抄録
【目的】
この研究の目的は、人工膝関節全置換術(TKA)後の術後早期の疼痛が、術後早期の関節可動域改善、および最終獲得角度に及ぼす影響を明らかにすることである。
【対象】
2002年4月から2003年2月までの間に、市立吹田市民病院でTKAが実施された患者のうち、術後1年以上経過した時点の関節可動域(最終獲得角度)を計測することができた30例33膝を対象とした。平均年齢71.5±7.71歳、男性3例4膝、女性27例29膝であった。疾患の内訳は、変形性膝関節症27例30膝、慢性関節リウマチ3例3膝であった。術後1年以上経過した時点で疼痛を訴えるものはいなかった。
【方法】
TKA後1~4週の各週と、術後1年以上経過した時点の膝関節角度を計測した。また術後理学療法開始時(術後3日または4日)および術後1~4週時の疼痛を評価した。膝関節角度は、屈曲・伸展の他動・自動角度を計測した。疼痛の評価にはnumerical rating scaleを用い、背臥位での膝関節自動屈伸時の疼痛の強さを評価した。解析として、術後1~4週時の膝関節角度と疼痛との間の相関を調査した。また最終獲得角度と、術後理学療法開始時および術後1~4週時の疼痛との間の相関を調査した。危険率1%以下を有意とした。
【結果および考察】
伸展については、術後疼痛と術後早期および最終獲得角度との間で相関は無かった。術後疼痛は伸展角度改善にそれほど影響をおよぼさず、疼痛が強いからといって伸展角度が悪くなるとは限らないと考えられた。
屈曲については、術後早期の疼痛と屈曲角度との間で各週とも負の相関があり、3週時で一番相関が強くなっていた(p<0.001)ことから、術後の疼痛が強いと屈曲角度改善は悪くなり、特に3週時でその影響を受けやすいと考えられた。また最終獲得角度と術後理学療法開始時の疼痛との間に相関は無かったが、術後1~4週時の疼痛との間には負の相関があり、3週時から4週時と急激に強くなる(p<0.001)傾向にあったことから、屈曲角度改善のためには、術後早期に強い疼痛が存在していたとしても、それを3週以降まで長引かせないことが重要であると考えられた。
3週時の疼痛との間で相関が強かった理由としては、痛みが強いことによる膝関節の可動範囲および運動頻度の減少と、侵襲組織が不可逆的な癒着に進展する時期と重なることに原因があるのではないかと考えられる。
TKAでは術中に獲得された可動域をいかに維持できるがポイントとなる。麻酔覚醒後その可動域獲得を妨げる一番の原因が疼痛であることに疑いの余地はない。術後疼痛の原因は、術後炎症の増悪によるところが大きい。したがって、アイシングなどの炎症鎮静化に対する取り組みの重要性が示唆される。また炎症を増強させるような強制的な可動域運動も不適切であると推察される。