抄録
【目的】二重積(Double Product; 以下, DP)は心筋酸素摂取量と強い相関を示し, 漸増運動に対して指数関数的に上昇し, 運動中における心臓の負担度を間接的に推測する指標として有用であるとされている。特に二重積屈曲点(Double Product Break-point; 以下, DPBP)は無酸素性作業閾値(Anaerobic Threshold; 以下, AT)との相関が強く, 簡便にATを測定する指標であるとされている。しかし, 一般的なデジタル自動血圧計を用いてDPBPを測定した, という報告は見当たらない。本研究の目的は, 一般的なデジタル自動血圧計を用い, 健常成人のDPBPの測定と再現性について検討し, DPBP法の普及に寄与するために基礎的データを提供することである。
【方法】被検者は本研究の主旨を理解した上で同意を得た健常男性5名(26.1±2.9歳)であった。多段階運動負荷による下肢ペダリング運動にて実施し, ペダル回転数が40rpmを維持できなくなった時点を終了とした。運動中のSBP, HRは上腕式デジタル自動血圧計(オムロン社製 HEM 757; 以下, 上腕式自動血圧計)を用いて右上腕動脈にて30秒ごとに記録した。測定肢位は上肢下垂位にて椅子に深く座り, ペダル回転時に膝関節が楽に回転できる肢位とした。DPBP, SBP, HRの再現性は, 1ヶ月以内にtest・re-testにて検討した。ピアソンの積率相関係数, student-t検定を用い, 有意水準を5 %未満とした(p<0.05)。
【結果】全被検者の運動中の仕事量とDPの関係は, 3次回帰式で表すことができた。test・re-testの結果, 運動中のSBP, HR, DPBPは有意差を認めなかった。平均誤差はHR, DPBP, SBPの順に少なく、全て10% 以内であった。DPBPのピアソンの積率相関係数はr=0.90となる有意な相関を認め, 決定係数は0.81であり, 高い寄与率であった。
【考察】今回の結果から, 上腕式自動血圧計による運動中のSBP, HR, DPBPの測定は可能で, 再現性も高いことがわかり, 簡便にA Tを測定できる方法として, 有用であることがわかった。また呼気ガス分析や乳酸測定と同様に信頼できる方法であることを示唆するものとなった。
【まとめ】5名の健常男性を対象として, 上腕式自動血圧計によるDPBPの測定と再現性について検討した。その結果, test, re-test間で運動中のSBP, HR, DPBPは有意差を認めなかった。相関係数はr=0.90となる有意な相関を認め, 再現性が高かった。この方法によるDPBPの測定はATを簡便に測定でき、呼気ガス分析や乳酸測定と同様に信頼できる方法であることを示唆するものとなった。