抄録
【はじめに】我々は脊髄損傷者が車いす上除圧姿勢において坐骨部の圧力に与える影響を第40回日本理学療法学術大会にて報告した。今回は体幹の姿勢を変える能力において大きな違いがあると考えられる頸髄損傷者(頸損群)と胸・腰髄損傷者(脊損群)について除圧効果を検討したので報告する。
【方法】対象は当センター入院中の慢性期脊髄損傷者29名(頸損群12名(C6-C8)、脊損群17名(Th5-L1))である。方法は脊髄損傷者に自然な車いす上座位および4つの除圧姿勢を指示し、坐骨部の圧力を測定した。基本姿勢は両上肢を膝の上にのせた車いす上座位(以下基本座位)である。除圧姿勢は1.車いすのフレームの下方に手部が届くよう上体を前方に倒し、体重を前方に移動させる姿勢(以下前屈位)、2.一側上肢を左アームレストまたは左駆動輪におき、上体を側方に傾斜して体重を側方移動させる姿勢(以下側屈位)、3.車いすのグリップに一側上肢(左)を引っかけ上体を後側方に倒した姿勢(以下引っかけ位)、4.車いす座位のまま介助者にて車いす自体を35度後方に倒した姿勢(以下後方傾斜位)である。計測には、ニッタ(株)製圧力計測装置Teskcan Pressure Measurement Systemを使用した。得られた圧力に関するデーターから左右坐骨結節部の座面最高圧力値を算出した。
【結果】基本座位との比較において頸損群では前屈位との間に左右坐骨部圧力値共に有意差(p<0.01)がみられ、側屈位との間では右側坐骨部圧力値にて有意差(p<0.05)がみられた。また、側屈位の左坐骨部圧力値、引っかけ位・後方傾斜位の左右坐骨部圧力値との間には有意差はみられなかった。脊損群においては前屈位との間に左右坐骨部圧力値共に有意差(p<0.01)がみられ、側屈位との間では左右坐骨部圧力値共に有意差(p<0.01)がみられた。また、引っかけ位・後方傾斜位の左右坐骨部圧力値との間には有意差はみられなかった。
【考察】今回の結果より脊髄損傷者においては前屈位での除圧効果が損傷レベルに関わらず最も有効であると考える。体幹の姿勢を大きく変化させることができる胸・腰髄損傷者では、側屈位は一方の体幹の傾斜で左右共に除圧効果がみられ有効であると考える。これに対して体幹の姿勢を大きく変化させることが難しい頸髄損傷者では、傾斜する角度が少ないと考えられる。したがって側屈位は体幹を傾斜する反対側の坐骨部のみ除圧効果が期待できる。このことにより頸髄損傷者が側屈位で除圧を行うときには左右共に行うことを指導する必要があると考える。従来、頸髄損傷者で行われてきた引っかけ位や介助者が行う方法である後方傾斜位では除圧効果はみられなかった。プッシュアップ動作以外の除圧指導を行う場合には前屈位、または左右の側屈位を指導することが望ましいことが示され、除圧指導を行う際の基準が表されたと考える。