抄録
【目的】ハンドヘルドダイナモメーター(以下HHD)を用いた肩甲骨の挙上(以下ELE)・内転(以下ADD)・前方突出(以下PRO)の筋力測定についてはほとんどされていない。今回、我々はHHDを用いて肩甲骨周囲筋の筋力測定を試みた。また、肩甲骨周囲筋の筋力が肩関節内旋・外旋の筋力に影響を与えると考え、肩甲骨周囲筋力と肩関節内旋・外旋筋力との関係について検討した。
【方法】対象は肩関節に疾患の無い7名(男性3名、女性4名、平均年齢24±3.4歳) 測定方法は、ELEでは腹臥位で鎖骨中央部にHHDを当て測定した。ADDでは座位で上肢を肩甲骨面上外転90°に設定し、柱に固定したHHDを前腕に固定したベルトで肩甲骨内転方向に引いて測定した。PROでは座位にて肘頭下部でHHDを押し当て測定した。肩関節内旋・外旋筋力については、HHDを用いて1st positionの内旋(以下IR1)・外旋(以下ER1)、2nd positionの内旋(以下IR2)・外旋(以下ER2)の筋力測定を行った。HHDは、壁や皮ベルトを用いて固定した。算出された筋力は、平均値を体重で除し体重比とした。また、ELE・ADD・PROの平均値(以下SPA)も算出した。ELE・ADD・PRO、SPAと肩関節内旋・外旋筋力との相関について検討した。相関の判定には、Spearman順位相関係数検定(P<0.05)を使用した。
【結果】筋力測定結果は、ELE 54±22%、ADD 41±15%、PRO 41±24%、IR1 19±5%、ER1 11±4%、IR2 14±3%、ER2 13±3%であった。ELE、SPAともにIR2との間に正の相関を認めた。
【考察】ELEとIR2において相関が認められたのは、2nd positionでの肩甲骨は上方回旋位となりELE筋でもある僧帽筋上部繊維が肩甲骨の固定筋として作用しかつ、IR2時に肩甲骨は挙上・前方傾斜することによりIR2の筋力を補助しているためと考えた。2nd positionでは、IR2は上腕骨の内旋とともに肩甲骨が胸郭から離れ不安定な状態になるが、ER2 は、上腕骨外旋とともに肩甲骨が胸郭に近づき胸郭との接触により固定されると考えられる。またIR2は、ER2に比べ動作に関与する筋が多く、結果からもIR2は筋力が大きい事から肩甲骨に作用する力が大きくなり不安定な状態になると考えられる。上記から安定性を得るには筋により胸郭に肩甲骨を引きつける求心性の固定力が必要であり、そのためSPAとIR2の相関があると考えた。2nd positionでの肩関節内旋動作の筋出力には、肩甲骨周囲筋の固定筋としての作用が重要であると考えた。