抄録
【はじめに】
近年大腰筋が腰椎の支持性に関与するという報告がされている.そこで今回我々は,70歳代女性における大腰筋面積を健常群,腰椎変性疾患群,および骨粗鬆症群とで比較し,それぞれの関係性について検討したので報告する.
【対象】
当院にてMRIで撮影可能であった70歳代女性,62名とした.それらを3群に分類し,35名を健常群(平均73.5±2.7歳),腰椎変性疾患を認めるが骨密度は正常である14名を腰椎疾患群(平均73.8±3.0歳),腰椎変性疾患を認め骨粗鬆症と診断された13名を骨粗鬆症群(平均75.6±3.4歳)とした.
【方法】
大腰筋の面積をMRI(日立社製,AIRIS2)にて評価した. 撮影条件はT2強調画像で行い第4腰椎上縁レベルでの横断像を用いて左右の大腰筋の断面積を計測した.大腰筋面積は左右の和を用いた.また骨密度はDXA(Hologic 社製,QDR4500)を用いて,第2腰椎から第4腰椎までを測定した.対象の3群間について大腰筋面積を比較分析した.なお大腰筋面積は身長で除した数値(大腰筋面積比)を用いた.統計処理は分散分析法を用い,有意水準は5%とした.
【結果】
大腰筋面積比の平均は,健常群8.39±1.18mm2/cm,腰椎疾患群7.42 ±1.97mm2/cm,骨粗鬆症群6.46±1.14mm2/cmであった.健常群と骨粗鬆症群との間に有意な差が認められた(p<0.01).また他の群間には有意な差は認められなかったものの,骨粗鬆症群,腰椎疾患群,健常群の順で大腰筋面積比が小さい傾向にあった.
【考察】
今回,70歳代女性の骨粗鬆症を有する群において健常群と比較し,有意に大腰筋面積比が小さいという結果から,腰椎の弱化と大腰筋機能の低下との関連性が示唆された.また腰椎変性疾患を有する群は健常群と比較し大腰筋面積比が小さい傾向にあり,腰椎疾患を有する場合においても健常群と比較し,大腰筋が十分に機能していないと推察された.今回の研究では腰椎周囲の他筋群について考慮しておらず,大腰筋機能と身体機能との関連性は明確でない.しかしながら腰椎に対して大腰筋は圧縮作用をもつという先行研究と同様に,高齢者の姿勢維持に重要な役割を果たしていることが今回の研究において示唆された.