理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 591
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理学療法基礎系
飼育環境の違いがマウスの自発活動性と空間認知に及ぼす影響
新たなリハビリテーション介入の可能性
*宮本 満杉岡 幸三三木 明徳
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キーワード: 豊かな環境, 活動, 学習
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抄録

【目的】従来より動物実験において、豊環境下での飼育が学習能力の向上や脳の形態学的・生化学的変化をもたらすことが指摘されている。これらの効果は主に若齢期の動物において確認されているが、比較的高齢期の動物においても同様の効果が報告されている。これらの知見は、生涯にわたって脳に可塑性があること示唆するものであり、リハビリテーション介入場面においても重要な基礎的データーを与えるものと考えられる。しかし、環境下での運動の質という観点から、より多様な環境を考慮した飼育条件を設け、それが学習や活動にどのような効果をもたらすかについて比較した報告は少ない。そこで本研究ではより細分化した飼育条件を設け、飼育環境条件および動物の週齢を変数として、それが自発的活動や空間認知学習の発現にどのような影響を与えるかについて検討した。

【方法】C57/BL雄性マウスを用いて、実験1では3週齢から飼育を始める離乳期条件、実験2では12週齢から飼育を始める成体期条件下で、以下の4群に分類した:様々な道具を備え、複雑な探索活動を可能にする環境で群飼育した豊かな環境群(EE群)、ランニングホイ-ルのみを備えた環境で群飼育したランニング群(RW群)、遊具などの対象物を置かない環境で群飼育した対照群(CT群)、および小さな飼育箱に単独で飼育した貧しい環境群(IP群)。以上の条件下で42日間飼育した後、明期および暗期での自発活動量を測定するとともに、モリス型水迷路での空間認知の分析を行った。

【結果】自発活動量の分析において、離乳期・成体期条件ともにIP群は、明期および暗期を通じて多動傾向を示した。一方、EE群、RW群、CT群は離乳期・成体期条件ともにIP群に比べて自発活動量は少なく、特にこの傾向はEE群において顕著であった。水迷路での空間認知学習は、離乳期条件においてEE群が速やかな空間認知を獲得したのに対し、IP群は空間認知の獲得が遅延した。RW群、CT群は両者の中間程度の成績を示した。しかし成体期条件においては、このような群間差はまったく認められなかった。

【考察】本研究により、若齢期からの豊環境下での飼育が活動性や学習に関して正の効果を与えるものと考えられ、成体期以降の豊環境下での飼育においても、動物の活動性に正の効果をもたらす可能性が示唆された。一方、若齢期からの貧しい環境下での飼育は、活動性や学習に悪影響を与えるとともに、成体期以降においても行動異常をもたらす可能性を示した。一方、単純な運動であるランニングのみが可能な飼育条件は、離乳期、成体期条件ともに活動性や学習にほとんど効果をもたらさなかった。故に運動そのものよりも、飼育環境の豊富さが活動性や学習に対してより正の効果をもたらすことが推察され、リハビリテーション介入場面においても障害者を取り巻く環境を考慮していくことの重要性が示唆された。

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© 2006 日本理学療法士協会
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