抄録
【はじめに】我々は先行研究において,自作の腰椎骨盤固定ベルト(以下ベルト)の効果について検討してきた.その結果,ベルト装着直後,脱ベルト後において重心の前方偏位と骨盤前方傾斜角度の増加を確認した.今回,ベルトの有効性を検証するにあたり市販コルセット装着後端坐位と努力端坐位の経時的変化を検討したので報告する.
【対象と方法】対象は健常成人7名(平均27.2±5.2歳).測定肢位は股,膝90°屈曲位で足底を接地する端坐位とし,上前腸骨棘(ASIS)と上後腸骨棘(PSIS)にマーカーを付け,3m前方の指標への注視を指示した.姿勢測定にはデジタルカメラ(Canon社製)を,重心測定には下肢荷重計(アニマ社製G-620)を用いた.まず通常端坐位を撮影し重心動揺を30秒間計測した.次に各条件で端坐位を5分間保持した後,直後,5分,10分,15分後の端坐位撮影と重心動揺を計測した.コルセット装着では腰椎生理的前彎,骨盤軽度前傾位で装着し5分間保持後,脱コルセットでの経時的変化を15分間計測した.努力端坐位ではマーカーを耳垂,肩峰,腸骨稜頂点にも付け矢状面の端坐位姿勢をビデオカメラ(Sony社製)にて3m前方の画面にリアルタイムで映した.3つのマーカーと,ASISとPSISのマーカーを指標として自己調節し,腰椎生理的前彎,骨盤軽度前傾位で5分間の保持を指示した.その後映像を遮断し経時的変化を15分間計測した.計測結果から各々の前後方向動揺平均中心変位(DEV OF YO),骨盤傾斜角度(PTA)を比較した.PTAはASISとPSISを結ぶ線と水平線との夾角を計測し,DEV OF YOはコルセット装着時または努力調節時を基準とし各端坐位の変化率を求めた. 統計処理は反復測定分散分析を,多重比較検定にはDunnett法を用い危険率5%未満とした.
【結果】PTAはコルセット装着で前方傾斜角度は増加したが有意差はなく,努力端坐位で通常-13.5±6.6°,映像遮断直後-2.3±4.0°,5分後-3.7±3.5°,10分後-5.3±4.3°,15分後-6.1±4.5°と前方傾斜角度が増加した(p<0.05).DEV OF YOはコルセット装着で通常-1.5±0.8cm,脱直後-0.2±0.2cm,5分後-0.4±0.3cm,10分後-0.6±0.3cm,15分後-0.7±0.8cmと前方重心偏位量が増加した(p<0.05).努力端坐位では通常-3.0±2.0cm,映像遮断直後-0.1±0.3cm,5分後-0.6±0.9cm,10分後-0.9±1.3cm,15分後-1.0±1.3cmと前方重心偏位量が増加した(p<0.05).
【考察】先行研究よりベルトの効果として骨盤前傾,腰椎前彎方向への制御が容易に行えることが挙げられる.コルセットは骨盤への矯正や方向の制御が不十分なため経時的に前傾は減少し,それに伴う体幹屈曲が重心を前方偏位させたと考える.努力端坐位ではアライメントの持続性は認められたが,頚部,腰背部痛の訴えが多く姿勢保持による過剰な筋活動の出現が推測された.よって,運動方向の制御と姿勢保持においてベルトの有効性が示唆された.