理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 848
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理学療法基礎系
上部および下部腹直筋における筋機能の相違
*三浦 雄一郎福島 秀晃鈴木 俊明
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抄録

【はじめに】
腹直筋は腹筋群の一つであり、体幹屈曲の主動作筋である。外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋が側壁にて層状の構造を呈しているのに対し腹直筋は単独で縦走している。しかし、その構造は第一に4~5つの腱画にて区分されていること、第2に腹直筋鞘の中に納まっていることなど特徴的である。そのため腹直筋の上部、下部の筋線維に機能の相違があると推察され、筋電図学的分析がなされてきた。しかし、その違いは未だに明確にされていない。そこで今回、胸郭と骨盤の連結が比較的少ない基本肢位での肩関節屈曲運動を運動課題とし、腹直筋の上部と下部の筋機能を筋電図学的に分析したので報告する。
【対 象】
対象はインフォームド・コンセントの得られた整形外科的、神経学的に問題のない健常者5名、両側10例とし、平均年齢は29.2歳であった。
【方 法】
測定筋は上部腹直筋、下部腹直筋、外腹斜筋とした。筋電計はmyosystem 1200(Noraxon社製)を用いて測定した。電極部位はNgらによる研究結果を参照とした。座位で体幹の前傾角度を30度に設定し、上肢を下垂させた肢位を基本肢位とした。基本肢位にて肩関節を30°、60°、90°、120°、150°位で保持させた。負荷は体重の3%の錘を肩関節内外旋中間位、前腕回内外中間位にて把持させた。測定時間は5秒間とし、3回施行した。基本肢位における筋積分値を基準値とし、各角度における筋積分値相対値を求めた。3回の平均値をもって個人のデータとした。統計処理は分散分析をおこない、事後検定にはTurkeyの多重比較検定を用い、有意水準を5%以下とした。
【結果および考察】
肩関節屈曲角度の増加に伴い、外腹斜筋と上部腹直筋は有意な筋活動の増加を認めた。下部腹直筋に関しては肩関節屈曲角度を増加させても筋活動の変動が少なかった。肩関節屈曲角度の増加により前鋸筋の作用で肩甲骨を上方回旋させるが、この時同側の外腹斜筋による胸郭安定化が必要になる。本研究において肩関節屈曲角度の増加に伴い外腹斜筋の筋活動は漸増的に増加した。更に外腹斜筋の強い筋収縮を発揮させるためには腹直筋の収縮によって腹直筋鞘の緊張を高めることが重要と考える。本研究結果は肩関節屈曲運動に必要な胸郭安定化に外腹斜筋と上部腹直筋が関与することを示唆している。Filhoらは体幹屈曲および背臥位での四肢の空間保持を含む7つの運動課題を健常者に実施させたが腹直筋の各部位の相違は明確にならなかったと報告している。これは胸郭と骨盤を連結させる要素が入った運動課題では上部と下部腹直筋が共に参加するため機能に相違が認められなかったと考えることができる。しかし、本研究結果では胸郭と骨盤を連結させる機能を求めない場合、肩関節屈曲に関連する胸郭安定化のために腹直筋の各部位に相違が生じることが確認された。 

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© 2006 日本理学療法士協会
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