測を行った。これらの結果を起立台立位時、足関節背屈25°にて強い伸張痛の有る3名(以下A群)と無い5名(以下B群)に分け、比較・検討を行った。筋弾性計は井元製作所社製Muscle Meter PEK-1、サーモグラフィは富士通特機システム社製INFRAI-EYE2000を使用した。
    【結果】A群の筋硬度の平均は55.3±2.1、57.0±3.6、56.7±3.5、56.0±1.0、55.0±2.0、55.7±2.1、55.0±1.0の順に変化し、B群の筋硬度の平均は52.0±5.1、53.6±6.0、53.4±5.0、52.2±4.6、51.6±4.8、51.0±3.4、50.2±2.9の順で変化を認めた。結果、A群とB群の間に有意差が認められた。また、A群の体表温度の平均は31.7±1.1°C、31.7±1.2°C、31.8±1.7°C、32.5±1.4°C、32.5±1.0°C、32.1±1.2°C、32.2±1.1°Cの順で変化し、B群の体表温度の平均は32.0±1.5、31.8±1.3°C、32.7±1.6°C、34.4±3.2°C、33.0±1.0°C、32.8±0.7°C、32.6±1.1°Cの順で変化を認めた。結果、A群とB群の間に有意差が認められた。
    【考察】筋硬度の平均において、最も高い値を示したのは両群ともに運動負荷直後で、最も低い値を示したのは運動負荷後40分であった。その差は、A群で2、B群で3.4であり、B群により大きな筋硬度の改善を認めた。また、筋伸張後から運動負荷後40分までの体表温度と運動前の体表温度の差を合計したものはA群で2.4°C、B群で5.3°Cであった。これはA群よりB群において回復熱が大きいことが推測され、筋の回復も速いことが予想された。
    【まとめ】今回、筋伸張強度が筋疲労回復過程に与える影響について実験を行い、強すぎる筋伸張は効果を低下させることが示唆された。しかし、A群とB群では明らかに運動前の筋硬度に差があり、筋の性質の違いについても考慮する必要性を感じている。また、計測時間のズレの調整、対象者数の充足などは今後の課題と考えている。
  • 岩本 浩二, 吉尾 雅春, 本間 道介, 杉本 寿司, 高橋 正知
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 580
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】体表からの硬度計測(以下、硬度計測)は、理学療法において筋疲労や筋スパズム、そして疼痛および筋緊張などの評価として重要であることが知られている。硬度計測は現象を捉えたり、その効果判定に有用である。これまで評価者の触診による判断や、硬度計などを用いた評価が行われている。しかし、いかなる硬度計測においても皮下の脂肪組織を含めた評価であるため、筋に限局した計測値であるとは限らない。よって、本研究では、三角筋に焦点をあて脂肪組織が硬度計測へ及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
    【方法】現在及び過去に肩関節疾患の既往がない健常成人28名を対象とした。男性16名、女性12名、平均年齢40±8.1歳、平均身長163.5±8.1cm、平均体重62.9±12.4kgであった。また全員が右利きであった。本研究は被検者が十分な説明を受けた後、本人の自由意志による同意が得られた後実施した。体脂肪率計測にはTANITA社製体組成計BC-118Dを用いた。硬度は高分子計器株式会社製アスカーFP型を用いて計測した。計測点は右側三角筋部にて肩峰から三角筋粗面へ結ぶ線への中点と定義した。安静時硬度は座位にて肩関節外転90度、肘関節0度、前腕回内回外中間位で計測した。最大筋力出力時硬度はOG技研社製MUSCULATOR GT30に安静時硬度と同様の肢位で着座させ、最大努力筋力で肩関節外転運動をさせたときの硬度を計測した。硬度計測はいずれも3回計測し、その平均値を用いた。分析は体脂肪率と安静時硬度との関係、そして、最大筋力出力時硬度との関係を調べた。また、全対象の体脂肪率の中央値を境に2群に分け、群内における体脂肪率と計測値との関係を調べた。統計処理は統計処理ソフトSPSS 11.5J for Windowsを用い、Pearsonの相関係数を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。
    【結果】全対象の体脂肪率平均は25.8±4.7%であった。安静時硬度平均は41.4±9.7、最大筋力出力時は62.5±10.6であった。体脂肪率は安静時硬度(r=-0.38)と最大筋出力時硬度(r=-0.02)との間に相関はみられなかった。体脂肪率の中央値は26%であった。中央値以下の群は14名で体脂肪率平均は22.3±4.2%、安静時硬度平均は44.8±10.2、最大筋力出力時は64.9±11.1であった。体脂肪率は安静時硬度(r=-0.14)と最大筋力出力時硬度(r=0.31)との間に相関はみられなかった。中央値より高い群は14名で体脂肪率平均は29.1±1.7%、安静時硬度平均は35.9±9.1、最大筋力出力時は60.2±10.4であった。体脂肪率は安静時硬度(r=-0.17)と最大筋力出力時硬度(r=0.07)との間に相関はみられなかった。
    【考察】硬度計測における三角筋計測値は、筋の収縮状態に関わらず脂肪組織の影響を受けないこと、また脂肪が多い少ないということに影響されないことが示された。硬度計により得られた三角筋計測値は筋自体のスパズム、筋緊張、疲労状態を反映するものと考えられる。
  • 渡辺 麻美, 岡本 賢太郎, 井上 宜充, 川 桃子, 久合田 浩幸, 荒井 哉美, 田村 拓也
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 581
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では、顔面神経麻痺の患者の評価法として顔面運動評価法が使用されている。この顔面運動評価法にある10項目の評価について調査・検討したので報告する。
    【対象】
     2004年8月から2005年7月まで、顔面神経麻痺で当院に入院した男性8名、女性9名の計17名(年齢52.9±22.5歳)を対象とした。
    【方法】
     17名の顔面運動評価法の「緊張」「前額作皺」「軽閉眼」「強閉眼」「瞬目」「鼻作皺」「grin」「口笛運動」「blow out cheeks(以下BOC)」「下口唇下動」の10項目をほぼ正常(4点)・部分麻痺(2点)・高度麻痺(0点)の3段階で評価し、40点満点として評価した。それぞれ各項目の発症日から3週目の点数を調べ、比較・検討した。
     また前額作皺・軽閉眼・強閉眼・瞬目の4項目を眼の周囲筋とし、grin・口笛運動・BOC・下口唇下動の4項目を口の周囲筋として3週目の点数の合計点を調べ、比較・検討した。
     統計処理にはWilcoxon符号付順位和検定を使用した。(P<0.05)
    【結果】
     3週目の平均点数は順に、1.軽閉眼:3.47点、2.前額作皺:3.29点、3.緊張:3.18点、4.鼻作皺:3点、5.強閉眼:2.88点、6.口笛運動:2.53点、7.grin:2.41点、8.瞬目:2.23点、9.下口唇下動:2.12点、10.BOC:1.88点であった。最も点数が高かったのは「軽閉眼」であり、低かったのは「BOC」であった。
     また眼の周囲筋の合計は11.88点、口の周囲筋の合計は8.94点であり、眼の周囲筋の点数が有意に高かった。
    【考察】
     発症から3週目で最も点数が高かったのは「軽閉眼」であった。軽閉眼は、眼輪筋の収縮であり、左右に分かれた個々の筋である。上・下眼瞼が軽く触れあえば4点となるので点数が高かったのではないかと考えた。そして最も点数が低いのは「BOC」であった。BOCは、口腔内に空気をためるので口腔内圧が上昇し、口唇を完全に閉鎖する以上に口輪筋の収縮力が必要となる。そのために点数が低かったのではないかと考えた。
     眼の周囲筋、口の周囲筋について3週目の点数を調べた結果、口の周囲筋より眼の周囲筋の点数が高かった。これは口に関しては、左右の筋と共同した運動が多く非麻痺側の筋が優位に働いてしまう。その結果、麻痺側の筋が働きにくくなると考えた。眼に関しては、非麻痺側が必要以上に収縮することはあるものの、麻痺側の運動が働きにくくなることはない。そのために眼の周囲筋の点数は、口の周囲筋より高いのではないかと考えた。
  • 乙戸 崇寛, 竹井 仁, 妹尾 淳史, 渡邉 修
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 582
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】関節運動を制限する目的で用いられる弾性包帯やテーピングは、同時に周囲の軟部組織である筋や腱を圧迫し筋収縮に伴う筋形状変化を妨げる可能性がある。本研究では、足関節底屈筋群を対象に、圧迫する力(加圧力)として血圧計のマンシェットを用い、また足関節底屈運動の抵抗にセラバンドを使用してそれぞれを定量化した。その上で、筋収縮時における加圧による筋形状変化をMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)を用いて解析したので報告する。
    【方法】対象は、本研究の目的ならびに実施内容を説明し同意を得た健常成人男性6名(平均年齢21歳)とした。運動課題は下腿を0mmHgと50mmHgの2条件で加圧した際の等尺性足関節底屈運動とした。加圧には14cm幅のマンシェットを用い、マンシェット上縁を脛骨粗面の位置に合わせた。足関節底屈運動の抵抗はセラバンドとし、足関節角度0°の位置でセラバンドを中足指節間関節で抵抗を受けられるように設定し、張力が500g重で保持できるセラバンドの長さを開始肢位とした。セラバンドの遠位端は被験者本人が把持し、足関節最大底屈位を行わせた状態でMRI撮像時間である90秒間保持出来ることを確認して測定を実施した。測定中の下腿各高位の前後、左右径を計測するために、MRI(GE社製SIGNA1.5T)を用いた。撮像方法は高速スピンエコー法(TR
    1800.0msec, TE 30.0msec, マトリックスサイズ256×256)とし、受信コイルは四肢用QDコイルを使用して下腿の水平断画像を撮像した。スライス幅20mmで、1条件につき10スライス撮像し、1回の撮像時間は90秒であった。撮像後の解析方法は加圧力50mmHgによって脛骨腓骨間距離の変化しなかった箇所のみ検討した。脛骨腓骨間距離1/2からの垂線を前後径とし、脛骨と腓骨の最後方部の接線を結び左右径とした。統計処理にはSPSS(ver.12)を用い、ウィルコクソンの符号付順位和検定を実施し、有意水準は5%とした。なお、本研究は首都大学東京研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
    【結果】セラバンドの抵抗力は平均1.1kg重であった。ウィルコクソンの符号付順位和検定の結果、膝関節面より遠位10cmの水平断画像における左右方向の筋形状に有意差が認められた。
    【考察】50mmHgで加圧をした状態で筋収縮を行うと、0mmHgで加圧を加えない状態での筋収縮に比べて、収縮中の筋形状に変化が生じることが示唆された。MRIの撮像条件により、これ以上の加圧力や運動時の抵抗を増加させることが困難であったので他の圧との比較はできないが、軽度の加圧力であっても筋収縮中の筋形状に変化が生じ、その変化は筋線維方向にも変化を与えることが予想され、筋張力や筋出力に影響を与えることが示唆された。
  • 伊藤 正憲, 弓永 久哲, 鈴木 俊明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 583
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】周期的に繰り返される刺激に合わせて随意運動を同期発現(以下、タイミング同期動作)するためには、動作を外界の状況にあわせて予測する必要がある。タイミング同期動作の同期誤差については、時間知覚などに関する報告が多く、実際の動作を筋電図学的に検討した報告は少ない。本研究は、聴覚刺激を用いたタイミング同期動作における同期誤差の推移および同期誤差と筋積分値の関係を検討し、随意運動発現の様式について考察することを目的とした。

    【対象と方法】対象は右利きの健常者10名、平均年齢30.1±7.9歳とした。聴覚刺激および筋活動の記録にはVikingIV(Nicolet社製)を用いた。被験者は椅座位とし、机上に位置させた右示指先端にワイヤ式変位計(共和電業製)を装着した。聴覚刺激の刺激条件は、刺激の入力にはヘッドホンを使用し、刺激頻度0.5Hz、刺激強度90dB、刺激周波数1KHz、刺激回数は1試行毎9回の連続刺激とした。タイミング同期動作の動作課題は右示指伸展とし、記録筋は右示指伸筋とした。実験課題は、聴覚刺激に合わせて右示指伸展を同期発現させた。被験者1人に対し3試行実施し、3試行目の記録を個人のデータとした。ワイヤ式変位計により得られた右示指伸展開始時間と聴覚刺激入力時間との差を同期誤差として算出した。また、得られた右示指伸筋の筋電図波形より筋積分値を求め、放電時間で除し、単位時間当たりの筋積分値を算出した。検討項目は、刺激回数変化に伴う同期誤差の推移および同期誤差と筋積分値との関係とした。統計処理は、一元配置分散分析とSNK検定法による多重比較およびPearsonの相関係数を用いて検討した。被験者には実験の目的と方法を説明し、同意を得て実施した。

    【結果】1回目の同期誤差と比較し、3~9回目の同期誤差は有意に短縮した(p<0.01)。2回目の同期誤差と比較し、4~9回目の同期誤差は有意に短縮した(p<0.01)。3回目以降の同期誤差に有意差は認められなかった。また、同期誤差と筋積分値の間には有意な相関を認めなかった。

    【考察】刺激回数変化に伴う同期誤差の推移パターンにおいては、4回目の聴覚刺激入力までに刺激の周期性を認知し、4回目以降は予測的な随意運動制御によりタイミングを合わせていると考えられる。これは、過去における時間経験と小脳によるfeedforward制御が関与していると考えられる。同期誤差と筋積分値の関係においては、同期誤差が減少すると、少ない筋活動で効率のよい運動ができる、あるいは運動が随意化されることで筋活動が増大することが予想された。本研究結果では、同期誤差と筋積分値に相関は認められなかった。これは、予測的な随意運動発現の初期には、効率の良い運動と随意化された運動が混在し、タイミングを同期させるためにより調節的な動作が生じていると考えられる。
  • 筋の収縮特性による違い
    井畑 裕貴, 五月女 洋, 町野 瑞子, 窪田 幸生, 竹井 仁
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 584
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】1 Repitition Maximum(1RM)を用いた運動強度の設定として、協調性の改善には1RM の40-50% 、持久力には50-60%、筋力には60%以上の強度が効果的といわれている。その際の運動回数の目安としては、運動する筋や関節に関係なく2秒/1回の往復運動として、90%が3回、80%が8回、70%が12回、60%が20回、50%が40回という報告(Kunz1990)や、90%が4回、80%が11回、70%が22回、60%が30回という報告がある(Jacobsen1992)。しかしながら、筋や関節運動が異なる場合の運動回数に関する報告はない。そこで、今回数種類の異なる筋による運動を実施し、至適運動回数の検討を行ったので報告する。
    【方法】対象は、実験趣旨を説明し同意を得た健常成人22名(男11・女11)で、平均年齢は27.2(22-36)歳であった。被験筋は利き手の上腕二頭筋(Bi)と上腕三頭筋(Tri)、蹴り側の前脛骨筋(TA)と大腿直筋(RF)の4筋とした。Biは背臥位・肘関節軽度屈曲位から90度屈曲まで、Triは腹臥位でベッドから前腕を自然下垂した肢位から肘完全伸展まで、TAは背臥位・膝軽度屈曲位・足趾屈曲位にて自然底屈位から内反を伴う背屈、RFは背臥位・足関節底屈位でのSLRを実施した。1RMの測定に引き続き、90・80・70・60・50%の運動強度にて、2秒/1回の往復運動速度で運動を反復し、代償運動の出現あるいは筋疲労や痛みが出た時点で終了した。各%の運動は5日以上の間隔で実施した。測定器具には、運動の負荷量[kg]を容易に変更可能なロジャーモバイルスピードプーリー(日本メディックス)を使用した。統計処理にはSPSS(ver.12)を用いて、回帰式の算出とt検定を実施した(有意水準5%)。
    【結果】1RMの平均値[kg]は、Bi:5.9、Tri:10.4、TA:10.5、RF:6.8であった。Y軸に回数を、X軸に1RMの%をとった二次回帰式のR2は全筋:0.68、Bi:0.84、Tri:0.80、TA:0.82、RF:0.77となり全て有意であった。各二次式に90・80・70・60・50%の値を代入した運動回数は順に、全筋:5・11・17・24・32回、Bi:5・13・22・34・49回、Tri:6・12・17・24・30回、TA:5・10・15・21・28回、RF:4・8・12・17・22回となった。また、BiとTriとの比較では、70・60・50%の回数に、TAとRFとの比較では、80・70・60・50%の回数にそれぞれ有意差があった。           
    【考察】全筋を対象にした1RMの各%の運動強度に対する運動回数は、先行研究と比較して若干異なる結果となったが、これは対象や実験方法の違いによるものと考える。ただし、上肢と下肢の各筋別に運動回数を比較すると、上腕二頭筋より上腕三頭筋で回数が少なく、前脛骨筋より大腿直筋で回数が少なかった。この原因としては、筋の収縮特性として、上腕二頭筋よりも上腕三頭筋に、前脛骨筋よりも大腿直筋に速筋線維が多いことが原因と考える。よって、1RMの各%の運動強度に対する運動回数を設定する際には、筋の収縮特性も考えて運動処方する必要がある。
  • 間瀬 教史, 居村 茂幸, 北川 薫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 585
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】今回、我々は下肢の骨関節手術後の患者を対象に、筋力増加に伴うMFCV(muscle fiber conduction velocity)の変化について観察し、筋の廃用状態の評価としてのMFCVの有用性の可否について検討したので報告する。
    【方法】対象は、下肢の骨関節手術後に運動療法を中心としたリハビリテーションを行った12人(男性2人、女性10人)で平均年齢69.6±10.1歳である。手術の内訳は、人工股関節置換術7例、観血的骨接合術3例、大腿骨外反骨切り術、人工骨頭置換術各1例である。
     MFCVの測定筋は内側広筋とした。被検者は、股関節および膝関節屈曲90°での椅座位姿勢であった。電極は、1mm×10mmの銅電極を5mm間隔で8個配列した微小表面電極列を用いた。微少表面電極列は、膝蓋骨上縁から3~5cm中枢側の内側広筋筋腹から筋線維走行に沿って配貼した。電気刺激は、持続時間0.5msの矩形波を用い、刺激頻度1Hzで、内側広筋末梢部を刺激した。筋電図は、それぞれ隣り合う電極から7つの筋電図を双極性に導出した。電気刺激の強度は、電気刺激部位に最も近位の電極から導出した波形を第1波形、最も遠位の電極から導出した波形を第7波形とすると、第1波形から第7波形にかけ、一定の潜時差をもった陰性ピークを持つ波形が得られる強度を採用した。MFCVは、電極間距離(30mm)を、第1波形と第7波形の陰性ピークの遅延時間 (msec)で除して算出した。膝関節伸展筋力は、デジタル力量計(竹井機器工業製)を用い、被検者は股関節および膝関節屈曲90°での椅座位姿勢で、膝関節最大等尺性伸展を行うことにより測定した。また、測定は、手術後2回から4回行った。1回目の測定は、手術後理学療法が開始され、筋力測定が許可された時に行い、最後の測定は退院時に行った。運動療法期間は平均53.3±18.1日であった。
    【結果】術後の筋力は、1度目の測定時では13.6±7.4kgであったものが、最後の測定時には21.7±8.4kgと有意(p<0.01)に回復し、すべての症例が筋力回復を示した。MFCVは、1度目の測定時では2.75±0.23m/sであったものが、2回目の測定時には3.06±0.24m/sと有意(p<0.01)に速くなり、すべての症例のMFCVが速くなった。さらに、3回以上の測定を行った7例の筋力とMFCVの経時的な変化をみると、多くの例で筋力回復に伴いMFCVも速くなり、筋力とMFCVはほぼ直線的に変化した。
    【考察】手術後の安静により、廃用性筋力低下を示した症例の筋力回復に伴うMFCVの変化を観察した結果、筋力回復にともないMFCVは速くなることがわかった。この結果から、MFCVは、廃用性筋力低下の評価として有用であると考えられる。

  • 高齢者献体標本からの組織学的検討
    浅井 友詞, 田中 千陽, 佐久間 英輔, 馬渕 良生, 曽爾 彊
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 586
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     加齢による骨格筋の機能的能力の低下や萎縮は日常的にいわれているが、形態的所見からは明らかにされていない。さらに、廃用性による変化はラット等での実験が多く、人体での臥床期間と筋萎縮の関係を組織学的に検討した報告は少ない。
     今回我々は比較的年齢の近い高齢女性で発症から死亡までの期間に差がある 2例を解剖する機会を得た。そこで献体より採取した筋肉を組織学的に比較検討したので報告する。
    【症例】
     症例1: 死亡時年齢90歳・女性・身長約145cm・死因;急性胆のう炎にて4日間入院中、誤嚥性肺炎にて急死。
     症例2: 死亡時年齢92歳・女性・身長約145cm・死因;4ヶ月半入院中、肺炎にて死亡。
    【肉眼的観察】
     症例2 は症例1 に比較し、全体的に筋萎縮を認めた。特に、下腿三頭筋では強度の萎縮を呈し、症例1 が年齢相応な正常に対して、症例2 は識別が困難な状態であった。断面を比較すると症例1 は正常に近い厚みを保持していたが、症例2 では扁平化していた。  
    【組織学的観察】
     本献体はホルマリン固定にて保存され、肉眼解剖時に上腕二頭筋・大腿直筋・腓腹筋・ヒラメ筋を採取した。標本はホルマリン固定後、定法にてパラフィン包埋をした。その後、5μmで薄切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色した横断面を光学顕微鏡にて観察した。症例1 では、各筋において筋線維の形状が保たれ、線維間は、結合組織で隔壁されていた。筋細胞も統一した大きさで原形が保たれていた。一方、症例2 では不規則な筋線維の配列間に多量の結合組織を観察した。また、筋線維数の著明な減少がみられ、形状も不規則であった。さらに、筋細胞も減少し、形状も大小さまざまで核が細胞の中心へ入り込んでいた。細胞間にも結合組織が多く、筋細胞の欠損部を埋めているように観察された。
     今回観察された廃用性の変化は、筋線維数の減少のみならず、筋細胞の形態的不整がみられるなど退行性変化が強く認められた。
    【まとめ】
     今回比較的年齢差が少ない高齢女性の解剖を行い、上腕二頭筋・大腿四頭筋・腓腹筋・ヒラメ筋を採取した。その結果、入院期間が長かった症例の筋は肉眼的に萎縮が強くみられた。また、組織学的にも筋線維数が減少し、細胞も大小不同が散在すると共に結合組織が広範囲にみられた。
  • 深澤 幹典, 時田 幸之輔, Shyama Banneheka , 鈴木 了, 宮脇 誠, 熊木 克治
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 587
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】ヒトの下肢は、発生段階でねじれ(内転、内旋)を生じる. ヒト大腿後面の皮枝と筋枝を詳細に剖出し、さらにその起始、走行、分布について詳細な観察と考察を加えた.

    【方法と対象】
    新潟大学医学部解剖学実習およびマクロ解剖夏期セミナーに使用された中の3体3側を対象とした.2003年1体(03-SS-IIIs:以下A)、2004年2体(04-SS-Vs:以下B、04-XXVIIs:以下C)大腿後面の皮枝、筋枝を表層から深層にわたり詳細に剖出、記録した.


    【結果】坐骨神経(N.IS)の脛骨神経成分から大腿背側筋群へ分岐する筋枝は,3側を比較すると坐骨結節付近から膝窩上角の間で分岐し,分岐様式も異なる.Aの筋枝は,半腱様筋(St),半膜様筋(Sm),大腿二頭筋長頭(CL)への筋枝が共同幹として1枝,次にSmへの筋枝が1枝,さらにSmへ1枝あり,これら3枝はN.ISの内側縁から分岐する.Bは筋枝を4本分枝し,近位から順に,N.ISの腹側からSt,CLへの共同腱へ,内側からCLへ,外背側からCL,AM,Smへ,内側からSmへ分枝する.Cは筋枝を5本分岐し,近位から順にSt,CLへの共同腱,次にCL,CL,AMへの筋枝が続き,最後の1枝はSm,Stへ分枝する. N.ISの総腓骨神経成分から分枝する筋枝は,Aでは上殿神経(N.GS)が総腓骨神経の背側,外側から1本づつ分枝し,その遠位から下殿神経(N.GI)が背内側から分枝する.さらにその遠位の背内側からR.CBが分枝する.Bでは,梨状筋下孔上部からN.GSが現れ,N.GIはN.ISの背側から,R.CBは坐骨結節付近で背外側から分岐する.Cでは,梨状筋下孔の上方からN.GSが現れ,N.GIはN.ISの背側,R.CBは大腿二頭筋短頭の起始部付近で外腹側から分岐する.

    【考察】N.ISにおける脛骨神経成分の筋枝の分岐様式は,Aは分枝位置は3枝とも内側であるが,他2例は,分枝位置を連続的に見ると腹側から背側へ内旋する傾向がある.総腓骨神経成分から分枝するR.CBの分岐位置は多様で,3側間で梨状筋下孔からCBの起始部の間で起こる.AのR.CBの分枝位置は総腓骨神経成分の背側から,BはN.ISの外背側,CはN.ISの外腹側である.また,AのR.CBの走行は梨状筋下孔付近をN.ISの背側から分岐し,外側、腹側へとラセンを描く.各例におけるCBへの分枝位置を比較すると近位から遠位に移行するに従い,背側から腹側へと変化する.これらのことから,脛骨神経成分、総腓骨神経成分それぞれから分枝する筋枝はその分枝位置を連続的に観察すると内旋の位置関係にあると言える.我々は,N.ISからの筋枝の分岐様式に発生過程における下肢のねじれが投影されると考えたい.





  • 田中 正二, 宮田 卓也, 立野 勝彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 588
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】骨格筋線維は骨格筋前駆細胞である筋衛星細胞の増殖,分化,融合によって形成される.成熟哺乳類において筋衛星細胞は休止した状態で筋細胞膜と基底膜の間に存在しているが,筋線維損傷や伸張刺激によって細胞外のpHが変化して,プロテオグリカンに結合していた肝細胞増殖因子(HGF)が遊離し,筋衛星細胞の細胞膜に存在するHGFの受容体(c-Met)に結合することで筋衛星細胞が活性化すると考えられている.またc-Metは常時発現しているため,HGF濃度の上昇によっても筋衛星細胞が活性化することが確認されている.筋肥大や筋修復のメカニズムを解明する上で筋線維の形態学的変化,筋衛星細胞の活性化,筋核の変化およびその増殖因子の関係を明らかにすることは重要であると考える.In vivoで非侵襲的に筋衛星細胞とHGFの関連を解明するためには,細胞増殖期にある成長過程の調査を行うことは都合が良い.現在,成長過程における筋衛星細胞とHGFの関連についての報告は皆無である.

    【方法】2,4,8,16,24週齢の雄性Sprague-Dawley ratを対象に研究を行った.ラットの体重およびヒラメ筋湿重量は電子天秤を用いて測定し,体重に対する筋湿重量比を算出した.その後,ヒラメ筋の凍結横断切片を作成し, H&E染色,Myosin ATPase染色,免疫染色を行い,筋横断面の全体像を観察し,筋線維のタイプ,筋線維横断面積,増殖細胞数を算出した.また,腓腹筋に含まれる肝細胞増殖因子蛋白量は酵素結合免疫吸着定量法(ELISA法)を用いて検出した.なお本研究は金沢大学動物実験委員会承認(承認番号050315号)のもとに実施した.

    【結果】体重,筋湿重量および筋線維横断面積は成長とともに増加した.体重あたりの筋湿重量比はほぼ一定で,週齢による差は認められなかった.肝細胞増殖因子蛋白量は4から24週齢ではほぼ一定の値(3.4~6.1ng/g組織)を示したが,2週齢では他の週齢と比較して約3倍の高値(12.7ng/g組織)を示した.同様に抗proliferating cell nuclear antigen抗体に対する2次抗体で標識された細胞数は2週齢において有意に高値を示した.

    【考察】体重,筋湿重量,筋線維横断面積などの形態学的特徴は24週齢まで成長に伴って増加することが確認された.それに対して増殖中の細胞数および肝細胞増殖因子蛋白量は成長とともに減少を示した.これらの結果は肝細胞増殖因子の発現と筋衛星細胞の活性化の間に関連があることを示しているが,筋線維の肥大と筋核数の変化はかならずしも一致しない可能性が示唆された.成長過程における筋線維肥大には筋原線維蛋白量の増加を主とするメカニズムの作用していることが推測された.
  • 丸水 ちえみ, 山口 博子, 秋山 純一, 龍田 尚美, 野中 紘士, 中嶋 正明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 589
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】変形性膝関節症の主症状として、関節軟骨の変性があり、その進行予防や疼痛軽減を目的として大腿四頭筋の筋力強化が行われている。しかし、これまで大腿四頭筋の作用と膝関節軟骨変性の進行変化の関連について詳細な検討は見られない。今回、我々はラット膝関節障害モデルを用いて、大腿四頭筋の機能不全が軟骨変性と筋組織の変化に与える影響について検討を行った。

    【方法】本実験は24週令のWistar系雌性ラット14匹を用いた。2匹を無処置群とし、残り12匹を処置群として片側膝関節の内・外側副靭帯、前・後十字靭帯を切断し、膝関節の動揺性を誘発した。更にその内6匹を筋処置群として、大腿四頭筋を大腿骨停止部分の一部を選択的に切離し、残り6匹を筋無処置群とした。術後、3,6,9週毎に各群2匹を屠殺し、大腿骨およびヒラメ筋を採取し、採取したヒラメ筋は筋湿重量を測定した。大腿骨の膝関節面はMankinらの評価点法に基づいて、軟骨変性の組織学的評価を行うために組織標本を作製し、HE染色及びSafranin-O染色を行った。ヒラメ筋は筋横断面積を測定する目的で組織標本を作製し、HE染色を行った。作製した組織標本は光学顕微鏡で観察し、筋処置群と筋無処置群の組織を比較検討した。

    【結果】軟骨組織の比較では、筋無処置群、筋処置群のいずれもMankin’s score値が増加傾向にあり、また筋処置群が筋無処置群に比べ高値を示した。術後6週で筋処置群は筋無処置群に比べ、Mankin’s score値の有意な増加が認められた。更に筋処置群では術後3週から軟骨表面の不整化に加えて、細胞の集塊化や分裂像が認められた。ヒラメ筋湿重量は筋無処置群、筋処置群のいずれも経時的に増加傾向が見られ、筋処置群内では術後3週に比べ術後9週で有意差な増加が認められ、また術後6週に比べ術後9週で有意差な増加が認められた。無処置群の筋線維の横断面積を基に正規化し、筋処置群と筋無処置群の筋横断面積の経時的変化を観察した。靱帯を切断した両群で増加傾向が認められた。

    【考察】ヒラメ筋湿重量は靱帯を切断した両群で経時的に増加する傾向が見られ、筋横断面積の比較でも増加が認められた。これは膝関節の不安定性により、ヒラメ筋への負荷が増大し、代償性肥大を起こした結果、両群ともに増加傾向が認められたと推察された。大腿骨評価のMankin’s score値は筋無処置群、筋処置群のいずれも増加傾向にあり、また筋処置群が筋無処置群に比べ高値を示した。また、筋処置群では術後3週から軟骨表面の不整化に加えて、細胞の集塊化や分裂像が認められ、筋無処置群よりも早期の進行が推察された。これらの結果より、膝関節の不安定性により、日常生活でヒラメ筋への負荷が増大していると推察され、更に大腿四頭筋の機能不全を伴う場合、関節軟骨の退行変性が進行しやすい可能性が示唆された。
  • 峯松 亮
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 590
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究は,運動強度及び運動時間の骨量減少抑制効果を調査することを目的とした.
    【方法】3ヶ月齢雌性ICRマウス60匹を6群に分け,1群にSHAM術,残りの5群に卵巣摘出術(OVX)を施した.術後1週間よりOVX施行の4群に対してトレッドミル走行を開始し,5日/週の頻度で3ヶ月間行った.運動強度および時間は8m/分で25分間(LS群)と50分間(LL群),16m/分で25分間(HS群)と50分間(HL群)であった.実験終了後,全てのマウスから大腿骨と脛骨を取り出し,3点曲げ強度試験にて機械的骨強度(MS)を算出した.また,600°Cで灰化し灰量(AC)を測定した.統計学的解析は,大腿骨,脛骨における各群のMS及びACの差を見るため多重比較検定を,また運動群において,運動強度及び時間のMSとACへの影響を見るため二元配置分散分析と多重比較検定を行った.p<0.05で有意差有りとした.なお,本実験は広島大学医学部付属動物実験社の承認を得て行った.
    【結果】MSおいては,SHAM群に対して大腿骨と脛骨はそれぞれOVX群21.1%,34.6%,LS群15.6%,17.9%,LL群10.4%,17.3%,HS群10.6%,16.9%,HL群1.4%,8.8%の減少を示し,大腿骨ではHL群が,脛骨では全運動群がOVX群よりも有意に高値であった.ACにおいては,SHAM群に対して大腿骨と脛骨はそれぞれOVX群15.7%,22.2%,LS群14.3%,15.1%,LL群13.2%,8.7%,HS群12.7%,5.6%,HL群10.4%,4.0%の減少を示し,脛骨ではLS群を除く全運動群がOVX群よりも有意に高値であった.運動強度及び時間の影響は脛骨のACのみに認められ,H群でL群よりも高値であった.
    【考察】MS及びACにおいて,運動群の大腿骨と脛骨の減少度はOVX群のそれよりも小さく,全運動群において骨量減少抑制効果が認められた.特に,これらの効果は脛骨で高かった.本実験では運動が骨量減少抑制に有効であるに加え,運動強度が高いほど,運動時間が長いほど効果が高かった.これは,今回設定した運動強度および時間が骨量減少を抑制する閾値内であったことが考えられる.過剰運動が疲労骨折を引き起こすように,運動強度と時間を増加させれば効果が高くなるとは限らないと考えられ,最大限の効果を示す運動強度と運動時間,すなわち運動量を設定する必要があると思われた.また,骨量減少に対しては運動時間よりも運動強度の方が効果的であることも示された.骨の種類によって効果の差が認められたのは,運動中の骨への直接的な荷重や衝撃が大腿骨よりも脛骨で大きかったと考えられ,脛骨の方がより敏感に反応したためと考えられる.このことは荷重や衝撃を受ける機会が他群に比して多かったHL群でもっとも骨量減少抑制効果が示されたことからも明らかである.
    【まとめ】全ての運動群において骨量減少抑制効果が認められ,その効果は大腿骨よりも脛骨で高かった.
  • 新たなリハビリテーション介入の可能性
    宮本 満, 杉岡 幸三, 三木 明徳
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 591
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】従来より動物実験において、豊環境下での飼育が学習能力の向上や脳の形態学的・生化学的変化をもたらすことが指摘されている。これらの効果は主に若齢期の動物において確認されているが、比較的高齢期の動物においても同様の効果が報告されている。これらの知見は、生涯にわたって脳に可塑性があること示唆するものであり、リハビリテーション介入場面においても重要な基礎的データーを与えるものと考えられる。しかし、環境下での運動の質という観点から、より多様な環境を考慮した飼育条件を設け、それが学習や活動にどのような効果をもたらすかについて比較した報告は少ない。そこで本研究ではより細分化した飼育条件を設け、飼育環境条件および動物の週齢を変数として、それが自発的活動や空間認知学習の発現にどのような影響を与えるかについて検討した。

    【方法】C57/BL雄性マウスを用いて、実験1では3週齢から飼育を始める離乳期条件、実験2では12週齢から飼育を始める成体期条件下で、以下の4群に分類した:様々な道具を備え、複雑な探索活動を可能にする環境で群飼育した豊かな環境群(EE群)、ランニングホイ-ルのみを備えた環境で群飼育したランニング群(RW群)、遊具などの対象物を置かない環境で群飼育した対照群(CT群)、および小さな飼育箱に単独で飼育した貧しい環境群(IP群)。以上の条件下で42日間飼育した後、明期および暗期での自発活動量を測定するとともに、モリス型水迷路での空間認知の分析を行った。

    【結果】自発活動量の分析において、離乳期・成体期条件ともにIP群は、明期および暗期を通じて多動傾向を示した。一方、EE群、RW群、CT群は離乳期・成体期条件ともにIP群に比べて自発活動量は少なく、特にこの傾向はEE群において顕著であった。水迷路での空間認知学習は、離乳期条件においてEE群が速やかな空間認知を獲得したのに対し、IP群は空間認知の獲得が遅延した。RW群、CT群は両者の中間程度の成績を示した。しかし成体期条件においては、このような群間差はまったく認められなかった。

    【考察】本研究により、若齢期からの豊環境下での飼育が活動性や学習に関して正の効果を与えるものと考えられ、成体期以降の豊環境下での飼育においても、動物の活動性に正の効果をもたらす可能性が示唆された。一方、若齢期からの貧しい環境下での飼育は、活動性や学習に悪影響を与えるとともに、成体期以降においても行動異常をもたらす可能性を示した。一方、単純な運動であるランニングのみが可能な飼育条件は、離乳期、成体期条件ともに活動性や学習にほとんど効果をもたらさなかった。故に運動そのものよりも、飼育環境の豊富さが活動性や学習に対してより正の効果をもたらすことが推察され、リハビリテーション介入場面においても障害者を取り巻く環境を考慮していくことの重要性が示唆された。

  • 岩月 宏泰, 正村 和彦, 鈴木 孝夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 592
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】ヒトの腎臓の重量は約100gだが,酸素消費量は全体の10%を占め,安静時には全血液の20%が供給されている.また,腎臓は血中の物質の排泄,再吸収を担う臓器であるため,通過する物質によっては直接的なフリーラジカルを発生させたり,好中球を活性化するなど組織傷害を受けやすいともいえる.さらに,激しい運動では全身の血流量が5倍に増加する一方で,腎血流量は6割に減少し一時的に低酸素状態となるため,運動後の急激な血流回復は再灌流させた場合と同様と考えられる.組織に虚血ー再灌流するとスーパーオキシドの不均衡が発生,過酸化水素及びそれと二価鉄イオン間での化学反応で生じるヒドロキシラジカルが組織傷害をもたらす.特に,再灌流時にみられる遊離鉄により,この組織傷害は増悪するといわれているが,詳細は未だ不明である.そこで,本研究では強制運動を行ったラット腎臓の非ヘム鉄(二価鉄イオン及び三価鉄イオン)の動態から非ヘム鉄の組織傷害の関与を明らかにすることを目的とした.【方法】本実験は青森県立保健大学動物実験拡大倫理委員会の承認(承認番号0511)を受けた.方法はWistar系ラット(8-12週令,オス)を用い,以下の3実験を行った.実験1;深麻酔下で一側の腎柄を血管鉗子で40分止血した,実験2;1)と同様に同部を40分止血後,60分再灌流した及び実験3;トレッドミル(室町機械製MK-680/OP)で1時間強制走行させた.いずれも非実験側の腎臓は対照とした.実験1から3ではラットにSodium pentobarbital(50mg/kg体重)を腹腔内投与した.そして,腎臓に処置を施した後に心臓を露出し左心室から灌流固定液で灌流固定後(灌流―Perls法及び灌流―Turnbull法)検鏡した.本法は我々が開発した非ヘム鉄の組織化学的証明法であり,組織における二価鉄イオン及び三価鉄イオンの分布を高感度に可視化することが出来る(Meguro et al.2003).【結果】灌流―Perls法では腎皮質の近位尿細管と髄質外層の内帯のヘンレのループの脚を濃染していたが,髄質外層の外帯には殆ど染色されておらず,濃染箇所に二価鉄イオンの存在が確認された.また,灌流―Turnbull法では腎皮質の近位尿細管に濃染が認められ,同部に三価鉄イオンの存在が認められた.実験1の灌流―Turnbull法の結果では腎皮質の近位尿細管細胞の核及び糸球体細胞の核の濃染がみられた.実験2の灌流―Turnbull法の結果では腎皮質の近位尿細管の刷毛縁が脱落,管腔の拡大及び核の凝縮がみられ,糸球体細胞の核の凝縮も認められた.実験3の灌流―Turnbull法の結果では実験2と同様の所見が得られた.【結論】強制運動を行ったラット腎臓の非ヘム鉄の分布は虚血―再灌流と同様であったことから,激しい運動後に急激に運動を中止すると非ヘム鉄が活性酸素・フリーラジカルと反応し近位尿細管壊死など恒久的な組織傷害を引き起こす危険性が示唆された.
  • 顎矯正術後の咀嚼・咬合機能抑制による生体応答
    久保田 章仁, 武田 秀勝, 秋月 一城, 高柳 清美, 細田 昌孝, 木本 理可, 神林 勲, 藤井 博匡, 井上 和久, 磯崎 弘司, ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 593
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】摂食行為は、人間の生命維持に欠くことのできない重要な要素である。なかでも、咀嚼・嚥下の機能維持は Q O Lと密接な関係にある重要な要素の1つである。今回、顎矯正術後の顎固定により発現される生体応答、とりわけ酸化ストレスの度合いを調べる目的で、尿中8-OHdG濃度の測定を試みた。
    【方法】対象は10代女性1名である。サンプルは、術前日、術直後、術後4日、1週目、4週目、8週目、12週目に採尿し、各々-80度下にて保存したものを使用した。酸化ストレスの指標であり、生理学的応答の一つであるHydroxy deoxy guanosine(8-OHdG)の濃度を測定した。8-OhdG濃度の測定にはELISAキットを用いた。測定に至るまでの過程は、2OOOrpm×5minで尿を遠心分離し、上清を分析に使用する。ELISA法(測定キット:日本老化制御研究所)に基づき、8×12ウエルのマイクロプレートに試料とPrimary Antibodyを5Oμlずつ分注し、マイクロプレートインキュベータ内にて37°Cで1時間反応させた。反応終了後、ウエルの反応液を捨て、洗浄液で3回洗浄した。Secondary antibody 100μlを加え、37°Cで1時間反応させ、3回洗浄した。その後、発色剤100μl添加し、遮光状態で15分間反応させ、反応停止液を加えた後、吸光度を測定した。Standard 8-OHdG濃度と吸光度の標準曲線を描き、各試料の吸光度より8-OHdG濃度を測定した。なお、各サンプルの8-OhdG濃度は、3サンプルの平均で求めた。
    【結果】8-OHdG標準濃度検定では、精度を示す相関が0.96と高い値を示した。各期のサンプルから得た8-OhdG濃度の平均と標準偏差は、それぞれ術前日が2.31±0.29、術直後が31.95±5.07、術後4日が1.90±0.74、1週目が7.56±2.19、4週目が33.08±10.12、8週目が9.28±1.58、12週目が13.62±1.30となった。
    【考察】酸化ストレスの指標である8-OHdGは、DNAの塩基の1つであるguanineのnucleotideが活性酸素の1つであるOHによって酸化されたもので、安定した物質であるため、酵素による修復過程で速やかに細胞外に排出され更に血液を介して尿中に排泄される。各期のサンプルから得た8-OhdG濃度の平均と標準偏差から、術直後と4週目が、31.95±5.07、33.08±10.12とそれぞれ高値を示した。このことから、手術によるストレス反応と食物摂取制限によるストレス反応が尿中8-OHdG濃度の上昇から示唆された。逆に、酸化ストレス反応は絶えず変動することが伺えるため、今後は、より長期的なサンプルからの8-OhdG濃度測定と、例数を増す必要性があることが重要である。
  • 木下 利喜生, 上西 啓裕, 小池 有美, 三宅 隆広, 山本 義男, 田島 文博, 佐々木 緑, 幸田 剣, 古澤 一成, 安岡 良訓
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 594
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年の研究により運動がプロスタグランジンE2(以下PGE2)やサイトカインに影響を及ぼす事がわかっている。しかし、それらの多くが下肢運動でのデータである。我々の知り得た範囲では、下肢運動と同じ強度の上肢運動を行い、それらの変化を比較検討した研究はない。今回はpreliminary studyとして健常者1名を対象とし、上肢および下肢を用いた高強度の運動を行い、PGE2とサイトカインの中でもインターロイキン6(以下IL-6)に及ぼす影響を比較した。

    【対象と方法】被験者は医学的に問題のない健常女性1名。実験開始24時間は積極的な運動は中止とし、下肢運動は自転車エルゴメーター、上肢運動はハンドエルゴメーターにて行った。血液は運動前(30分の安静後)、運動終了直後、60分後、120分後に採取し、PGE2、IL-6の測定を行なった。運動負荷は上下肢ともにエルゴメーターを用いて呼気ガス分析にて最大酸素摂取量とその際のHRpeak、Load(Watt)の測定を行った。その値をもとにウォーミングアップをその25%のWatt数で4分間行い、その後80%のWatt数にて50RPMで30分間の運動を行った。またこの際にHRpeak80%を上限に運動の負荷調整を行った。呼気ガス分析にはMINATO社 AEROMONITOR 300Sを使用した。

    【結果】PGE2は下肢では運動直後は上昇しており、60分後、120分後と徐々に低下し運動開始前程度まで低下した。上肢では運動直後に軽度の上昇がみられ、60分後は運動開始前の値よりも低下し、120分後は上昇するものの運動開始前よりも低値であった。IL-6は下肢では運動直後は上昇しており、60分後は運動直後の値を維持、120分後では軽度の低下を示した。上肢では運動直後に軽度上昇し、60分後は運動開始前まで低下し、120分後では更に低下した。

    【考察・まとめ】PGE2は下肢運動により上昇し、過去の報告と同様であった。上肢運動によるPGE2上昇は下肢運動時よりも低い印象であった。IL-6も両者の運動において上昇したものの、上肢運動による変化は下肢運動より減弱している印象をうけた。これらの違いについて、特にIL-6は、運動初期から運動による筋傷害とは無関係に収縮筋細胞自体から大量に分泌されることがいわれており、上肢と下肢では、同じ運動強度、同じ時間で運動を行っても、動員筋の量の差でその変化に差が生じたものと推測された。
  • 安岡 良訓, 荒川 英樹, 古澤 一成, 木下 利喜生, 田島 文博, 佐々木 緑, 中村 健, 幸田 剣
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 595
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年の研究により運動が免疫機能に影響を及ぼす事が知られている。高強度な運動では運動直後は免疫機能が上昇、その後低下し(open window)、徐々に安静時の値に回復する。機序に関しては活性にはカテコルアミン、抑制にはコルチゾールが関与するとされているが不明な点が多く、その機序は完全に解明されていない。また、これまでは下肢運動による研究が多く、上肢運動による免疫機能の変化やその機序について検討されたものは少ない。今回、上肢運動が免疫機能に及ぼす影響が下肢運動と同様であるかを検証する目的でpreliminary studyとして健常者1名を対象に運動前後に血液を採取し、運動で最も影響を受けやすいNK細胞数・NK細胞活性(以下NKCA)と白血球を測定した。またその調節因子であるノルアドレナリン、コルチゾールも測定し、検討した。

    【対象と方法】被験者は医学的に問題のない健常女性1名。実験開始24時間は積極的な運動は中止とし、上肢運動をハンドエルゴメーターにて行った。血液は運動前(30分の安静後)、運動終了直後、60分後、120分後に採取し、NK細胞数、NKCA、白血球、ノルアドレナリン、コルチゾールの測定を行なった。運動負荷はハンドエルゴメーター(MONARK model 881)を用いて呼気ガス分析にて最大酸素摂取量とその際のHRpeak、Load(Watt)の測定を行った。呼気ガス分析にはMINATO社 AEROMONITOR 300Sを使用した。その値をもとにウォーミングアップをその25%のWatt数で4分間行い、その後80%のWatt数にて50RPMで30分間の運動を行った。またこの際にHRpeak80%を上限に運動の負荷調整を行った。

    【結果】NK細胞数、NKCAは運動終了直後に上昇しており、60分後には運動前よりも減少した。120分後にはNK細胞は運動前の値に近づき、NKCAは運動前よりも上昇する結果であった。白血球は運動直後に上昇、その後も運動前と比較し高値を示した。ノルアドレナリン、コルチゾールでは運動終了直後に急激に上昇、その後は安静時の値に近づいた。

    【考察・まとめ】NK細胞数・NKCAはopen windowの形となり、これまで報告のあった下肢運動の結果と同様であった。よって上下肢での運動部位の違いがopen windowに及ぼす影響に差異はないと考えられた。白血球は運動直後に上昇し、60分後に低下するものの安静時までの低下はみられず、120分後には更に上昇がみられた。これより高強度の運動では白血球が上昇することもわかった。免疫能を活性化するノルアドレナリンは運動直後に急激に上昇、運動時のNKCAも上昇していたので、ノルアドレナリンの活性作用がコルチゾールの抑制作用を上回っていたためと考えられる。また両ストレスホルモンは運動60分後では安静時よりも上昇しているものの、免疫能は著しく低下していたことから、その作用が持続していると推測された。

  • 工藤 義弘, 尾山 純一, 矢守 とも子, 中園 貴志, 西山 保弘
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 596
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【研究目的】温泉療法は最近の研究で慢性心不全にも有効であることがわかってきた。その作用機序の一つとして、温泉の生体免疫機能の改善効果が明らかにされている。しかしながら、その詳細なメカニズムを科学的に解析した報告はほとんどないのが現状である。そこで、温泉がナチュラルキラー活性機能の改善に有効であるかどうか検討することは、慢性疾患患者に対する温泉の有用性を証明すると共に、その生物学的および医学的な機序を解明するためにも重要であると考えた。NK細胞は、抗腫瘍効果(NK活性)を有し、初期の免疫応答、すなわち自然免疫応答に関わる細胞群である。また、最近はNK活性を有する以外に免疫応答の調節にも密接に関わっていることが明らかになってきた。 以上のような観点から、リハビリテーションをも兼ねた温泉が初期免疫応答さらには免疫応答に重要な役割を演じるナチュラルキラー(NK)活性に与える影響について検討した。
    【対象と方法】 対象:NYHAIII以下の慢性心不全患者(虚血性心臓病5名,心筋症1名)の6名(男性4名,女性2名)を対象とした。平均年齢は79.6± 6.4歳(平均±標準偏差)で、研究の目的と内容に関しては十分にインフォームドコンセントを行った。温泉の方法:温泉環境として、単純泉を選択した。室内温度を28°Cとし、温度は40度に設定した。時間は10分間で、回数は週5回以上毎日とした。方法としては、半身浴または胸骨の深さまで温泉することとした。温泉における安全性の確保と身体機能の把握のため、初回時の温泉前後60分間、また毎回の温泉前後にバイタルサインのチェツクを行った。適宜、医師による診察、さらに温泉最終回にも前後60分間バイタルサインのチェツクを行った。温泉の安全性に関しては慎重に臨んだ。採血:温泉前および2週後に採血を行い、NK活性の量を測定した。NK活性の測定:NK活性はクロムリリーズ法を用いて測定した。
    【結果】 温泉療法におけるNK活性の動態:NK活性は温泉療法開始前に比較して2週間後では低下傾向を示した(開始前: 33.5±9.02 %、2週間後: 30±8.56 %)。しかし統計学的な有意差は認めなられなかった(P =0.159)。
    【考察】 本研究では、温泉とNK活性能に関して検討を試みた。NK細胞は抗腫瘍活性を有する。本研究では温泉2週間後にはわずかであるが、NK活性が低下傾向を示した。温泉は一時的なNK活性能の低下示すが、温泉の継続はNK活性の潜在的な能力を引き出すためには非常に重要な手段になるのではないかと考えられる。酸性温泉や高温温泉では短期期間であってもNK細胞活性が上昇する可能性があると言われている。いずれにしても温泉や運動習慣の継続は、免疫能力を獲得するための効果的な手段になると考えられる。今後さまざまな側面から温泉の医学的効果を検証していきたいと考えている。

  • 猪俣 陽一, 曽田 幸一朗, 川口 浩太郎, 堤 恵理子, 稲水 淳
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 597
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】疼痛は、患者の主訴として挙げられることが多い。神経因性疼痛を呈する患者では、理学療法施行が難渋するケースが多いため、近年、神経因性疼痛を発生前から防ぐことが大切であるといわれている。本研究では神経因性疼痛の動物モデルである絞扼性神経損傷(chronic constriction injury:以下CCI)モデルマウスに対して、炎症期の発痛物質の抑制などの効果があるとされるアイシングを行い、神経因性疼痛が軽減されるかについて検討した。
    【対象】対象はC57BL/6NCrj雄性マウス(32匹、8週齡)、アイシング実施したアイシング群(16匹)と、アイシングを実施しないコントロール群(16匹)に分けた。
    【方法】全対象に対してペントバルビタールナトリウム腹腔内注射による麻酔後、腰椎以下左後肢までの背側を剃毛し、皮膚を切開した。その後、鈍的に左坐骨神経を露出し5.0chromic gutにて坐骨神経に触れる程度の2重結紮を1mm間隔で3箇所に行った。結紮後、術部の皮膚を縫合した。なお、水および飼料の摂取は自由とした。アイシングは術直後、左後肢に対して実施した。アイシングは20分間を3回行い、各実施後は10分の間隔を置いた。疼痛評価として全対象に、術前および術後1、3日後に光熱刺激に対する逃避反応時間を測定した。逃避反応時間は照射開始から逃避反応出現までの時間とし、術側と非術側の平均の差をdifference score(以下D.S.)とした。統計処理として各内のD.S.の比較にはone way ANOVAを行った。また、群間の比較にはtwo way ANOVAを行い、その後2-tailed t-testを行った。なお、危険率は5%未満とした。
    【結果】コントロール群では術前に対して術後1、3日目のD.S.は有意に減少していた(P>0.01)。アイシング群において術前に対して術後1、3日目のD.S.に有意差は認められなかったが、術後1日目と比較して術後3日目ではD.S.が有意に減少していた。アイシング群とコントロール群を比較すると術後1、3日目でコントロール群のD.S.が有意に減少していた。
    【考察】本研究では、アイシング群で術前に対して術後1、3日目のD.S.に有意差が認められなかったことから、術後3日目までには痛覚過敏の兆候が見られず疼痛が抑制されていると予想された。アイシング群の1日目においてはアイシングにより疼痛が抑制されたと考えられる。3日目のアイシング群でD.S.が1日目よりも減少しているが、コントロール群の3日目よりも減少していないことから、アイシング群では痛覚過敏発症が遅延しているのではないかと考えられた。この痛覚過敏の発症に関しては術後の坐骨神経に5.0chromic gutが残留していることや、アイシングの効果が低下してきているためであると考える。

  • 鈴木 勝也, 松田 輝, 三谷 祐史, 鈴木 重行, 沖田 実
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 598
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】
    遅発性筋痛(DOMS)は激しい運動や、慣れない運動後に生じ、筋の圧痛、収縮時痛を主な特徴とする。DOMSは大きな張力が発揮される伸張性収縮によって発生しやすいと言われ、その痛みは、運動直後ではなく、数時間から24時間程度経過してから発現し、およそ48時間後にピークを迎え、5~7日後には消失すると報告されている。DOMSのメカニズムは未だ不明であり、筋の損傷についても、単核細胞の浸潤のような筋線維の壊死が見られるという報告や、Z-bandの乱れなど微細な損傷しかみられないとした報告もあり、一致した見解はなされていない。そこで、今回はDOMSに特徴的な圧痛の存在が行動学的、免疫組織化学的に証明されたモデルラットを用いて、行動学的にその作成の成否を確認するとともに、筋の病理組織学的変化を検討した。
    【方法】
    本実験は名古屋大学医学部動物実験倫理委員会の許可を得て行った。実験動物には7週齢のSD雄性ラットを用いた。DOMSの作成には、麻酔下で、絶縁針電極を経皮的に坐骨神経(+極)と総腓骨神経(-極)の近傍に刺入し、繰り返し電気刺激を与えて背屈筋群を収縮させる間、同期させたモーターによって足関節を底屈約30°から底屈約90°まで動かすことによって、背屈筋群に対し伸張性収縮運動を負荷した。電気刺激には電気刺激装置(SEN-7203, Nihon Koden Corp., Japan)およびアイソレータ(S-S202J, Nihon Koden Corp.,Japan)を用い、足関節の運動にはサーボモータ(CPL28T08B-06C2T, Oriental Motor Co. LTD., Japan)を用いた。行動学的実験では伸張性収縮を負荷したECC群(n=6)と、筋を繰り返し伸張のみを行ったSHAM群(n=6)の2群に分け、背屈筋群の圧痛閾値の測定として、Randall-Selitto式鎮痛効果測定装置(Ugo Basile,Italy)を用いて計測した。病理組織学的実験では筋を伸張性収縮させた後、1日後、2日後、4日後、7日後に長趾伸筋、前脛骨筋を採取し、光学顕微鏡にて検鏡した。
    【結果】
    行動学的実験では、運動負荷1、2日後の期間において、圧痛閾値の有意な低下が見られたことから、DOMSが発生していたことが確かめられた。病理組織学的実験では、伸張性収縮を負荷した筋において、筋の壊死・再生の過程と考えられる単核細胞の浸潤や、中心核線維が確認されたが、その発生状況は軽度であった。
    【考察】
    筋の損傷過程では、マクロファージによるサイトカインの放出反応など、痛みに関与する様々な物質が産生されると考えられる。DOMSのメカニズムの解明には、今後、原因となる発痛物質を同定する必要がある。
  • 松田 輝, 田口 徹, 田村 良子, 鈴木 重行, 水村 和枝
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 599
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【背景】
     不慣れな運動後に生じる筋痛(遅発性筋痛:以下DOMS)は筋の圧痛を主な特徴とし,強度で不慣れな運動を行ってから24から72時間後にピークとなるが,安静時の痛みはほとんどない.そのメカニズムは不明だが,伸張性収縮(Eccentric Contraction:以下ECC)によって生じやすいことが知られている.今まで,DOMS時の血清生化学の変化や筋の形態学的変化は報告されているが,DOMSに特徴的な機械痛覚過敏の存在を調べた報告はない.そこで我々は,若年ラット(8週齢)にECCを負荷し,筋圧痛閾値,脊髄後角におけるc-Fos陽性細胞の発現を指標に,ラットにおいてもDOMSが生じることを示した(Taguchi T et al.(2005).J Physiol 564.1:259-268.).
    【目的】
     ヒトでは,高齢になるとDOMSの出現が遅くなったり,長引いたりすると言われている.そこで,圧痛閾値測定とc-Fos陽性細胞の脊髄後角における発現を指標に,加齢によるDOMSの変化を調べた.
    【方法】
     130から139週齢の加齢ラットを用いた.腓骨神経の電気刺激により長指伸筋(EDL)を収縮させる間,同筋を伸張させることによってECCを負荷した.圧痛の存在を,疼痛閾値測定とc-Fos陽性細胞の脊髄後角における発現を指標に調べた.筋の疼痛閾値はRandall-Selitto式鎮痛効果測定装置を用いて測定し比較した.また,さらに行動実験で観察された圧痛のピークであるECC3日後に,EDLに圧迫刺激を行い,その2時間後にラットを灌流固定し,脊髄後角表層細胞におけるc-Fos陽性細胞の発現を調べた.
    【結果】
     Randall-Selitto法で測定した圧痛閾値は,若年ラットではECC負荷後1から3日目まで有意に低下し,2日目にもっとも強く低下した.一方,加齢ラットでは,1から5日目まで有意に低下し,3日目で最低値となった.ECC3日後(若年群では2日後)に,運動筋を圧迫刺激することによって生じるc-Fos陽性細胞の発現は,若年ラットでは脊髄L4レベルの後角表層にのみに有意に増加したが,加齢ラットでは脊髄L4に加えL5レベルの後角表層にも有意な増加が観察された.
    【結論】
     加齢ラットでは,遅発性筋痛(DOMS)が長く続くことが明らかになった.また,加齢ラットでは筋からの痛み情報が若年ラットよりも脊髄の広いレベルに伝達されることが明らかになった.Peyronnard(1986)はEDLを支配している感覚神経の大部分がL4のDRGに位置していると報告している.加齢ラットではEDLからの感覚神経がL5へまで終枝を出すように変化しているのか,より広い範囲の脊髄後角二次ニューロンの興奮性が増大しているためか,今後の検討が必要である.
  • 田崎 洋光, 松原 貴子, 三木 明徳
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 600
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     臨床において,ベットレストやギプス固定などの不活動によって生じる最も顕著な変化は筋萎縮である。また不動化や除神経に陥った骨格筋は,軸索流動の中断や低下によって神経栄養因子の合成・分泌が低下し,さらには末梢循環が低下することから,hyperalgesia(痛覚過敏)を呈することも報告されている。この筋萎縮と痛覚過敏はさらなる機能障害を引き起こす要因となり,その進行をより早い段階で予防することは非常に重要である。また,手術前に局所麻酔を用いてあらかじめ痛みを取り除き,術後の痛みを軽減させる「先取り鎮痛」の有効性が多く論じられているが,リハビリテーションにおいて広く用いられている温熱療法は疼痛や廃用性筋萎縮の進行抑制に有効であるとされているにもかかわらず,その“先取り効果”について検討した報告はほとんどない。そこで本研究では,痛覚過敏および廃用性筋萎縮が発生する前に行う温熱療法の先取り効果について検討を行った。
    【方法】
     8週齢のWistar系雄ラットを,1)2週間無処置の対照群,2)2週間ギプス固定と後肢懸垂を行ったギプス懸垂群,3)2週間ギプス固定と後肢懸垂を行う前に1週間の温熱刺激を行った温熱ギプス固定群の3群に分類した。実験終了後,ギプス除去した後肢足底部へのvon frey filament刺激(以下,VFF)による足引っ込め反応を計測し,痛覚閾値評価を行った。VFF後は麻酔下でヒラメ筋を採取し,その凍結横断切片をATPase染色,アルカリフォスファターゼ染色し,筋線維直径,タイプ構成比率,筋線維あたりの毛細血管数(以下,C/F比)を計測した。なお,本実験は鈴鹿医療科学大学が定める動物実験指針に準じて行った。
    【結果】
     ギプス懸垂群,温熱ギプス懸垂群は,対照群に比べVFFによる痛覚閾値,筋線維直径,タイプ1線維比率,C/F比の全てにおいて低値を示した。また温熱ギプス懸垂群は,ギプス懸垂群よりもVFFによる痛覚閾値,タイプ1線維直径,タイプ1線維比率,C/F比において高値を示した。
    【考察】
    今回の結果から,2週間のギプス固定および後肢懸垂によってヒラメ筋に廃用性筋萎縮を生じ,さらに後肢足底部の痛覚閾値低下を来し,痛覚過敏を呈した。また,事前に温熱刺激を行うことで,痛覚過敏と廃用性筋萎縮の進行を予防できたことから,温熱刺激には痛覚過敏と廃用性筋萎縮に対する先取り効果があることが推察された。これらのことから,神経損傷を伴わない不動化により,筋萎縮はもとより痛覚過敏をも呈すること,また温熱療法によってそれらを改善しうる可能性が示唆された。
  • 下肢放散痛に対する保存療法の可能性について
    工藤 慎太郎, 木原 雅子, 山北 和幸, 牧野 淳, 小崎 琢也, 中野 隆
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 601
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    下肢の絞扼性末梢神経障害の一つである絞扼性外側大腿皮神経障害は、meralgia parestheticaとして広く認知されている。その発生頻度は高くないと言われているが、腰部椎間板ヘルニアなどの腰部疾患において外側大腿皮神経支配域である大腿外側から前面の痺れおよび放散痛を訴える症例に遭遇することは、臨床上まれでない。このような症例においては、髄核の膨隆・脱出による神経根の圧迫が痺れや放散痛の原因と考え治療されることが多いが、症状とヘルニアの高位診断が一致しないこともある。今回、外側大腿皮神経の局所解剖学的研究により同神経の絞扼部位に関して興味深い知見を得たため、若干の考察を加え報告する。
    【方法】
    対象は愛知医科大学医学部解剖セミナーに供された実習用遺体6体(男性5名、女性1名、平均年齢78.3歳)9肢であった。腹部より正中切開し腹腔内臓器を摘出、結合組織を除去し、大腰筋・腸骨筋・外側大腿皮神経を同定した。大腰筋を筋裂孔の高さで切離反転しながら外側大腿皮神経の腰神経叢からの分岐部位、同神経と大腰筋の位置関係の2項目について調査した。
    【結果】
    外側大腿皮神経の腰神経叢からの分岐様式は、1本の分枝が同神経を形成する場合(6肢)と2本の分枝が吻合して同神経を形成する場合(3肢)が認められた。これら9肢12例(2本の分枝が吻合する3肢については各々2例とみなす)の外側大腿皮神経について、腰神経叢からの分岐部位により3つのTypeに分類できた。Type1は腸骨稜より頭側で分岐するもの3例、Type2は腸骨稜の高さで分岐するもの5例、Type3は腸骨稜より尾側で分岐するもの4例であった。大腰筋との位置関係は成書に記されるように大腰筋の外側を通過するものは4例であり、8例で大腰筋内を貫通していた。
    【考察】
    絞扼性外側大腿皮神経障害は、同神経支配域である大腿外側から前面の痺れ・放散痛が主症状となる。今回、外側大腿皮神経の腰神経叢からの分岐部近傍の局所解剖学的研究から、同神経が腸骨稜の高さで分岐した後、大腰筋を貫通し、腸骨筋前面を斜走する例が観察された。これらのことから、大腰筋の短縮や筋緊張の亢進とそれに伴う骨盤の前傾・腰椎の前弯の増大により、同神経に対するfriction forceが増大し、同神経支配域に痺れ・放散痛を生じさせることが示唆された。したがって、大腰筋の伸張性の向上、骨盤・腰椎のアライメントの是正等の保存療法が腰部疾患などで生じる同神経支配域の痺れ・放散痛に対して有効になる可能性が考えられた。
    【まとめ】
    外側大腿皮神経の腰神経叢分岐部近傍の局所解剖的観察から絞扼因子について検討した。同神経は分岐部近傍においても絞扼されうることが示唆され、理学療法によって症状が改善する可能性が十分に考えられた。今後、対象数を増やすと共に症例報告が課題となると考えられた。
  • 深川 優子, 前田 哲男, 木山 良二
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 602
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【はじめに】反応時間(RT)は刺激から動筋の筋活動開始までの筋電図反応時間(PMT)と筋活動開始から実際の運動開始までの電気力学的遅延(EMD)に分けられる。今回、臨床で簡易的に行うことのできる定規落下試験で得られたRTと研究で用いられる筋電計から得られたRTについて比較検討した。
    【対象】特別な疾患のない健常人(男性15名、女性15名、平均年齢21.5±1.2歳)であった。
    【方法】○試行A:定規落下試験を行い、落下距離から自由落下の公式よりRTを算出した。同時に検査者の手指と被験者の手掌に筋電計を同期させた圧感知スイッチを貼付し、落下開始時刻・反応時刻からPMT・EMDを算出した。○試行B:筋電計に同期させた圧感知スイッチに示指を接触させた状態からキータッチ動作を行わせた。運動開始の合図には筋電計に同期させた光刺激を用い、ランダムに5回刺激を行った。筋活動開始の判断は波形が20μVを越えた時刻とした。筋電図上で得られた3つの時刻からRT・PMT・EMDを算出した。
     対象とした筋は両試行ともに浅指屈筋とし、5回の測定値を平均したものを個人値とした。筋電計はNORAXON社製筋電図計測装置、分析装置はMyo System1200、圧感知スイッチは5Nの圧力に反応する酒井医療株式会社ノルスイッチを用いた。分析はそれぞれの試行間差を検定するために対応のあるt-検定を用い、統計学的有意水準を5%とした。また試行Aと試行BのRTについては2試行間の相関係数を算出した。 
    【結果】RT:試行Aは666.7±68.6msec、試行Bは224.8±38.7msecであり統計学的に有意差が認められた。PMT:試行Aは182.2±61.4msec、試行Bは180.4±27.6msecであり統計学的に有意差は認められなかった。EMD:試行Aは91.7±27.7msec、試行Bは45.9±22.6msecであり統計学的に有意差が認められた。2試行間(RT)の相関:r=0.37(p<0.05)とやや有意な相関が認められた。
    【考察】試行Aと試行BはPMTやEMDといった異なる要素についての測定であって相互の関連性は低いことが認められた。試行Bは動作自体が力を必要としない運動課題であったこと、圧感知スイッチに手指を接触した状態から運動を行わせたこと、圧感知スイッチが5Nという微小な圧を感知したことにより、試行Aに比べEMDが短縮したものと考えられる。条件のまったく異なる試行ではPMTとEMDの各要素が大きく変動し、RTに影響を及ぼしていることが示唆された。RTの測定には、力を必要としない運動課題、関節運動の生じない運動課題かつ同一条件下での測定ではじめてPMTの個体間比較が可能であることが示唆された。今後は、他の影響因子との関連性や妥当性・信頼性についての検討が課題となると思われる。
  • 姿勢保持への注意及び行動覚醒の検討
    鈴木 誠, 星 文彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 603
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】椅子座位・開脚立位・片脚立位における咬筋を用いたプローブ反応時間を測定し、姿勢保持中の静止バランスに要求される注意及び行動覚醒について検討した。
    【方法】健常成人男性10名(20歳~31歳)を対象とした。筋電図反応時間の測定筋は、咬筋とした。筋電図の測定にはNIHON KOHDENポリグラフシステムを使用した。オシロスコープにて筋電図波形を確認し、筋活動開始の時期を読み取った。咬筋の筋電活動開始時期の決定は、安静時振幅を越えた活動電位が生じた時点を検者が視覚的に判定し、決定した。音刺激(2000Hz,25ms.duration)から筋電活動開始までの潜時を反応時間(RT)とした。各姿勢にて「ヨーイ!」の予告から3-5sec後に与えられる音刺激に応答して、「できるだけはやく奥歯をかみ締めるように」と指示した。試行する姿勢条件の順番は被験者それぞれランダムに行った。各姿勢について、1セットを6試行とした。試行間隔は10~20secとして、姿勢条件を変えた。3姿勢条件(各6試行)を1セッションとし、計4セッション(24試行)行った。各姿勢条件間のRTの差の検定にはMann-WhitneyのU検定を用い、有意水準を5%未満とした。
    【結果】3つの姿勢条件によるRTは、全被験者の平均値では有意差は認められなかった(椅子座位:108.4±11.1 msec開脚立位:112.9±14.1msec,片脚立位:113.0±10.7msec)。しかし、各被験者で片脚立位RTから開脚立位RTを引いたRT差(?RT)と開脚立位RTとの間に有意な相関が認められた(Y=-0.42x+47.5 R2=0.42 p<0.05)。Y=0とすると、X=113.1となり開脚立位RTが113.1msecを境に?RTが2群に分かれた。
    【考察】今回の結果からRTの平均に差は認められなかった。これは、今回の被験者が若い年齢層であり片脚立位保持といった支持基底面を狭くしたより姿勢調節の必要な状況下であっても、意識せず達成可能で注意を向けるほどの大きな負担となる運動課題ではなかったと考えられる。また、各被験者の?RTと開脚立位RTとの関係には有意な相関が認められ、?RTは開脚立位RTに依存することが示された。これは、開脚立位RTが113.1msより速い者は片脚立位時のRT課題のパフォーマンスが低下し、開脚立位RTが113.1msより遅い者は片脚立位時のRT課題のパフォーマンスが高まるという2群に分かれることを示唆している。両脚立位に比べて片脚立位は支持脚の筋の緊張が増強する。その結果、固有感覚入力は増加し、それが中枢覚醒レベルを高めている可能性が高いと考えられる。
    【まとめ】開脚立位時の覚醒レベルがRTに関係すると仮定すれば、立位姿勢でのRT差は、姿勢保持の静止バランスに関わる注意ばかりでなく、覚醒レベルの変化も反映されると考えられる。
  • 鮎川 将之, 春山 若葉, 松村 将司, 栗原 靖, 羽柴 弘陽, 竹井 仁
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 604
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、腹横筋の体幹安定作用についての報告が多くなされており、四肢の運動に先立って収縮するとの報告もある。また、腹筋群の収縮の有無による大腿直筋、外側広筋および内側広筋の反応時間の相違を2種類の膝関節屈曲角度にて行った先行研究が行なわれ、膝90°屈曲位では腹筋群収縮時に有意に反応時間が短縮されたとの報告があった。今回は腹筋群のなかでも腹横筋収縮の有無に着目し、等尺性膝関節伸展運動(大腿直筋:RF、外側広筋:VL、内側広筋:VM)と等尺性足関節背屈運動(前脛骨筋:TA、長母趾伸筋:EHL)における各筋の反応時間(premotor time :PMT、reaction time :RT)を検討したので報告する。
    【方法】対象は健常成人10名(男5名、女5名)、平均年齢は22.2 (21-24) 歳であった。運動課題は、1) 腹横筋収縮無+等尺性膝伸展運動、2) 腹横筋収縮有+等尺性膝伸展運動、3) 腹横筋収縮無+等尺性足背屈運動、4)腹横筋収縮有+等尺性足背屈運動の4種類とし、順序は無作為とした。腹横筋の収縮方法は、あらかじめ被験者に本施行肢位にてstabilizer(chattanoga社製)の圧力パッドを腰背部に置き練習させた。1)と2)の測定肢位は、背臥位にて膝下を台からおろした膝屈曲90°とした。3)と4)は、背臥位にて足関節以遠を台から出し、足背屈10°とした。試行回数は20回とし、1試行間に20秒の休憩を置いた。2)と4)の本試行では、開始予告後に腹横筋を収縮させた後、0,5秒間隔で0,5秒から4秒以内に無作為で開始ブザー音を鳴らし、できる限り速く膝あるいは足関節を運動させるよう命じた。被験者ごとにPMTとRTの平均値を求め、腹横筋の収縮の有無による相違について、SPSS.ver13を用いてt検定を行い、有意水準を5%とした。なお、実験は被験者に説明をし、同意を得て実施した。
    【結果】2)は1)に比較して、PMT[msec]はRF、VL、VMそれぞれで 25.6、26.8、30.4短縮し、RT[msec]は29.0短縮した。4)は3)に比較して、PMT[msec]はTA、EHLそれぞれで21.3、26.7短縮し、RT[msec]は25.3短縮した。
    【考察】ほとんどの体幹支持筋は緊張性筋線維と相動性筋線維の比率がほぼ同じとされるが、なかでも腹横筋は緊張性筋線維の割合がわずかに多く、相動性筋線維の径は小さく、特殊化された緊張性の支持的役割が重要となる。また、運動ニューロンはその前段階で入力されるシナプス結合や上位中枢の支配パターンによるという報告があることから、あらかじめ腹横筋収縮を行なうことで、S運動単位による体幹の固定性が高まり、脊髄の興奮性が高まったと考える。さらには、その影響によって、膝関節のみならず、さらに遠位にある足関節の反応時間にも影響を与えることが示唆された。


  • 黒岩 千晴, 関根 徹, 高松 美穂, 藤原 孝之, 山本 巌
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 605
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】先行研究では骨格筋の一部で筋疲労時反応時間(RT)の遅延が指摘される。また、いわゆる腰痛患者の一部体幹筋において、姿勢制御に伴う筋収縮開始時間が遅延することが指摘されているが、この機序に関しては不明な点が残されている。本研究では、体幹筋が疲労することによってRTが変化するかどうかをみることを目的として、筋疲労前後で単純反応時間と、上肢運動に伴う姿勢制御中の体幹筋活動開始時間を観察した。
    【方法】対象は、説明して書面で合意を得た健常成人6名(平均年齢22歳)とした。腰椎伸展筋群に筋疲労を起こすことを目的として、自重を用いた背筋群トレーニング機器(バックトーソリフター,Proxomed社)を使用し、体幹を床面と水平となるように維持する等尺性筋収縮課題を行なわせた。自重による負荷に加えて肩甲骨背面に体重の20%にあたる重錘を乗せ、姿勢保持不可となった時点で終了とした。筋疲労の影響をみるため、この課題の前後で次に挙げる2つの実験を行った。1) RT測定のため、腹臥位姿勢で提示される光刺激に対してきるだけ速く上体を引き起こす課題を行った。光刺激はランダムに10回与え、このとき、非利き手側のL2高位とL5 高位に添付した表面電極より、それぞれ腰部腸肋筋(IC)、腰部多裂筋(MF)活動を観察した。筋電図測定は、無線筋電図測定機器(マルチテレメーターシステムWEP-500 日本光電社)、A/D変換後に解析ソフト(BIMUTAS II,キッセイコムテック社)に取り込み解析した。動作の開始はL3棘突起を指標として設置した赤外線スイッチを用いた。2) 立位姿勢において提示される光刺激に対して、できるだけ速く上肢を挙上する課題を行った。課題中はIC、MFに加え、上肢挙上の主動作筋である三角筋前部線維の筋活動を記録し、これら筋活動開始のタイミングについて変化を観察した。
    【結果】等尺性筋収縮課題の実施により、課題中の筋電図積分値は、課題開始直後に対して終了直前では平均して約150%程度にまで上昇した。体幹伸展動作を用いたRTは、疲労前が平均で762msec、疲労後が750msecと有意な変化を認めなかった。また、上肢の急激な挙上に伴う体幹筋活動のタイミングについても等尺性筋収縮課題の実施前後において有意な変化を認めなかった。
    【考察】本研究の結果に限局すれば、一時的に腰椎伸展筋群を疲労させることによるRT変化を認めなかった。また、上肢の急激な挙上運動に伴う体幹筋群の活動についても変化を認めなかった。したがって、腰椎伸展筋群は、疲労による反応時間遅延の影響を受けにくい、または影響があったとしても即座に回復しうる機能を備えている可能性が示唆された。これは、日常生活上で持続的な筋活動を求められる腰椎伸展筋群においては目的に叶うものである。また、腰痛患者において指摘される反応時間の遅延についても、一時的な筋疲労がきっかけとなって起こる可能性は低いことが考えられた。
  • 足踏み時プローブ反応時間と1ステップの所要時間のバラツキを中心として
    霍 明, 丸山 仁司, 橋本 奈織
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 606
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究では,簡便な転倒リスク評価方法の開発を試み,足踏み時プローブ反応時間(Probe Reaction Time,以下P-RTと略す),ステップリズムのバラツキおよびTUG(Time Up and Go test)を測定し,転倒との関係を検討したので報告する。

    【方法】健常若年者群(以下Y群)18名(男15名,女3名,平均年齢21.8±4.7歳),高齢者非転倒群(以下O群)11名(男1名,女10名,平均年齢66.5±6.2歳),高齢者転倒群(以下OF群)8名(男3名,女5名,平均年齢71.8±4.5歳)の3群とした。課題は,自由速度で足踏み時のP-RTとTUG課題である。機器構成では,刺激装置はPCでサウンド処理ソフトを用いて音刺激信号を作成し,デジタルオーディオプレーヤ(Rio製)にデータを転送し携帯式スピーカに接続した。集音装置はデジタルIDレコーダとデジタルビデオカメラ(Victor製)を使用した。実験の手続きでは,自由速度で足踏み時に発声による反応時間の測定を行い,また,ステップ数と1ステップ所用時間を左右別に足踏み着地音を記録した。データをPCに取り込み,DIGIONSOUND5サウンド処理ソフトで分析を行った。

    【結果】P-RTの結果ではY,O,OF群はそれぞれ275.2±27.3msec,300.3±44.5 msec,337.2±45.9 msecであり, O群とOF群,Y群とOF群に有意差があった。ステップ数結果ではY,O,OF群はそれぞれ117.6±11.1steps/min,126.6±7.2 steps/min,129.3±15.2 steps/minであり,Y群とO群,OF群とY群に有意差があった。1回ステップの所要時間の結果では左足Y,O,OF群はそれぞれ509.2±46.1msec,473.6±26.4 msec,462.7±52.1 msecであって,右足の場合はそれぞれ512.7±57.2 msec,464.6±29.1 msec,456.3±50.3 msecであった。Y群とO群,Y群とOF群に有意差があった。また,1回ステップの所要時間の変動係数(以下CV)を算出し,左足Y,O,OF群はそれぞれ3.8±1.3 msec,2.5±0.7 msec,4.9±1.8 msecであって,右足の場合はそれぞれ4.4±1.7 msec,2.4±0.5 msec,5.1±1.9 msecであった.いずれの群間に有意差があった。また,TUGの結果では,O群は6.7±0.7秒,OF群は7.2±1.3秒であり,両群間に有意差がみられなかった(p<0.05)。

    【考察】本研究では,足踏みという連続運動時のP-RTを測定し,OF群はP-RTの遅れがみられた。1ステップの所要時間のCVはいずれの群間に有意差があり,OF群のステップリズムのバラツキが一番大きいことを示した。TUGは転倒の評価に有用であり,カットオフ値は14秒であるといわれたが,今回の結果では,対象者は地域住民であるので,転倒リスクが軽度であるため,TUGで検出することができなかったと考えた。

    【まとめ】足踏み時のP-RTと1ステップの所要時間のCVが転倒リスク評価に簡便かつ有用であると考える。また,TUGよりも転倒リスクの検出度が高く,定量化評価が可能と考える。

  • 山田 実, 古川 裕之, 東野 江理, 小野 玲, 平田 総一郎, 坂田 敏郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 607
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ミラーセラピーに代表されるように、運動イメージは身体運動に大きな影響を与える重要な脳内過程である。運動イメージの時間的側面を調べる方法として心的時間測定(mental chronometry)がある。ヒトにおける直立二足歩行は、生後1年からほぼ一生を通じて用いられる移動手段である。日常生活能力や身体活動を維持する上で必要な両者の機能に関して、実際の歩行の運動遂行時間とそれをイメージした心的時間は一致するといった報告は存在するものの、その加齢変化を調べたものは見当たらない。本研究では、歩行の運動遂行時間と心的時間との時間一致が加齢によってどのように変化するのかを横断的に検討した。

    【方法】対象は健常成人42名(57.8(18-86)歳、159.5cm、58.7kg)とした。平地自由歩行20歩を実際に遂行、かつ心的に運動イメージを行い、ストップウォッチを用いて時間測定を行った。実際の歩行運動遂行の時間測定は検者が行い、心的の場合には被験者自身で測定した。各々の測定を3回ずつ行い、その平均値を採用した。なお各測定値の信頼性は、実際の運動遂行時間では級内相関係数(ICC)= 0.98、心的時間ではICC = 0.94であった。歩行の運動遂行と心的の時間一致度は心的時間/運動遂行時間の比率を求め、これと年齢との関係をSpearmanの相関係数によって検討した。

    【結果】実際の運動遂行時間は10.82±1.57秒であり、心的時間は16.79±4.28秒であった。心的時間が実際の運動遂行時間よりも短縮した例は一例もなく、時間一致度は1.57±0.33であった。時間一致度と年齢は有意な相関関係にあり(r=0.60、p=0.002)、加齢に伴って心的時間は延長することが示唆された。

    【考察】運動イメージの際には、様々な運動関連領域が活動することが報告されているが、これらの機能が加齢に伴って低下するという報告は見当たらない。また歩行は、脊髄の中枢性パターン発生器によってpattern generateされた運動であるため、定常歩行での脳活動はさほど重要でないということも示唆されている。しかし、加齢に伴い心的時間が延長するという傾向を認めたことは、注意深く歩行しているという認識とは逆に、独りでに歩行を行っているという実際との相違が示唆された。このことは転倒にも影響を及ぼしている可能性があり、今後の検討課題である。
  • 筋反応時間と身体形態との関係
    対馬 栄輝, 石田 水里
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 608
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】膝関節伸展(伸展)運動における力立ち上がり時間(TPF)・力発生率(RFD)と等運動性筋力は関連が高く(対馬ら,1997),パフォーマンスとの関係も高い(対馬ら,1998).これらは筋の質的な機能を評価する指標として有益な情報であると考える.しかしTPF・RFDと同時に測定できる反応時間(RT)や身体形態など,これらの関連については明らかではない.そこで,これらの関連性について検討することを目的とした.
    【対象と方法】健常成人22名(男9名,女13名)を対象とした。平均年齢21.5±3.0歳,平均身長164.8±6.48cm,平均体重59.11±9.28kgであった。
     跳躍時に踏みきる側の下肢を測定肢とし,大腿直筋,内・外側広筋部に表面電極を貼り付けた.被検者をChattecx社製KIN/COM 500Hのシート上に端坐位とさせた.被検者には外力を感じると同時に出来る限り速く強く伸展してもらい,最大等尺性膝伸展筋力(最大筋力)を5秒間発揮させた.刺激は下腿に対する予告なしの外力(レバーアームが膝屈曲55゜から60゜に角速度30゜/sec移動)とした.同時に筋電波形(EMG)とトルク,角度の信号をパソコンに取り込んだ(sampling rate 1kHz).波形処理ソフト上で,3筋のうち最も速く活動開始した筋を対象として,RTの前運動時間(PMT)と電気力学的遅延(EMD),ならびにTPFを計測した.またTPFで最大筋力を除したRFDも求めた.
     これら全ての変数間で相関係数を求めた.総合的な関連性については主成分分析を用いた.また,TPF・RFDに対する影響要因を検討するためにノンパラメトリック回帰の一般化加法モデル(GAM)または重回帰分析を適用させた.以上は,S言語プログラムを用いた.
    【結果】TPFとRFD・身長(p<.01),TPFと下腿重量(p<.05)との相関は高く有意であった.また,RFDと身長,下腿重量,EMDには有意な相関関係があり,当然ながらTPF,最大筋力とも有意であった(全てp<.01).主成分分析による第1主成分(寄与率49.9%)では上述した相関の結果と同じ傾向を示し,第2主成分(16.3%)はEMD,PMT,年齢,体重,筋力の順に大きな値を示した.TPF,RFDとも正規分布に従わないと予想してGAMを用いたが,両者とも重回帰分析でフィットは良好であった.TPFが従属変数のときは身長(p<.01),RFDが従属変数のときは筋力,TPF,身長(全てp<.01)が有意に選択された.更に身長を従属変数として重回帰分析を行うと下腿重量(p<.01),性別(p<.05)が選ばれた.
    【考察】TPF・RFDとも,ほとんどの項目と関連したが,RTとは異なった傾向を示し,別の性質を持つと考えた.また,重回帰分析の結果からRFDとTPFはやや異なるものとも考えた.RFDとTPFに最大筋力が影響したのは当然であるが,身長の影響が大きかった.身長には下腿重量や性別が影響し,筋量の関与が推測された.この点については今後検討を重ねる必要がある.
  • 矢状面レントゲン画像との比較によるスパイナルマウスの妥当性の検討
    松尾 礼美, 杉野 伸治, 廣庭 美紀, 蒲田 和芳, 横山 茂樹, 山本 大造, 貞松 俊弘
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 609
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    スパイナルマウス(Aditus Systems)(以下SM)は脊椎カーブを簡便に測定するための診療補助機器であるが、その正確性について十分な科学的根拠は得られていない。本研究の目的は、SMの正確性を矢状面のレントゲン写真(以下XP)との比較により検証することとした。
    【方法】
    長崎大学医学部倫理委員会の承認を得た後、研究参加者を募集した。被検者の選択基準を20代の健常者での脊椎に障害のない者とし、合計30名(男性13名、女性17名)が研究参加同意書に署名した。今研究の対象者は年齢23.9 ± 2.6 歳、身長163.1 ± 6.6 cm、体重55.4 ± 8.0 kg、BMI 20.6 ± 1.8 (平均 ± SD)であった。計測は直立位、立位最大屈曲位、立位最大伸展位の3肢位で実施した。直立位は両手を後頭部で組んだ状態での最大吸気時、屈曲位は両手を後頭部に組んだ状態で脊椎を前屈させた状態での最大呼気時、伸展位は両手を後頭部に組んだ状態で胸を張りつつ脊椎のみを伸展した状態での最大吸気時、と定義した。XPは胸椎部と腰椎部に分けて各肢位を2回撮像し、同一の姿勢にてSM測定を1回実施した。XP写真の分析では、Sicon Imageを用いて椎体上縁および下縁の最前点と最後点をプロットし、Microsoft Excel上で内積を用いてすべての椎体間の角度を算出した。椎体角度は伸展位(前彎)を正とし、Th4とSのなす角およびすべてのセグメントの伸展角度を求め、SMとXPの計測結果を比較した。統計処理には反復測定2元配置分散分析およびTukey/Kramer法を用い、有意水準を5%とした。

    【結果】
    X軸に脊椎セグメント、Y軸に伸展角度をプロットすると、3肢位ともXPとSMは類似したカーブが得られた。屈曲位では、L5/Sにおいて SMが有意に低値を示した(p<0.01)。直立位ではL3/4からL5/SにおいてSMが有意に低値を示した(p<0.01)。伸展位ではTh10/11からL4/5においてSMが有意に低値(p<0.01)、Th4/5からTh6/7でSMが有意に高値であった(p<0.01)。
    【考察】
    SMとXPのグラフは体幹屈曲位、直立位、伸展位すべての肢位で類似したパターンを示したが、3肢位ともに腰椎においてSMが有意に低値であったことからSMは伸展角度を過小評価し、腰椎前弯の検出において信頼性が低いことが示唆された。本研究の問題点として、検者間・検者内再現性が検証されていないこと、X線写真ではX線照射距離および照射中心が定義されず光学的補正がされていないこと、が挙げられる。より正確な角度計測にはCT等を用いた3次元的計測が必要であるが、本研究の結果からSMの臨床上の使用に関して一定の結論が得られたと考えられる。
    【謝辞】
    本研究のスポンサーである日本コアコンディショニング協会、貞松病院に感謝致します。
  • 鈴木 加奈子, 塩島 直路, 山口 光國
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 610
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】上肢前方挙上動作に伴う体幹の動きは,肩関節の運動機能に影響を及ぼす重要な因子の一つであると考えられる。体幹の活動のうち,特に上半身質量中心点(上半身COM)の動きは身体活動に強く関与していると諸家により報告されている。上肢挙上時にもこの動きが関与している事が考えられ,両上肢前方挙上動作における上半身COMと体幹の動きを検討した。
    【方法】対象は本研究の趣旨に同意を得られた肩に愁訴のない成人20名(男性16名,女性4名),平均年齢は26.1歳(21~30歳)。まず第1胸椎棘突起(Th1),第9胸椎棘突起(Th9),第5腰椎棘突起(L5),剣状突起にマーカを添付した。測定肢位は,自然坐位での上肢下垂位(0°位),90°両上肢前方挙上位(90°位),150°両上肢前方挙上位(150°位)の3肢位とした。各測定肢位を側方よりデジタルカメラで撮影し,その画像より,画像解析ソフトscion imageを用いて,上半身COM(Th9と剣状突起を結ぶ線の中点)のx,y座標を計測し,続いて上部体幹角度(Th1とL5を結ぶ線を基本軸とし,基本軸と,Th1とTh9を結ぶ線とのなす角度),下部体幹角度(基本軸と,Th9とL5を結ぶ線とのなす角度),体幹傾斜角度(基本軸と床からの垂線とのなす角度)を計測した。計測値を3肢位間で比較し,一元配置分散分析,多重比較検定を行った。
    【結果】上半身COMの典型的な移動パターンは上肢挙上0°~90°にかけて後方へ移動し,90°~150°にかけて前上方へ移動するもの(20名中13名:以下,典型例)であった。典型例の体幹傾斜角度は0°位(4.4±5.2°)と90°位(-0.6±4.9°)の間に有意差(p<0.01)があり,0°~90°にかけて体幹は全体的に後傾した。上部体幹角度は90°位(5.1±2.2°)と150°位(1.9±2.7°)の間に有意差(p<0.01)があり,90°~150°にかけて後傾した。下部体幹角度は90°位(-5.4±1.9°)と150°位 (-2.1±2.8°)の間に有意差(p<0.01)があり,90°~150°にかけて前傾し,90°~150°では上・下部体幹の伸展がみられた。
    【考察】本研究の対象のうち典型例では,150°までの両上肢挙上動作において,上半身COMならびに体幹の運動を伴う事が明らかとなった。特に上半身COMの動きは,挙上90°では上肢の質量に対抗する為に,90°以降ではjoint needing supportの相に移行する際に肩甲骨が機能を発揮する為に生じた対応ではないかと考える。臨床において肩関節に機能障害を有する症例の中には,上半身COMの動きに変化を生じているケースがある印象を受ける。今回観察された上半身COMの動きは,上肢挙上動作に必要な運動要素の可能性があり,今後この点について検討を加える。
  • 高橋 俊章, 神先 秀人, 南澤 忠儀, 伊橋 光二
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 611
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】坐位での側方傾斜反応についての運動学的研究で、動きを定量化している研究は散見される。しかし、坐位側方傾斜反応に伴う頭部・体幹・骨盤の運動全てについて同時に解析し、各運動間の関連性について詳細に検討した報告はない。本研究では、坐位側方傾斜反応における頭部・体幹・骨盤運動を定量的に分析し、各部の位置関係を明らかにすることを目的とした。
    【方法】対象は健常女性10名(平均年齢21.6±1.1歳、平均身長156.4±4.8cm、平均体重50.9±8.2kg)とした。本研究は、所属施設の倫理審査委員会の承認を得た。また、被験者には測定前に書面及び口頭にて本研究の内容を説明し承諾を得た。側方傾斜反応計測は、三次元動作解析装置(Vicon370)を用い、反射マーカーを、頭頂部、両耳介上側頭部、両肩峰、両大転子、両ASIS、第7頚椎棘突起、第12胸椎棘突起、第1正中仙骨稜に付け、サンプリング周波数60Hzで記録した。傾斜反応を誘発するために、外乱発生装置(IP-DYP1020)の上に台を設置し、この台上で被験者に腕を組み足底を接地しない端坐位をとらせた後、坐面を傾斜させた。傾斜させる方向は利き手側とし、最大傾斜角度は20度に設定した。傾斜速度は、毎秒5°、10°の2通りで、ランダムな順序で行い各速度での試行回数が3回以上になるようにした。各マーカー座標より、側方傾斜反応中の頭部及び体幹の屈伸・側屈・回旋、骨盤の前後傾斜・側方傾斜・回旋角度を算出した。最大傾斜時の各部の運動角度に対する速度の影響を一元配置分散分析にて検定するとともに、各部位の運動間の相関について検討した。
    【結果及び考察】最大傾斜時の運動角度に対する傾斜速度の影響に関しては、体幹回旋角度と骨盤側方傾斜角度において、毎秒10°の方が有意に高い値を示した。すなわち、体幹回旋角度は、毎秒10°の傾斜時に平均7.7±4.7°で、毎秒5°時の角度6.0±4.4°より有意に大きい値を示した(p<0.01)。骨盤側方傾斜角度は毎秒10°時が3.7±6.4°で、毎秒5°時は1.8±2.4°であった(p<0.05)。各部位の運動間で、傾斜速度毎秒5°と10°のいずれにおいても運動角度に相関があったのは、体幹屈曲と骨盤後傾(5°:r=0.64、10°:r=0.52)、体幹側屈と回旋(5°:r=0.53、10°:r=0.66)であった。
    これらのことから、傾斜速度により坐位側方傾斜反応の出現様式が多少変化すること、体幹屈曲と骨盤後傾、体幹側屈と回旋とは密接な関連があることが示唆された。今後は、男性被検者も対象とすること、及び、最大傾斜時の運動角度だけではなく、傾斜中の各部位の運動のタイミング等に着目することで反応を類型化し、それぞれの特徴を明らかにしていきたい。
  • 倉川 卓広, 石橋 晃仁, 西村 由香, 吉尾 雅春
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 612
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】端座位に対して側方傾斜刺激を加えたとき、骨盤側方傾斜角度や脊柱側屈角度がどのように変化するのか、また骨盤前傾と骨盤後傾の姿勢の違いがそれらにどのような影響を与えるか明らかにすることを目的とした。
    【方法】対象は、研究協力の同意を得られた健常男子18名、平均年齢21.8歳。被験者は上半身裸で、頭頂、第7頸椎、第12胸椎、両側上後腸骨棘をランドマークとした。上肢は腕組みし、前方を注視しティルトテーブル上に座ってもらった。姿勢を正した状態を骨盤前傾、リラックスした状態を骨盤後傾とし2種類の座位をとらせた。座面は左右に傾斜させ、傾斜角度0°と20°の各姿勢を後方からデジタルカメラで撮影した。両上後腸骨棘を結ぶ直線と座面の成す角度を骨盤側方傾斜角度、両上後腸骨棘間の中点を通る垂直線と、中点・第12胸椎を結ぶ直線(A線)との成す角度を腰部側屈角度、A線と第12胸椎・第7頚椎を結ぶ直線(B線)の成す角度を胸部側屈角度、B線と第7頚椎・頭頂を結ぶ直線との成す角度を頚部側屈角度とし、画像ソフトscion imageにて計測した。座面の傾きに抗した方向をプラス方向、その逆をマイナス方向とし、骨盤側方傾斜角度、各部側屈角度を骨盤前傾と後傾、座面傾斜角度0°と20°で比較した。有意水準はp<0.05とした。
    【結果】座面傾斜20°において骨盤側方傾斜角度と脊柱側屈角度を骨盤前傾と後傾で比較すると、左傾斜時の腰部側屈角度は骨盤前傾で7.9±4.0°、後傾で5.6±4.6°、右傾斜時の腰部側屈角度は骨盤前傾で11.5±3.3°、後傾で8.6±3.8°、右傾斜時の頸部側屈角度は骨盤前傾で-6.8±5.3°、後傾で-3.6±6.2°となりそれぞれ有意差がみられた。このように骨盤後傾に対して前傾では腰部においてよりプラス方向への側屈となり、頚部ではよりマイナス方向への側屈となる傾向がみられた。一方、骨盤側方傾斜角度には骨盤前傾、後傾による有意差はみられなかった。また骨盤前傾位での座面傾斜0°と20°との間では、頚部、胸部、腰部の側屈角度には有意差がみられたものの、骨盤側方傾斜角度には有意差がみられなかった。座面傾斜により腰部、胸部はよりプラス方向へ、頚部はよりマイナス方向への側屈の傾向がみられた。骨盤側方傾斜角度には座面傾斜に応じた一定の傾向はみられなかった。
    【考察】座面傾斜角度や骨盤前傾、後傾の姿勢の変化に対しては、骨盤の側方傾斜運動に比べて脊柱側屈運動がより特徴的に変化していることにより、人はバランスをとっていることが示唆された。したがって、座位の動的なバランスに対して、骨盤の前傾、後傾の可動性や随意性にも充分な配慮を要すると考えられる。
  • 畠山 智行, 開田 千鶴
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 613
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】座位において骨盤前傾位での体幹側屈、回旋可動域は後傾位のそれより大きくなると考えられる。これより、側方傾斜座位保持可能な限界角度も大きくなると考えた。
    【方法】本研究では、以下の2点について検討した。1.端座位における3つの骨盤傾斜条件において、側方での座位保持可能な最大座面傾斜角度、両肩峰傾斜角は、どう異なるのか。2.三次元における各条件下での体幹回旋角および体幹筋の筋活動量にはどのような関係が存在するのか。
     実験1は20歳代の健常者19名(平均年齢23.7±3.1歳)を、実験2は20歳代健常者男性9名(平均年齢21.8±2.5歳)を対象とした。
    実験1.骨盤傾斜角度は仙骨と座面とのなす角とし、安静位、骨盤最前傾位、骨盤最後傾位の3つの条件を設定し、仙骨の高さで骨盤を固定した。また、3回の試行の平均値を個人の代表値とした。最大座面傾斜角は、各条件下で被験者の主観的限界を感じる角度とした。両肩峰傾斜角は、左右の肩峰を結ぶ線と右肩峰を通る水平線とのなす角とした。実験2.左右の胸部および腰部の脊柱起立筋、左右の腹直筋および腹斜筋の筋電図は、各条件での側方座面傾斜角0゜,10゜,20゜,30゜,限界角で各3秒間測定した。また、三次元動作解析装置を用いて各条件での体幹回旋角(0゜における両上前腸骨棘を結ぶ線と傾斜時でのその線をXY座面上に投影したときのなす角)を測定した。
     統計分析は、一要因反復測定分散分析法を用い、有意水準は全て5%とした。
    【結果】最大座面傾斜角および両肩峰傾斜角は、骨盤最前傾位での値が最後傾位でのそれよりも有意に大きかった。体幹回旋角は、骨盤傾斜条件下での値に有意な違いは認められなかった。
     筋活動量について、限界角において、骨盤最前傾位および最後傾位での左胸部脊柱起立筋、最後傾位での左腰部脊柱起立筋は、それぞれ他の座面傾斜角度での値と比較して有意に大きかった。
    【考察】結果より骨盤最前傾位において、体幹の立ち直りの範囲が広くなる可能性が支持された。骨盤が前傾すると、椎体の前方の靭帯は伸張され、椎体後方および椎弓、椎間関節に付着する靭帯は弛緩する。また、体幹の側屈および回旋における脊椎の運動軸は椎体の後方へ移動する。そのため、運動軸付近の弛緩した靭帯の可動範囲が大きくなるため、骨盤前傾位での体幹の側屈、回旋の可動域が大きくなることが示唆される。骨盤後傾位ではこれの逆となる。体幹筋の筋活動量の結果については、側方座面傾斜時における体幹動作パターンの個人差によるものかもしれない。
    【まとめ】骨盤を前傾位にすることで、最大座面傾斜角および両肩峰傾斜角の値は後傾位よりも大きく、側方傾斜座位における抗重力肢位での坐位保持可能な限界角度も大きくなることが分かった。これは、ADLにも大きく関連することより骨盤の前傾能力を高めることは、理学療法を施行する上で重要であると考える。
  • 岡戸 敦男, 金村 朋直, 小林 寛和, 岡村 幸枝
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 614
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     腰痛の理学療法を進めるにあたって、評価の際に体幹運動を行わせ、体幹運動時の痛みの発生を確認している。体幹運動時、股関節肢位を変化させることにより運動様式が変化することを経験する。
     体幹運動時の股関節肢位の影響を知ることを目的として、股関節中間位と内旋位における体幹伸展運動(TE)時の腰椎、腰仙椎関節、股関節運動の分析を行った。
    【対象および方法】
     対象は、腰部疾患や痛みなどの症状がない健常男性3名(対象A:27歳、168cm、65kg、対象B:28歳、172cm、63kg、対象C:28歳、175cm、62kg)とした。
     TEは、安静立位から最大伸展位までの運動とした。各対象に股関節中間位(N)、内旋20度位(IR)の各肢位でTEを3回行わせ、右側方からデジタルビデオで撮影した。動作解析システムFrame-DIAS II(DKH社製)を用いて各条件における次の角度を算出した。
    1.体幹角:第7頸椎と大転子の結線と大転子と大腿骨外側上顆の結線のなす角度。
    2.股関節角:腸骨稜最高位と大転子の結線と大転子と大腿骨外側上顆の結線のなす角度。
    3.腰仙椎関節角:第5腰椎と第1仙椎の結線と第1仙椎と仙骨遠位の結線のなす角度。
    4.腰椎角:第1腰椎と第3腰椎の結線と第3腰椎と第5腰椎の結線のなす角度。
     測定値は、3回の平均値を採用した。体幹角10度毎の2、3、4の変化量を算出し、股関節角の変化量を1とした際の腰仙椎関節角、腰椎角の変化量の比率を求めた。体幹角0~10°を前期、10~20°を中期、20~30°を後期とした。
    【結果】
     各変化量の比率(股関節角:腰仙椎関節角:腰椎角)は以下の通りであった。
     対象Aは、Nで前期1:1.8:1.4、中期1:7.5:8.0、後期1:0.3:0.7、IRで前期1:1.1:1.1、中期1:0.7:0.4、後期1:4.3:1.6となった。
     対象Bは、Nで前期1:1.2:0.7、中期1:0.8:1.2、後期1:2.2:2.6、IRで前期1:3.0:1.5、中期1:0.7:1.3、後期1:3.2:3.0となった。
     対象Cは、Nで前期1:0.6:0.6、中期1:3.1:2.0、後期1:0.7:1.3、IRで前期1:2.1:2.2、中期1:0.6:0.3、後期1:3.3:1.2となった。
    【考察】
     股関節中間位と比較して内旋位では、体幹伸展運動の最終域で股関節の変化量が減少し、腰椎、腰仙椎関節の変化量が増大する傾向にあった。今回の結果より、体幹伸展運動時に股関節内旋位を呈することにより股関節伸展運動が制限され、腰椎または腰仙椎関節の伸展運動が代償的に増大することが確認された。
  • 成人との比較
    下川 円, 川崎 秀和, 鵜飼 啓史, 中島 啓照, 内藤 浩一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 615
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】成長期には骨と軟部組織の不適合が生じ、下肢の運動制限を生じやすいといわれている。臨床でも、成長期の体幹屈曲時に過剰な脊椎での動きを観察することがある。今回我々は、体幹屈曲運動時の各関節角度、下肢柔軟性との関係を成長期と成人で比較し、成長期の特徴と腰痛発生の要因を検討することを目的とした。
    【方法】対象は成長期スポーツ選手男性14名(平均年齢13.4±0.9歳)、成人スポーツ選手男性15名(平均年齢25.7±4.9歳)とした。測定時腰痛を有するものはいなかった。被験者の第7頚椎、第7・12胸椎、第3・5腰椎の棘突起、上前腸骨棘、上後腸骨棘、大転子、大腿骨外側上顆、腓骨外果、第5中足骨頭にマーカーを貼付し、安静立位からの体幹屈曲運動を行わせ、右側面からデジタルビデオカメラで撮影した。画像解析にはアニマ社製MA-1000を用い、2次元解析を行った。サンプリング周波数は60Hz とした。マーカーから体幹角、胸椎角、胸腰椎角、腰椎角、腰椎骨盤角、股関節角、足関節角を規定し、上前腸骨棘の移動量を骨盤移動量とした。また、体幹角の変化を前期(0~30°)、中期(30~60°)、後期(60~90°)の3期に分けた。検討項目は各角度変化量、骨盤の前後方向への移動量、股関節に対する各角度の比率とし、成長期と成人で比較した。また下肢の柔軟性テストとして、指床間距離(FFD)、殿踵間距離(HBD)、トーマステスト、ハムストリングス、下腿三頭筋の伸張性を測定し、体幹屈曲時の角度変化、骨盤の移動量との相関を求めた。統計処理には、対応のないt検定、Pearsonの相関係数を用い、危険率5%未満を有意水準とした。
    【結果】成長期、成人の間では最大体幹屈曲角、下肢柔軟性に有意な差はみられなかった。最大体幹屈曲時の股関節角、足関節角、骨盤の移動量は成長期が有意に減少していた(p<0.05)。体幹屈曲後期の腰椎骨盤角、股関節に対する腰椎骨盤角の比率(L/H比)は成長期が有位に増加していた(p<0.05)。下肢柔軟性と各角度の関係では、成長期では腰椎骨盤角とFFD、HBD、ハムストリングス、下腿三頭筋の伸張性、股関節角とFFD、HBD、トーマステスト、ハムストリングスの伸張性、足関節角とHBD、下腿三頭筋の伸張性、成人では胸腰椎角とトーマステスト、腰椎角と下腿三頭筋、腰椎骨盤角とトーマステスト、股関節角とFFD、ハムストリングスの伸張性、トーマステストの間に相関がみられた(p<0.05)。下肢柔軟性と骨盤移動量の間には成長期、成人とも相関はみられなかった。
    【考察】成人と比べ成長期では体幹屈曲時に骨盤前傾が不足し、脊椎の過剰な動きを生じやすく、腰痛発生の一要因になると考えられる。より複雑な動きを要求されるスポーツ場面ではさらに股関節での姿勢制御が不十分になると考えられる。成長期のスポーツ障害予防の一つには、柔軟性の獲得だけではなくストレスの少ないスポーツ動作の獲得が必要となる。
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