主催: 社団法人日本理学療法士協会
【目的】
起立動作は日常生活において繰り返し行われる動作の一つであり、この動作の障害は高齢者や障害者の日常生活の自立度を大きく左右する。この研究では30秒椅子立ち上がりテスト(以下、CS-30)を用いた起立動作能力と排泄の自立度の関係について検討した。
【対象と方法】
通所リハビリテーションを利用する尿意ならびに便意に問題がなく、認知症や中枢神経疾患を有さない高齢者60名を対象とした。施設内のトイレを自立して安全に利用可能か否かで排泄自立群と排泄自立困難群に分類した。CS-30はJonesらの方法を日本人用に修正した中谷らの方法に準じた。昇降可能な椅子を用い、股・膝関節90°屈曲位、足関節0°になるよう高さを調整した。測定開始肢位は両手を胸の前で組み、両足を肩幅程度に広げさせ、座面の中央部よりやや前方に座らせた座位とした。課題は30秒間での反復起立とし、検者の合図にしたがい測定を開始した。全力で反復起立を行うことを条件に、起立時は股・膝関節が完全に伸展するよう指示した。その後、再び着座するまでの一連の動作を1回とし、30秒間での反復回数を測定値とした。起立時に股・膝関節が完全に伸展していなかった場合にはその回数を測定値から減じた。起立時の股・膝関節の完全伸展に関する判断は測定時に撮影したビデオ記録に基づいて行った。測定は1回とし、起立の途中で30秒に達した場合は1回の測定値としてカウントした。
【結果】
排泄自立群(n=36)ならびに排泄自立困難群(n=24)のCS-30の平均はそれぞれ9.4±4.8回および2.5±2.0回であり、排泄自立群に比べ排泄自立困難群で有意な低下が認められた(p<0.01)。判別特性分析では、5.5回の起立回数を境に排泄自立群と排泄自立困難群を判別することが可能であった(判別的中率94.4%・感度85.0%)。
【考察】
今回の結果から、自立した排泄動作を可能とするにはこの程度の起立動作能力が必要であると考えられた。今回の排泄自立ならびに自立困難に関する判断は通所施設内のトイレ利用の可否に基づいて行った。しかしながら、各個人を取り巻く在宅での環境は個々で異なるため、今回の結果をすぐに臨床で活用するには限界があると考えられる。したがって、一つの判断材料として用いるのが妥当であろう。