理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 578
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理学療法基礎系
間葉系幹細胞が骨・軟骨へ分化するメカニズム
Rhoの活性に着目して
*梅田 知佳河原 裕美吉元 玲子佐々木 輝呉 樹亮弓削 類
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キーワード: Rho, 間葉系幹細胞, 再生医療
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抄録

【目的】 間葉系幹細胞からは,骨,軟骨,脂肪,筋,神経などの組織を作り出すことができる.すでに整形外科領域においては,自家骨髄間葉系幹細胞を培養し,再び損傷部位または欠損部位に戻す,修復・再生治療が行われている.骨髄から血液以外の細胞への分化は非常に低い割合でしか起こらないといわれており,細胞の持つ多分化能を機能修復に利用するためには,その分化のメカニズムを解明し,目的とする細胞へ効率よく分化させる方法が必要となる.第40回大会では,ヒト間葉系幹細胞に分化誘導を行った時の骨芽細胞と軟骨細胞の形態,特に細胞骨格に差異があることを報告した.
間葉系幹細胞の分化の決定には,細胞の形態や細胞に生じている張力,そして低分子量Gタンパク質Rhoの活性が関与していることが示唆されている.そこで今回は,間葉系幹細胞に骨芽細胞と軟骨細胞へ分化誘導を行い,その細胞におけるRhoの活性に着目をして研究を行った.


【方法】ヒト間葉系幹細胞を3000 cells/cm2の密度で培養皿に播種し,37°C,5 %CO2,95%airの条件で培養した.骨芽細胞に分化誘導した骨芽群と,軟骨細胞に分化誘導した軟骨群,分化誘導を行わない増殖用培地で培養した対照群の3群に分けた.分化誘導開始日(set 0)と分化誘導3日後と7日後にサンプリングを行った.分子生物学的解析としてwestern blotとRT-PCRを行った.western blotでは,Rhoについて経時的な変化を3群間で比較した.RT-PCRでは,骨芽細胞と軟骨細胞に特異的なマーカーであるmRNAの発現を調べた.形態学的変化は,位相差顕微鏡にて細胞形態を観察した.また,細胞骨格であるアクチンフィラメントと細胞膜加担タンパク質であるビンキュリンを免疫染色し,蛍光顕微鏡で観察した.

【結果】骨芽群では,主に細胞を形作る細胞骨格であるアクチンファイバーは多く観察されたが,ストレスファイバーは形成せず,ビンキュリンの発現も少なかった.一方,軟骨群では,ストレスファイバーが多く形成され,ビンキュリンの発現数も多く,扁平な細胞ほどフォーカルコンタクトの発現数が多いという説を裏づけることができた.また,細胞の分化方向の形態学的差が骨,軟骨で変化し,細胞内シグナル伝達系のRhoの活性にも変化が起こるという結果を得た.

【考察とまとめ】ストレスファイバーが多く形成された軟骨群においてRhoの活性が高く,一つのヒト間葉系幹細胞から骨,軟骨の細胞が造られる現象の一端を捉えることができた.今後は,骨・軟骨の再生医療を行った場合の幹細胞における物理的刺激応答に関する研究を行い,理学療法との接点に関わる研究へと展開したい.

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© 2006 日本理学療法士協会
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