抄録
【目的】H反射はα運動神経の興奮性の指標となるほか、低周波数の振動刺激(Vib)によって抑制されることが報告されている(Desmedt JE, 1978)。我々は、昨年本学会で下腿三頭筋と同髄節支配の傍脊柱筋や大殿筋への30Hz Vibが下腿三頭筋H反射を抑制することを報告した。また中枢神経系および筋骨格系疾患の関節可動域制限に対して、原因四肢骨格筋(前枝支配)と同髄節の傍脊柱筋(後枝支配)に30Hz Vibを加えたところ顕著な効果があった(沼田、2002)ことから、前枝支配筋と後枝支配筋の神経活動には関係があることが示唆された。本研究ではさらに刺激深度の影響について調べた。
【方法】本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した。対象はインフームドコンセントをとり承諾の得られた学生15名(平均年齢21.5±2.1歳)で、問診にて自覚的に腰痛がある者は10名(腰痛群)、無い者は5名(非腰痛群)だった。実験には振動器(MyoVib:三協機械社製)、筋電計(neuropack8:日本光電社製)を使用した。刺激深度は体表から0、1、2cmの深さとし、それぞれの深さで25Hz Vibを加える場合(各0cmVib、1cmVib、2cmVib)と加えない場合(押し込み0cm、押し込み1cm、押し込み2cm)、体表面に振動子を当てることなく25Hz Vibを加えた場合(安静時Vib)および条件なし(H-control)のH反射を測定した。データ処理は、各施行で複数得られたH反射振幅を読み取り、その振幅に対するMmaxの割合(H/Mmax)を算出し、それらの平均値を各施行直前のH-controlのH/Mmaxとの差で示した。深度比較には一元配置分散分析、群間比較には二元配置分散分析(共にBonferroni法で多重比較)を用いた(有意水準は5%未満)。25Hz VibはH反射測定側で下腿三頭筋と同髄節のL5傍脊柱筋へ加えた。尚、体表面から押し込む深さの基準は最大吸気時とした。
【結果】Vib時の深さが深くなるほどH/Mmax差が大きくなった(P<0.0001)。0cm・1cm・2cmVibのH/Mmax差は押し込み0cm・1cm・2cmのそれに比べて有意に抑制された(p<0.01)。2cmVibのH/Mmax差は0cm・1cm・安静時Vibのそれに比べ、有意に抑制された(p<0.01)。腰痛群は非腰痛群に比べ、すべての深度のvibでH/Mmax差が有意に小さかった(p<0.05)。
【考察】後枝支配の傍脊柱筋への25Hz Vibが前枝支配の下腿三頭筋のH反射を抑制したが、刺激深度が深いほどその作用が強かった。これは深度が増すと興奮する求心性インパルス数も増加したためと考えられた。また、腰痛があると抑制の程度が悪く、腰痛者の筋緊張状態を反映している可能性が考えられた。